(第147号)固定資産税で留意すべき内容(更新版)

(更新版・令和7年8月)

土地が「住宅用地」かどうかをチェック

 住宅用地は市町村の条例で申告が義務づけられていますが、仮に申告が無かった場合でも「住宅用地の減額特例」は適用されることになります。

 つまり、「住宅用地」は申告が有る無しに関わらず「減額特例」は適用されるべきで、過去に納付した金額の還付も可能になるのです。

 ところが、かなりの市町村では、申告が無いことを理由に、減額特例がされずに評価・課税されている「課税誤り」が生じています。

 是非、ご自分の資産が「住宅用地」かどうかをチェックしてください。

 ここで、住宅用地かどうか一見して分かりにくい例を紹介します。

(1)アパートの駐車場

 このパターンは、住宅用地を見逃し易い典型例として説明されますが、アパートの敷地の隣に駐車場があり、その駐車場はアパート住民が利用している駐車場である場合です。

 アパート敷地と駐車場とは地番が異なっている(筆が分かれている)場合もありますが、その場合でも駐車場敷地はアパートと一体の画地と認定され、住宅用地の軽減特例(6分の1)の対象になります(敷地が離れている場合は該当しません)。

 特にアパートの場合は1戸(部屋)につき土地200㎡が小規模住宅用地とされますので、かなり敷地が広くても敷地全体が6分の1に適用される可能性があります。例えば、そのアパートが8戸であれば、1600㎡までが小規模住宅用地となります。

(2)店舗廃業の居住用家屋

 近年では、シャッター通りと称されるように、店舗を閉店(廃業)した商店街も多く見受けられますが、店主は店舗を閉じた後もそこで居住し続ける場合が多く見られます。

 このような場合、店舗経営時の家屋の用途は「店舗」であり、土地は商業地(非住宅用地)で6分の1の減額特例はありません。しかし、店舗廃業後は居住用に変更したことから、住宅用地となり減額特例の対象となります。

 これは外観から分かりづらいため、商業地のまま評価・課税されている場合もあります。

(3)店舗の2階で居住している場合

 上記(2)と同類のケースですが、例えば2階建ての店舗で1階が店舗、2階部分に居住しているという場合ですが、居住部分の床面積が全面積の2分の1以上であれば、土地の全部が住宅用地の減額特例を受けることができます。

 これも外観からは分からないため、至急申告手続きをすべきです。

土地の価格=「客観的交換価値」は疑問

(1)固定資産税の価格は「適正な時価」

 地方税法において、固定資産税の価格は「適正な時価をいう」とされています。

<固定資産税の価格>-地方税法341条1項5号
「 固定資産税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
価格 適正な時価をいう。」

 それでは「適正な時価」とは何かということですが、平成15年6月20日の最高裁の判決では、土地の「適正な時価とは、客観的な交換価値をいう」とされています。

<土地に関する「適正な時価」>-平成15年6月26日最高裁判決
「 適正な時価とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解される。したがって、土地課税台帳に登録された価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば、当該価格の決定は違法となる。」

 ところで、固定資産評価基準でも、資産の譲渡を前提ではなく、利用=使用価値を基準にしているものと思われます。

 例えば、固定資産評価基準では、大規模画地補正は20万㎡を越える大規模工場用地のみで、宅地の補正率は「奥行価格補正」で行うこととされています。
※ 固定資産評価基準 別表第7の4「大規模工場用地規模格差補正率表」

 仮に「客観的な交換価値」とすると、市場流通性も考慮せざるを得なくなります。市場流通性とは、例えば住居地域で面積が大きくなると買い手が少なくなり、取引価格は下落することになります。

 しかし固定資産評価基準では、宅地の規模が大きい場合は「奥行価格補正」により補正するとされていますが、最大補正率が0.80(20%減価)とされています。
 仮に「客観的交換価値」であれば、この程度の減価率では済まない筈です。

(2)「交換価値」でなく「使用価値」

 ところで、市町村の固定資産税担当の実務では「固定資産税の時価は『使用価値』」と考えられていました。

 しかし、平成15年6月20日の最高裁の判決では、「適正な時価とは、『客観的な交換価値』をいう」とされ、驚いたのも事実です。

 そもそも、固定資産評価基準では「適正な時価」とまで規定されているものの、大規模画地補正等の具体的な補正率等では、固定資産税は財産価値を反映されるとして「使用価値」に基づくものとなっていると思われます。宅地規模の減価率を「奥行価格補正によるものとする」もその一種です。

