(第127号)固定資産税の納税義務者は所有者課税が原則(更新版)

(更新版・令和7年7月)

所有者課税の原則とは

 固定資産税の納税義務者は、毎年1月1日(これを賦課期日と言います)における固定資産の所有者(正確には登記簿上の所有者又は固定資産補充課税台帳に登録されている者)となります。

<所有者課税の原則>

 
<固定資産税の納税義務者>-地方税法343条1~3項
「1 固定資産税は、固定資産の所有者に課する。
   2 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録がされている者をいう。
この場合において、所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録がされている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている第348条第1項の者が同日前に所有者でなくなつているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。
   3 第1項の所有者とは、償却資産については、償却資産課税台帳に所有者として登録されている者をいう。」

所有者課税の例外(使用者課税)

 令和2年度の地方税法改正により、所有者以外に使用者にも課税する「使用者課税」が可能となっています。
 それまでは、震災、風水害、火災その他の事由により不明である場合に限って「使用者を所有者とみなす」(343条4項)ことができたのですが、343条5項が追加され「存在が不明である場合」の所有者課税が認められました。

災害等によって所有者の所在が不明の場合

 災害等により所有者の所在が不明である場合(所有者が誰であるか分からない場合、生死が分からない場合、住所ないし居所がわからない場合等)には、使用者を所有者とみなして固定資産税を課税することができます。
 また、その不明である原因は、震災、風水害、火災、戦災、海難等であることを要し、引っ越しによって転出先の住所が不明でるというような日常の一般的な事由により不明である場合は含まれません。

<災害等によって不明な場合>-地方税法343条4項
「 市町村は、固定資産の所有者の所在が震災、風水害、火災その他の事由により不明である場合には、その使用者を所有者とみなして、固定資産課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課することができる。この場合において、当該市町村は、当該登録をしようとするときは、あらかじめ、その旨を当該使用者に通知しなければならない。」

調査を尽くしても所有者の所在が不明の場合

 市町村が住民基本台帳及び戸籍簿等の調査並びに使用者と思われる者その他の関係者への質問その他必要な調査をしても所有者の存在が不明の場合には、使用者を所有者とみなして固定資産税を課税することができます。

<調査を尽くしても所在が不明な場合>-地方税法343条5項
「 市町村は、相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行つてもなお固定資産の所有者の存在が不明である場合には、その使用者を所有者とみなして、固定資産課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課することができる。この場合において、当該市町村は、当該登録をしようとするときは、あらかじめ、その旨を当該使用者に通知しなければならない。」

テナントが取り付けた家屋の附帯設備

 テナントが、建築設備、間仕切等の附帯設備を家屋に取り付けて、これらの附帯設備が家屋に付合する場合は、当該附帯設備は家屋の所有者が所有するものとされます(民法242条)。

 しかし、実際に当該附帯設備を使用収益しているのは、家屋の所有者ではなくテナントであることから、附帯設備を取り付けた者(テナント)を所有者とみなして固定資産税(償却資産)を課税することができるものとされています。

<テナントが取り付けた家屋の附帯設備>-地方税法343条10項
「 家屋の附帯設備であつて、当該家屋の所有者以外の者がその事業の用に供するため取り付けたものであり、かつ、当該家屋に付合したことにより当該家屋の所有者が所有することとなつたもの(以下この項において「特定附帯設備」 という。)については、当該取り付けた者の事業の用に供することができる資産である場合に限り、当該取り付けた者をもつて第一項の所有者とみなし、当該特定附帯設備のうち家屋に属する部分は家屋以外の資産とみなして固定資産税を課することができる。」

納税義務者が変更した場合

 固定資産税の納税義務者は、毎年の賦課期日(1月1日時点)で登記又は登録している者ですが、その納税義務者が変更した場合はどうなるかです。

 ここに、所有者XからYに所有権移転された場合、その移転が①賦課期日前と②賦課期日後かによって違いがあります。

<賦課期日前後に所有者が交代>

賦課期日前に所有者XからYに所有権移転した場合

 賦課期日前にXからYに所有権が移転され、所有権移転登記もされていれば、問題なくYが年度納税義務者となります。

 しかし、所有権が移転されているにもかかわらず、賦課期日現在でXからYに所有権移転登記がされていない場合には、Xがその年度の納税義務者となってしまいます。

 固定資産税は、登記簿に登記されている土地及び家屋については、登記簿上の所有者が納税義務者となり、真実の所有者が誰であるかにかかわらず登記簿上の所有者に対して課税されることになります。

 なお、登記所は、土地又は建物の表示に関する登記をしたとき、所有権等の登記の抹消、登記名義人の氏名・住所等の変更をしたときは、10日以内にその旨を当該土地又は家屋の所在地の市町村長に通知をすることとなっています。

<登記所からの通知等>-地方税法第382条1項
「 登記所は、土地又は建物の表示に関する登記をしたときは、10日以内に、その旨その他総務省令で定める事項を当該土地又は家屋の所在地の市町村長に通知しなければならない。」

賦課期日後に所有者XからYに所有権移転した場合

 賦課期日にはXが納税義務者ですので、年度途中でYに移転しても、その年度はXが納税義務者となります。

 ただし、売買による所有権移転の場合には、不動産業者により「固定資産税の精算」が行われるのが普通で、これにより、契約(決済)日以降の固定資産税はYの負担として、日割計算でその日以降の固定資産税分がYからXに渡されます。
 しかし、この場合でも、法的な納税義務者はXですので、精算時にはXが全納していることを条件とされています。

納税義務者が死亡した場合

 それでは、納税義務者が死亡した場合はどうなるかです。
 その場合も、その死亡が①賦課期日前と②賦課期日後かによっても違います。

<賦課期日前後に所有者が死亡>

賦課期日前に所有者Xが死亡した場合

 賦課期日前に所有者Xが死亡した場合、相続の遺産分割協議及び所有権移転登記が行われ、賦課期日現在の納税義務者が確定しているときは、その相続人(登記者)が納税義務者で問題ありません。

 ここで、問題となるケースは、所有者Xが死亡し法定相続人が複数いるが、遺産分割もされず不動産登記もXのままになっている場合です。

 この場合には、法定相続人全員が「現に所有している者」となり、法定相続人は「連帯納税義務」を負うことになります。
 「連帯納税義務」とは、仮に法定相続人が3名であったとした場合、その3名はそれぞれが全員分の納税義務を負うという意味ですので、「自分は3分の1のみ負担する」との主張はできません。

<連帯納税義務>-地方税法第10条
「 地方団体の徴収金を連帯して納付し、又は納入する義務については、民法第436条、第437条及び第441条から第445条までの規定を準用する。」

賦課期日後に所有者Xが死亡した場合

 この場合も法定相続人3名で遺産分割協議と所有権移転登記が行われている場合は、その固定資産を取得し登記名義人となった者が「事実上」の納税義務者となります。

 しかし、法定相続人3名の間で遺産分割協議が成立していない場合にどうなるかということです。
事例①の場合は、法定相続人3名の「連帯納税義務」でしたが、この事例②では「法定相続分の割合負担」で各自責任を負うということになります。

<相続による納税義務の承継>-地方税法第9条2項
「 相続人が2人以上あるときは、各相続人は、被相続人の地方団体の徴収金を民法第900条から第902条までの規定によるその相続分によりあん分して計算した額を納付し、又は納入しなければならない。」

<相続人からの徴収の手続>-地方税法第9条の2
「1 納税者につき相続があつた場合において、その相続人が2人以上あるときは、これらの相続人は、そのうちから書類を受領する代表者を指定することができる。
 この場合において、その指定をした相続人は、その旨を地方団体の長に届け出なければならない。
2 地方団体の長は、相続人の一人を指定し、その者を同項に規定する代表者とすることができる。」
 
2025/07/10/12:00
 

 

(第126号)固定資産税は毎年課税され、土地と家屋は3年毎に評価替え(更新版)

(更新版・令和7年7月)

固定資産税は毎年課税される

年間スケジュール(賦課期日)

 固定資産税の賦課期日は、毎年の1月1日になります。この賦課期日時点で当該年度の納税義務者と課税価格が決まってきます。

そして、毎年3月31日までに当該年度の価格を決定することになります。
また、固定資産税は「年度課税」ですので、課税(納付)期間は4月から翌年3月までとなります。

<年間スケジュール>

 

固定資産税の納期は4期

 固定資産税の納期は1期から4期となっていますが、地方税法で規定されている納期は標準納期で、全国の市長村での納期は必ずしも標準納期のみではありません。
 また、第1期で年度分を全額一括納付することも可能です。

(1)標準納期の場合
 固定資産税の納期は4月、7月、12月、2月の4期が標準納期として地方税法に定められています。

 なお、標準納期を4月、7月、12月、2月としているのには意味があります。
 その主な理由は、他の税金の納期と重ならないようにするための配慮です。
・ 所得税(申告の場合)の納期…3月
・ 市町村民税の納期…6月、8月、10月、1月
・ 軽自動車税の納期…5月
 これが全ての税金ではありませんが、これらの納期を見ますと、ほぼ毎月何らかの税金が課税されているのが分かります。

<固定資産税の納期>-地方税法第362条
「 固定資産税の納期は、4月、7月、12月及び2月中において、当該市町村の条例で定める。但し、特別の事情がある場合においては、これと異なる納期を定めることができる。」

(2)標準納期を採用している主な市
 千葉市、横浜市、川崎市、新潟市、静岡市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、北九州市、福岡市

(3)標準納期でない納期を採用している主な市
 ・4月、7月、9月、12月…札幌市、仙台市、岡山市
・4月、7月、9月、11月…浜松市、広島市
・4月、6月、11月、1月…さいたま市
・5月、7月、9月、12月…相模原市、熊本市
・6月、9月、12月、2月…東京23区 

納税通知書と課税明細書の送付

 毎年4月~5月上旬に固定資産税の納税通知書と課税明細書が納税義務者あてに送られてきます。

納税通知書は、市町村が固定資産税を徴収するための基本的な通知です。
 また、課税明細書は、固定資産税の課税内容を明らかにするためのもので、納税通知書とともに送られてきます。

固定資産税の「縦覧」制度と「閲覧」制度

 固定資産税の価格は、毎年3月31日までに決定され、4月~5月に納税通知書及び課税明細書が送付され、年4回の納期がスタートします。

 そして、毎年4月1日から第1期の納期限までの間、「縦覧」が行われます。

この「縦覧」とは、他の納税者の土地や家屋の評価額を確認することにより、自己の評価額の適正さを判断できるようにするために設けられているものです。

 つまり、「縦覧」は固定資産税の納税者が自分の価格と他の納税者の価格とを比較するために設けられている制度です。

<土地及び家屋価格等縦覧帳簿の縦覧>-地方税法第416条1項
「 市町村長は、固定資産税の納税者が、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る土地又は家屋について土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録された価格と当該土地又は家屋が所在する市町村内の他の土地又は家屋の価格とを比較することができるよう、毎年4月1日から当該年度の当該年度の最初の納期限の日までの間、その指定する場所において、土地価格等縦覧帳簿又はその写しを当該 市町村内に所在する土地に対して課する固定資産税の納税者の縦覧に供し、かつ、家屋価格等縦覧帳簿又はその写しを当該市町村内に所在する家屋に対して課する固定資産税の納税者の縦覧に供しなければならない。(中略)」

 なお、この「縦覧」制度と似ている制度として「閲覧」制度があります。

 「縦覧」は期間が決められていますが、「閲覧」は1年中可能で、納税義務者はいつでも自分の土地、家屋の課税状況を把握することができます。

<固定資産課税台帳の閲覧>—地方税法382条の2
「 市町村長は、納税義務者その他の政令で定める者の求めに応じ、固定資産課税台帳のうちこれらの者に係る固定資産として政令で定めるものに関する事項が記載をされている部分又はその写しをこれらの者の閲覧に供しなければならない(中略)。」

<閲覧と縦覧>

 

土地と家屋は3年毎に評価替え(3年間スケジュール)

3年単位のスケジュール

 次は、評価替えの3年単位のスケジュールです。

<3年単位のスケジュール>

 
(1)基準年度(評価替え年度)
 土地と家屋は3年毎に評価替えが行われ、課税標準となるべき価格が決定されます。直近では、令和3年度、令和6年度、令和9年度です。

(2)据置年度
 基準年度の間の年度で、原則として土地と家屋の価格が据え置かれます。

(3)価格調査基準日
 基準年度の前年に土地の標準宅地の価格(翌年1月1日現在)を内定します。

(4)土地の下落修正
 据置年度においても土地価格が下落している場合は下落修正が行われます。(下落修正は平成11年度から実施されています。)

基準年度における土地、家屋の評価

(1)土地の評価について
 土地の評価の基準としては、毎年の地価公示(1月1日現在)と地価調査(7月1日現在)の価格及び不動産鑑定士による標準宅地の鑑定評価が行われています。

 固定資産税の土地価格は、地価公示地価格、地価調査地価格及び標準宅地の価額の7割とされていますので、そこから3月末までに路線価の付設や各筆(画地)の評価を行うことになります。

(2)家屋の評価について
 家屋は新築以外の評価替えは、3年毎の基準年度に在来家屋の評価を行います。
在来家屋の計算方法は、前基準年度再建築費評点に築年数の経過年数に応じた経年減点補正率を乗じて求めますが、再建築費評点補正率も考慮されます。
 つまり、基本的には新築時の再建築評価額が継続されることになります。

据置年度における土地、家屋の評価

 据置年度においても、次の事項が発生した場合には評価、課税が行われます。

(1)新規の課税
 新しく新築された家屋及び新しく造成された土地の場合。

(2)価格の見直し
 土地の地目変更や家屋の新増築がされた場合。

(3)土地価格の下落修正
 土地の下落修正が行われる場合。

固定資産税の「審査の申出」

 価格に不服がある場合は、納税通知書の送付を受けた後3ヵ月以内に、固定資産評価審査委員会に対して「審査の申出」を行うことができます。
なお、この「審査の申出」は、原則として、3年毎の基準年度のみに行うことができるものです。

<価格に関する審査の申出>-地方税法432条1項
「 固定資産税の納税者は、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合においては、納税通知書の交付を受けた日後3ヵ月を経過する日まで、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。(中略)」

 ところで、固定資産税に対する不服対応として、①価格に対する不服と②価格以外の「処分」に対する不服の2通りあります。

 ①の場合は固定資産評価審査委員会に対して、②の場合は市町村長に対して申し出ることになります。②の場合は、例えば「固定資産税の課税処分などに対する不服がある場合」等ですが、その処分を行った市長村町に審査請求をすることができます。

固定資産評価審査委員会とは

 固定資産評価審査委員会は、市町村ごとに設置され、学識経験を有する者のうちから市町村の議会の同意を得て、市町村長が選任します。

 固定資産税の価格が固定資産評価審査委員会へ「審査の申出」をすることとされている趣旨は、価格が納税者の負担に直接重大な影響を持つものであることから、独立した合議制の機関で慎重に審査させることとされているからです。

つまり、固定資産税の価格を決定した市町村長以外の第三者が審査することにより、より公平性を担保させようとの仕組みである訳です。
 
2025/07/10/08:00
 

 

(第125号)固定資産税の歴史と「賦課課税方式」について(更新版)

(更新版・令和7年7月)

固定資産税の歴史はシャウプ勧告から

固定資産税の歴史的な流れ

 固定資産税は、土地、家屋、償却資産の三つの固定資産が課税客体となっていますが、いつからこのようになったのでしょうか。

 固定資産税は、第二次世界大戦後の昭和24年の「シャウプ勧告」に基づいて昭和25年に創設さ れました。

<「シャウプ勧告」とは>
 「シャウプ勧告」とは、アメリカの財政学者カール・シャウプを団長とする使節団によって昭和24年に、連合国最高司令官マッカーサーに提出された日本の税制改革に関する報告書のことです。

<固定資産税の歴史>

 
 この「シャウプ勧告」の中では、それまでの土地を課税客体としていた「地租」から土地へ、家屋を課税客体としていた「家屋税」から家屋へ引き継ぎ・統合した上で、新たに償却資産を課税客体に加えて固定資産税を創設することが勧告されました。

土地は「年貢制度」まで遡る

 土地に関する租税は、古代から現代に至るまで主要な税目の地位を保っています。

 近世の日本は、領主制の下で、領主ごとに土地に対する税が課されていました。
農村の土地には年貢が課されていたのに対し、都市は年貢が免除されることも多く無税地が大きな割合を占めていました。

 明治政府は、このような制度を廃して、全国の土地について統一的な基準で全ての土地地籍を把握し、その土地に税を課すことを目指し、明治6年に地租改正を始めました。

 地租改正における地籍調査と地価調査は、その土地の所有者自身による申請から出発することが原則になっていました。府県は、提出された地籍と地価の検査を行い、必要に応じて再調査や書類の補訂を指示し、地券台帳を作成し、地券台帳から土地所有者に地券を発行し土地の証書としました。

 この明治6年の地租改正によって、近世の石高(こくだか)制による貢租(年貢)制度は廃止され、私的土地所有を前提にした「地租」が国税として誕生しました。

 そして、明治11年には、府県が「地租付加税」として課税できるようになり、明治21年には市町村でも「地租付加税」を課税できるようになりました。

 「地租」は第二次大戦後の昭和22年に地方に移譲されて府県税の独立税になり、昭和24年の「シャウプ勧告」により、昭和25年に市町村税の固定資産税となりました。

家屋は「家屋税」(府県税)から

 家屋は、明治15年に創設された「家屋税」から始まります。「家屋税」は府県税でしたが、当初は東京、大阪、京都、神奈川の大都府県に限定されていました。

 また、大正15年の税制改革で、市町村でも「家屋税」に「家屋税付加税」として課税できるようになり、昭和22年には「家屋税」も「地租」と同様に府県の独立税となりました。

 そして、土地と同じく、昭和24年の「シャウプ勧告」により、昭和25年に市町村税の固定資産税となりました。

償却資産は「シャウプ勧告」により新設

 償却資産は昭和24年の「シャウプ勧告」による税制改革で昭和25年に固定資産税の一つとして新設されました。

 しかし、この償却資産に似ている税が実は既に存在していました。昭和15年に旧地方税法により、法定外独立税が市町村に対して認められました。

 この法定外独立税は、内務、大蔵両大臣の許可に基づき、市町村の条例により設定するものでしたが、この税の中には原動機や冷凍機、織機、製材機、印刷機など各種事業用償却資産がありました。

固定資産税は「シャウプ勧告」により財産税

 「シャウプ勧告」では、当時の日本の地方財政について、次の5つの点が指摘されています。
① 市町村、都道府県及び中央政府間の事務の配分及び責任の分担が不必要に複雑であり、また重複している。
② この3つの段階の統治機関の間における財源の配分が若干の点において不適当であり、また中央政府による地方財源の統制が課題である。
③ 地方自治体の財源は、地方の緊要経費を賄うには不足である。
④ 国庫補助金及び交付金は独断的に決定されることが多い。
⑤ 地方団体の起債の制限は極めて厳重に制限されている。

 この「シャウプ勧告」では、府県の独立税となっていた「地租」と「家屋税」を統合するだけでなく、償却資産も課税客体に加えて、固定資産税とすることが勧告され、昭和25年に創設されました。

 ところで、「シャウプ勧告」の意図は、固定資産税を固定資産と市町村の提供する公共サービスとの関連性を明確にして、市町村税の独立税とすることを勧告したと解されています。

 「シャウプ勧告」がされるまでの我が国の「地租」や「家屋税」は、賃貸価格を課税標準とする収益税であった訳ですが、「シャウプ勧告」では固定資産税の課税標準を賃貸価格から資本価格にすることを勧告しています。

 これまで、固定資産税は「収益税」なのか「財産税」なのかとの議論もありましたが、「シャウプ勧告」の資本価格論とともに、現在の地方税法における「価格=適正な時価をいう」の解釈からも、固定資産税は「財産税」とされています。

土地と家屋は賦課課税方式で分かりにくい

「賦課課税方式」は役所が一方的に評価・課税

 固定資産税は、全国どこでも土地や家屋を所有していれば(非課税を除いて)課税される資産税ですが、基本的に役所が一方的に評価して課税するもので、これを「賦課課税方式」と言います。

 これに対して固定資産税の償却資産や相続税は、申告に基づいて課税されるもので「申告課税方式」になります。

 全国で課税対象となる固定資産税の土地の数はおおよそ1億8千万筆、家屋は約6千5百万戸(令和5年10月・総務省「住宅・土地調査」)とされ、基本的に全国すべての土地及び家屋が評価され課税されます。

 そのため固定資産税評価は「大量一括評価」又は「大量画一評価」とも言われ、そこでは同じ基準の下に同じ方法で評価されることが要請されます。

「賦課課税方式」の問題点

 特に土地の場合は全国的な評価で「賦課課税方式」の採用は止むを得ないものですが、納税者からすると内容がよく分からないという問題があります。

 毎年4月~5月(東京都23区は6月)に固定資産税の納税通知書とともに課税明細書が送られてきますが、これを見ても何故この価額になったのかは説明を受けないと分かりません。

 一方、固定資産税の償却資産は「申告課税方式」(毎年1月末までに申告)ですので、この点では土地と家屋とは異なります。

固定資産税の税率は1.4%が標準

固定資産税の税率

 固定資産税の税率は1.4%が標準税率とされています。全国の市長村でもほぼ1.4%で統一されていますが、これを超える場合は、市町村の条例で定める必要があります。1.4%を超える税率が採用されている市は、北海道夕張市が1.45%とされています。

<固定資産税の税率>-地方税法350条1項
「 固定資産税の標準税率は、100分の1.4とする。」

都市計画税の税率は制限税率

 固定資産税は標準税率ですが、都市計画税は制限税率で0.3%を超えることはできません。

<都市計画税の税率>ー地方税法702条の4
「 都市計画税の税率は、100分の0.3を超えることができない。」

 なお、東京都23区の都市計画税の税率は、住宅用地の範囲に限り都税条例により減額特例(0.15%)が行われています。
 
2025/07/08/15:00
 

 

(第124号)固定資産税は土地、家屋、償却資産の3種類(更新版)

(更新版・令和7年7月)

土地、家屋、償却資産の定義

 そもそも固定資産税とはどのような税なのでしょうか。
 固定資産税は、地方税法により、固定資産に課税される税金です。

 では、固定資産とは何かですが、地方税法341条1項1号に土地、家屋、償却資産の3種とされています。

<固定資産とは>
「地方税法341条1項1号」
「 固定資産 土地、家屋及び償却資産を総称する。」

 この固定資産税は、固定資産(土地、家屋及び償却資産)の保有と市町村が提供する行政サービスとの間に存在する受益関係に着目し、応益原則に基づき、資産価値に応じて、所有者に対し課税される「財産税」という特徴を有しています。

 それぞれの用語の定義は、地方税法で次のとおり規定されています。

<土地とは>
「地方税法341条1項2号」
「 田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野その他の土地をいう。」
<家屋とは>
「地方税法341条1項3号」
「 住家、店舗、工場(発電所及び変電所を含む。)、倉庫その他の建物をいう。」
<償却資産とは>
「地方税法341条1項4号」
「 土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産でその減価償却額又は減価償却費が法人税法又は所得税法の規定による所得の計算上損金又は必要な経費に算入されるもののうちその取得価額が少額である資産その他の政令で定める資産以外のものをいう。ただし、自動車税の種別割の課税客体である自動車並びに軽自動車税の種別割の課税客体である原動機付自転車、軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除くものとする。」

市街化区域では都市計画税も課税

 固定資産税は、毎年の4月から5月に課税明細書・納付書が送られてきて納税されていますが、市街地的な地域(以下「市街化区域」)では、この固定資産税と併せて都市計画税が課税されているのが一般的です。

 都市計画税は、都市計画事業や土地区画整理事業を行う市町村が、都市計画区域内にある土地や家屋に対して、その事業に必要となる費用に充てるために課税される税金(目的税)です。

 都市計画税を課税するかどうかは、それぞれの地域における都市計画事業等に応じて、市町村の自主的な判断(課税する場合は条例が必要)に委ねられます。

 目的税とは、道路等の都市計画施設への税金の使い道が明確に定められている税ですが、市街化区域においては、固定資産税と一体で課税されています。

<都市計画税とは>
「地方税法第702条1項」
「 市町村は、都市計画法に基づいて行う都市計画事業又は土地区画整理法に基づいて行う土地区画整理事業に要する費用に充てるため、当該市町村の区域で都市計画法第5条の規定により都市計画区域として指定されたもののうち同法第7条第1項に規定する市街化区域内に所在する土地及び家屋に対し、その価格を課税標準として、当該土地又は家屋の所有者に都市計画税を課することができる。(中略)」

固定資産税の法体系

 固定資産税の評価・課税の基準となっているのが「地方税法」と「固定資産評価基準」です。


 
 そして地方税法と「固定資産評価基準」の下に市町村ごとに、「条例・規則」(市町村議会で決定)及び「固定資産評価事務取扱要領」(名称は市町村毎に違います)が定められ、「所要の補正」として評価・課税が行われています。

「固定資産評価基準」により価格が決定

 地方税法には、固定資産税の評価は「固定資産評価基準」によるとあります。

<固定資産の価格の決定>
「地方税法403条1項」
「 市町村長は(中略)固定資産評価基準によって、固定資産税の価格を決定しなければならない。」

 つまり、市町村長は総務大臣により告示された「固定資産評価基準」により、固定資産税の評価額(価格)を決定しなければならないのです。

 この地方税法第403条1項は、かつて(昭和37年以前)は「固定資産評価基準に準じて決定すべき」となっていましたが、現行は「固定資産評価基準によって、決定しなければならない」とされています。
 したがって、固定資産税の評価額決定に対する「固定資産評価基準」の法的拘束性がより強まったと言えます。

<固定資産評価基準の法的拘束性>
「昭和57年3月30日福岡地裁判決」
「 告示とは、公示を必要とする行政措置の公示の形式である。固定資産評価基準は、法388条1項に基づき、その明示的具体的委任を受けて、自治大臣が固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続きについて市町村間の評価の統一的均衡化を図るために発したものであって、昭和37年改正法による改正前の法403条が「準じて」としていたものを、「よって」固定資産の価格を決定しなければならないと」定めて、…市町村長は、固定資産評価基準に従った評価をなすべく義務づけられているものと解するのが相当である。その意味で、固定資産評価基準は、法的拘束力を有しているものといわなければならない。」

 固定資産税の土地及び家屋は、全国一律の評価ですので、この「固定資産評価基準」により「固定資産税の課税標準となるべき価格」が決定されます。

 これに対して、相続税の財産(土地)評価においては、国税庁により財産の評価に関する取扱方法の全国的統一を図るための「財産評価基本通達」が発せられていますが、相続税法の規定により委任されている訳ではありません。

固定資産税の価格とは何か

 地方税法において、固定資産税の価格の定義は2とおりあるとも考えられます。

 一つは、前記のとおり「固定資産評価基準」により価格が決定されるもの、とされています。
 もう一つは、地方税法341条1項5号による定義で価格は「適正な時価」をいうとされています。

<固定資産税の価格>
「地方税法341条1項5号」
「 固定資産税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
価格 適正な時価をいう。」

 それでは「適正な時価」とは何かということですが、地裁と高裁での判決は色々ありましたが、平成15年6月20日の最高裁の判決では、「適正な時価とは、客観的な交換価値をいう」とされています。

<土地に関する「適正な時価」>
「平成15年6月26日最高裁判決」
「 適正な時価とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解される。したがって、土地課税台帳に登録された価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば、当該価格の決定は違法となる。」

 この最高裁判決の最大のポイントは「客観的な交換価値」を上回ればその価格は違法となるというものです。

「客観的な交換価値」に対する疑問

 ところで、そもそも固定資産税は財産価値に対する評価・課税でして、必ずしも市場における取引を前提にしているものではないのです。

 「固定資産評価基準」も資産の譲渡を前提ではなく、利用=使用価値を基準にしているものと思われます。

 仮に「客観的な交換価値」とすると、市場流通性も考慮せざるを得なくなり、例えば住居地域で面積が大きくなると買い手が少なくなり、取引価格は下落することになります。
 しかし、固定資産評価基準による面積減価率は一定の範囲で収まっているのが現状です。

 そこで、固定資産税の「適正な時価」とは、「固定資産評価基準」による価格として、「交換価値」ではなく「使用価値」と表するのが妥当と思われます。

 上記は土地の評価ですが、家屋評価においては平成15年7月18日の最高裁において、「評価は、固定資産評価基準に基づくべき」とされています。

<家屋評価に関する「適正な時価」>
「平成15年7月18日最高裁判決」
「 固定資産評価基準に定める方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情または評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情が存しない限り、その適正な時価であると推認するのが相当である。」

固定資産税は市町村の基幹税

 固定資産税は、どの市町村にも広く存在する資産を課税客体としており、税源の偏りが小さく、市町村民税のように景気に左右されない基幹税目です。

 この図にありますように、固定資産税は都市計画税と併せると、市町村税のうち約47%を占めています。

<市町村税と固定資産税の内訳>

 
2025/07/07/12:00
 

 

(第123号)市町村の固定資産税事務の共同化と課題について

(投稿・令和7年7月)

 今回は「市町村の固定資産税事務の共同化と課題について」です。

 この内容は、<一般財団法人資産評価システム研究センター>の『令和5年度版「地方税における資産課税のあり方に関する調査研究」』を参考にしております。

税務職員数の減少傾向

市町村の税務職員数の推移

 令和3 年の市町村の税務職員数(50,516人)は、ピーク時の平成6 年(62,156人)と比較し、▲11,640人(▲18.7%)となっています。

<市町村の税務職員数の推移>

 

 このような状況の中、市町村において、近年は情報システムの活用が進み、事務の効率化は図られてはいますが、今後も市町村の税務職員数が減少していけば、固定資産税に係るー連の課税事務(申告、評価、賦課、徴収、不服審査等)をーつの市町村で実施することが難しくなることが想定されます。

 固定資産税は市町村の基幹税であり、市町村長の処分によって税額が確定するという賦課課税方式を採用していることから、安定的に税収を確保していくために、納税者の理解と信頼を確保することが重要です。

 また固定資産税は評価事務をはじめ、専門性が求められる事務も多く、市町村の人員・財源が限られる中で、引き続き適正かつ効率的に一連の課税事務を実施していくためには、事務の共同化等の取組みも有効な手段であると考えられます。

市町村毎の職員状況

 総務省自治税務局固定資産税課が調査した結果として、「都市」、「中小市」、「町村」毎の1団体あたりの平均職員数が次のとおりとなっています。

<1団体当りの平均職員数>

 
 土地、家屋、償却資産ごとに見ても、「都市」と「中小市」及び「町村」の差は大きいです。また、「町村」については、土地1. 18 人、家屋1.22 人、償却資産1.16人と、いずれも1 人程度の人員で評価事務を行っているようです。

固定資産担当職員の経験年数

 固定資産担当職員の調査としては「1年未満」「1年以上3年未満」「3年以上5年未満」「5年以上10年未満」「10年以上15年未満」「15年以上20年未満」「20年以上」で行っています。

 表は省略しますが、土地、家屋、償却資産のいずれにおいても、「都市」での経験年数が「3年以上」の割合が半数程度占めています。一方、「中小市」及び「町村」は「3年未満」の割合が6~7割程度を占めています。

 このように、「中小市」と「町村」は「都市」と比較して、経験年数が少ない職員の割合が高いのです。

固定資産税事務の共同化

 固定資産税の評価事務を複数の市町村において共同化することについて、「事務の効率化」、「評価の均衡化」からどのように考えるかのアンケート結果です。

 まず「事務の効率化」については、前向きな意見(「非常に有効」、「有効」)と慎重な意見(「あまり有効でない」、「有効でない」)の割合が措抗していますが、「ー概に言えない」とする割合が半数以上を占めています。

 また、「評価の均衡化」では、前向きな意見が半数以上を占めています。

事務共同化の今後の課題

 固定資産税のー連の事務(申告、評価、賦課、徴収、不服審査等)の一部を、地方自治法に基づく共同処理制度の仕組み等を活用して共同化を行うことについてのメリットと課題です。

 まずメリットとしては、共同化は事務の効率化や専門性の高い人材を確保することに繋がることがあります。

 一方、小規模自治体においては、共同化組織に職員を派遣する余裕がないといったマンパワー的な問題や、事務の共同化により増える負担に対して得られる効果が少ない等から徴収分野以外での共同化は進んでいないのが現状です。

 また、特に専門性の高い家屋評価業務は、評価の均衡化の観点からは、共同化の意義は大きいと考えられるものの、地方団体ごとの評価手法の違いといった課題があります。

 これについては、将来的に、評価システムの標準化が志向されており、その前提として、固定資産評価基準で均質化が図れる仕組みの構築が必要となることから、今後、固定資産評価基準の見直し等により、団体間の評価手法の差異が小さくなれば、地域における評価事務の広域化も進めやすくなると考えられます。

筆者(コンサルタントとして)の見解

 以上は、市町村の固定資産税事務の執行体制ですが、いかがでしょうか。

 我が国では、1980年代後半から始まったバブル経済が1990年頃から株価や地価が下落し始め、バブルが崩壊しましたが、この時期から、全国的に市町村の職員数の見直し(削減)が始まりました。

 そして、固定資産税の評価、課税事務を担当する職員数も少なくなり、事務の共同化が進みつつあるのです。
 ※ 大都市以外の市町村では、大規模家屋の新築評価については以前から県(県税事務所)が担当していました。

 ところで、筆者の個人的見解ですが、固定資産税の評価事務の軽減については、共同化とは別に「評価の簡素化」を探るべきではと考えます。

 特に家屋評価は「再建築価格方式」という複雑な仕組みになっていますが、これを「取得価格方式」に変更することも検討すべきではと考えます。
 なお、この内容につきましては、これまでも触れてきましたので、そちらをご覧ください。

 
2025/07/05/10:00