(第92号)物的(用途)非課税の例(4)-「墓地」は非課税、「納骨堂」は多くが課税

(投稿・令和5年2月-見直し・令和6年2月)

 固定資産税の物的(用途)非課税の例として、第86号で「宗教法人の境内建物と境内地」を紹介しましたが、今回は、この施設と関係が深い「墓地」と「納骨堂」はどうなのか、についてです。

 

「墓地」は基本的に非課税

 まず、「墓地」は地方税法に非課税規定があり、基本的に非課税となります。

「墓地」の非課税規定

 地方税法348条2項4号には、固定資産税の非課税として「墓地」が規定されています。

 この地方税法348条2項4号では、同項3号の「宗教法人と境内地」の条文とは異なり、運営主体や条件の規定はなく単に「墓地」とだけ規定されているのみです。

 まず、地方税法の非課税規定です。

<「墓地」の非課税>
※地方税法348条2項3号、4号
「3号 宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第三条に規定する境内建物及び境内地(旧宗教法人令の規定による宗教法人のこれに相当する建物、工作物及び土地を含む。
 4号 墓地 」

 固定資産税の物的(用途)非課税は、これらの固定資産が供されている用途の特質にかんがみ非課税とされているもので、基本的には、地方税法で所有者及び固定資産が特定されていない場合は、所有者が誰であろうと非課税とされます。

 しかし、多くの市長村では、「墓地、埋葬等に関する法律」に「墓地」の定義がされていることから、この法律に基づく区域にある「墓地」を非課税対象とされています。

<「墓地」とは>
※「墓地、埋葬等に関する法律」第2条
「5項 この法律で「墓地」とは、墳墓を設けるために、墓地として都道府県知事(市又は特別区にあっては、市長又は区長)の許可を受けた区域をいう。」

 なお、この法律が施行される前から存在する古い「墓地」も、同法の区域に拘わらず非課税とされています。

「納骨堂」は多くが課税

 次に、では「納骨堂」は非課税となるのでしょうか。

「納骨堂」とは何か

 まず「納骨堂」とはどのようなものかです。

<納骨堂とは>
※「墓地、埋葬等に関する法律」第2条6項
「納骨堂とは、他人の委託をうけて焼骨を収蔵するために、納骨堂として都道府県知事の許可を受けた施設をいう。」

 最近では、核家族化や埋葬に対する価値観の多様化によって、「先祖代々の墓」という従来の概念にとらわれることなく、自分のライフスタイルに合ったお墓を求める人が増えてきました。

 近年、じわじわと浸透してきた散骨や樹木葬に続き、「新たなお墓の形」として注目を集めているのが「納骨堂」です。

 「納骨堂」は運営母体によって、寺院が運営する「寺院納骨堂」、自治体が運営する「公営納骨堂」、宗教法人等が運営する「民営納骨堂」の3種類に分けられます。

 なお、「納骨堂」を経営するためには、都道府県知事の許可を受ける必要があります。

<墓地、納骨堂及び火葬場>
※墓地、埋葬等に関する法律第10条
「1項 墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。
2項 前項の規定により設けた墓地の区域又は納骨堂若しくは火葬場の施設を変更し、又は墓地、納骨堂若しくは火葬場を廃止しようとする者も、同様とする。」

 そこで、問題は「納骨堂」が地方税法348条2項3号の「境内建物及び境内地」に該当するかどうかということになります。

東京地裁(平成28年5月24日)の判決

 東京都が「納骨堂」に対して課税処分した件で、原告(A宗を宗派とする宗教法人)が提訴した、平成28年5月24日に東京地裁判決において、この「納骨堂」に関係する判決が出されています。

1. 訴訟事案の内容

 この訴訟は、原告・宗教法人が「納骨堂」として使用している土地及び建物に対して、被告・東京都が「寺務所、本堂、庫裏等は非課税とした」が、「参拝堂、納骨堂、客殿等の建物部分及びこれに対応する土地面積相当分については固定資産税を課税する」との賦課決定処分をした、という内容です。

 つまり、「納骨堂」の固定資産税が非課税となる「境内建物及び境内地」に当たるかどうかが争われたものです。

2. 東京地方裁判所の判断

<地方税法348条2項3号について(判決の一部)>
「地方税法348条2項3号に規定する「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」とは,次のことを言う。
 ① 当該宗教法人にとって,宗教の教義をひろめ,儀式行事を行い,信者を教化育成するという主たる目的のために必要な,本来的に欠くことのできない建物,工作物及び土地で,同条各号に列挙されたようなものであり、かつ
 ② 当該宗教法人が,当該境内建物及び境内地を,専ら,宗教団体としての主たる目的を実現するために使用している状態にあるものをいうと解すべきであり,当該要件該当性の判断は,当該建物及び土地の実際の使用状況について,一般の社会通念に基づいて外形的,客観的にこれを行うべきである。」

 そして東京地裁は、本件での「納骨堂」は「宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地には該当しない」と判断しました。

<東京地裁判決(一部)>
「(本件非課税対象外部分)の使用状況を,一般の社会通念に基づいて外形的,客観的にみると,原告は,本件非課税対象外部分につき,A宗の教義をひろめ,儀式行事を行い,信者を教化育成するという主たる目的のために使用していないとはいえないが,当該目的のために必要な,本来的に欠くことのできない建物の一部であると評価することにはやや困難がある。
 また,仮にそのような評価が可能であるとしても,本件「納骨堂」の使用者については宗旨宗派を問わないとされているのみならず,本件建物においては,原告以外の宗旨宗派の僧侶等が主宰する法要などの儀式行事が行われることが許容され,その場合,使用者は原告に対して施設使用料を支払うこととされ,実際にも,それが例外的とはいえない割合で行われており,原告は,上記のような使用者を訴外会社を通じて広く募集していることに照らすと,原告が,上記の各部分(本件非課税対象外部分)を,専ら宗教団体としての主たる目的を実現するために使用している状態にあるとは認められないといわざるを得ない。」

 
 本件の対象となっている「納骨堂」は今後も増加することが予想されますが、現在、東京都だけでなく全国の市長村でも、宗教法人の家屋であっても、「納骨堂」部分は課税対象とされ、土地は家屋内部の課税部分と非課税部分に面積按分のうえ課税されています。

 ところで、「納骨堂」が「専ら宗教団体としての主たる目的を実現するために使用している状態」にあれば非課税となり得ます。

 しかし最近では、本件同様「某宗を宗派とする宗教団体の建物において他の宗旨宗派の僧侶等が主宰する法要等にも使っている納骨堂事業」が多く、課税されている場合が多いのです。
 
2023/07/17/17:00