家屋評価の簡素化の実現に向けて

 固定資産税の家屋評価は「再建築価格方式」が複雑で「課税誤り」の原因の一つですが、この簡素化については、これまでも総務省や財団法人資産評価システム研究センターで建築専門家等とともに検討されてきています。

 市町村によっては、家屋の比準評価方式が進められできたり、また最近では、民間業者と協力して電子化導入の検討を進めている市町村もあるようです。

 しかし、これらの試みは固定資産税評価の「抜本的な簡素化」には至っていないのが実状です。

(1)これまで検討された簡素化案

 これまで検討されてきた固定資産税家屋評価の簡素化案は、①「取得価格方式」、②「広域的比準評価方式」、③「㎡単価方式」で、それぞれのメリット、デメリットも指摘されています。

① 「取得価格方式」
 「取得価格方式」とは、事業用家屋について、申告された取得価格を基礎として、取得後の経過年数に応じた減価を考慮して評価する方式です。

(メリット)
 事業用家屋の評価事務の簡素化や、申告を基本とするため評価の透明性や納税者から理解が得られやすい。
(デメリット)
 申告義務が課されることで、新たな負担が生じる。

② 「広域的比準評価方式」
 「広域的比準評価方式」は、都道府県等の一定の地域内に所在する家屋を、その実態に応じ、構造、程度、規模等に区別し、各区分ごとに標準とすべき家屋を標準家屋として定め、そこから比準して評価する方式で、固定資産評価基準に定められている比準評価方法を広域的に適用しようとの方式です。

(メリット)
 同様の家屋について広域的に均衡が図られることや、現状の評価方法との差異が少なく、取り入れやすい。
(デメリット)
 広域設定の基準が課題となることや、対象家屋が類型化しやすいものに限定される。

③ 「㎡単価方式」
 「㎡単価方式」は、基準となる家屋の延べ床面積1㎡当たりの再建築評点数を再建築価格基準単価とし、これに補正率及び評価対象家屋の延べ床面積を乗ずることにより評価する方式です。

(メリット)
 個々の自治体で、基準家屋を設定する必要がなく、事務の軽減につながることや、同様の家屋について広域的に均衡が図られること。
(デメリット)
 全国一律の家屋を設定した場合、地域的な要因を反映しにくいことや、部分別評価と比較し、乖離が生じる可能性が高い。

(2)「取得価格方式」が合理的

 (1)の①~③の中で、納税者の感覚に合っているのは、実際にその家屋をいくらで建築したのか(建築費)、あるいはいくらで取得したのか(取得費)を根拠にした①の「取得価格方式」が合理的と言えます。

 ただし、実際の建築費や取得費を全額計上するのではなく、取得価格に調整率を加え、経年減価補正率を乗じて評価額を求める方法となります。

<「取得価格方式」の計算式>
 評価額 = 取得価格 × 調整率(※)× 経年減価補正率
 (※木造:6割、非木造:7割を想定)

 この「取得価格方式」は現実的で、家屋評価を行う市町村にとっても評価(事務)の簡素化を図ることができます。
 また、この方式は事業用に限定される必要も無いですし、「申告が必要」としても、最初の1回目のみです。

中古家屋の評価で新築時の検証が必要

(1)中古家屋の「審査の申出」結果

 最近、多くの中古ビル所有者様から「この固定資産税評価額は高いのではないか」とのご相談をいただき、「審査の申出」も行っています。

 しかし、ほとんどの「審査の申出」の審査結果は「建築時に算出した再建築費評点数に対して評価替ごとに再建築費評点補正率を乗じて、現在の再建築費評点数を算出しているので問題は無い」との理由で棄却されています。

 課税した市町村に対して、在来(中古)家屋は新築時評価を継続していますので、「新築時の評価が正しいのかどうか検証してください」と伝えても、「古い評価データは廃棄して存在していません」との回答です。

 これでは、在来(中古)家屋の評価検討は完全にストップしてしまうのです。

(2)新築時の家屋評価データは永年保存

 市町村の中には、10年廃棄ルールから、家屋の新築時の評価データを廃棄している場合もあります。
 また、逆に数十年経過している中古家屋の新築時の評価データを保存している市町村もあります。

 在来(中古)家屋の評価は新築時の評価が継続していますので、新築時の評価が正しかったのかどうかを検証する必要があります。
 廃棄している市町村と話をすると「どうもこの点を理解されていない」と思わざるを得ないのです。

 市町村は家屋の新築時の評価データを「永年保存」か「課税中保存」にすべきなのです。昨今では、電子化が進んでいますので、これも可能な筈です。
 
2025/08/04/13:00
 

 

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください