(87号)固定資産の個別評価と不動産鑑定評価・判例紹介(土地編)

 今号と次号で、固定資産評価基準により行われる固定資産税の個別評価に対して、不動産鑑定評価がどこまで通用するかを確認するための裁判事例の紹介です。

 今号は、土地に関する裁判例です。

 なお、第6号「固定資産税土地評価における不動産鑑定の役割について」で、土地に関する固定資産評価基準と不動産鑑定評価の役割や相違を解説しています。

 土地に関する判決で今回の紹介は、「府中市固定資産評価審査委員会決定取消請求事件」です。

訴訟関係の経緯

  原告(以下「A」とする)の住む東京都府中市内の甲団地周辺一帯の都市計画は建蔽率60%・容積率200%であるものの、Aの敷地部分(街区)は都市計画法11条1項8号により「一団地の住宅施設」に指定され、建蔽率20%・容積率80%となっています。

 府中市長は、この敷地に対しては建蔽率60%・容積率200%による価格を固定資産税土地課税台帳に登録しており、Aは府中市固定資産評価審査委員会に対して審査申出を行ったところ棄却決定され。、これに対してAが東京地裁に不服を訴えた案件です。

 この訴訟では、東京地裁及び東京高裁ともAが敗訴し、最高裁に上告した結果、最高裁は東京高裁に差戻し、差戻し後の東京高裁でAが勝訴となり、最高裁で決定されています。

 なお、最高裁が差戻した主な理由は、東京地裁、東京高裁ともに「一団地の住宅施設」の建蔽率20%・容積率80%の土地に対する府中市の登録価格が、不動産鑑定評価での評価額により登録価格は問題無いと判断されているのみで、固定資産評価基準による状況類似地域、標準宅地、主要な路線価の設定等について十分な審理が尽くされていない、との判断がされています。

東京地裁の判決

・判決日:平成22年9月10日
・原告:A
・被告:府中市長
・判決:原告・A敗訴

 Aは審査申出の棄却決定に至る府中市審査委員会の審査の手続に違法があること、本件決定に係る決定書に違法があることなどを主張したが、東京地裁は、これらの主張を採用せず、控訴人の請求をいずれも棄却しました。

 

東京高裁の判決

・判決日:平成23年10月20日
・控訴人:A
・被控訴人:府中市長
・判決:控訴人・A敗訴

 Aは、原審の上記判断を不服として東京高裁へ控訴し、甲団地は「一団地の住宅施設」とされているため、本件敷地部分については、建蔽率20 %・容積率80 %と、より厳しい本件制限があるにもかかわらず、これを地域要因として全く考慮しないで決定された本件敷地登録価格は違法であるなどと主張したものの、東京高裁は、「本件敷地登録価格の決定の適法性の判断については、適正な時価を超えているかどうかを検討すれば必要かっ十分であり、本件敷地部分の平成21年度の賦課期日における適正な時価はその登録価格を上回るものと認められ、本件敷地登録価格の決定は違法ではない」と判断してAの控訴を棄却しました。

 

最高裁の判決

・判決日:平成25年7月12日
・上告人:A
・被上告人:府中市長
・判決:東京高裁差戻し

「土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格の決定が違法となるのは、当該登録価格が、①当該土地に適用される同法388条1項所定の固定資産評価基準(以ド「評価基準」という。)の定める評価方法に従って決定される価格を上回るときであるか、あるいは、②これを上回るものではないが、その評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく、乂はその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合であって、同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るときであるということができる。
 本件敷地登録価格の決定及びこれを是認した本件決定の適法性を判断するに当たっては、本件敷地登録価格につき、適正な時価との多寡についての審理判断とは別途に、上記①の場合に当たるか否か(建蔽率及び容積率の制限に係る評価基準における考慮の要否や在り方を含む。)についての審理判断をすることが必要であるところ、原審はこれを不要であるとしてこの点についての審理判断をしていない。
 また、上記②の場合に当たるか否かの判断に当たっては、本件敷地部分の評価において適用される評価基準の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであるか、その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情があるか等についての審理判断をすることが必要であるところ、原審は、評価基準によらずに認定した本件敷地部分の適正な時価が本件敷地登録価格を上回ることのみを理由として当該登録価格の決定は違法ではないとしており、これらの点についての審理判断をしていない。」

「上記の各点について更に審理を尽くさせるため、上記部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。」

 

差戻後の東京高裁判決

・判決日:平成26年3月27日
・控訴人:A
・被控訴人:府中市長
・判決:控訴人・A勝訴

 この差戻し後の東京高裁判決では、詳細に一団地の住宅施設の敷地の土地評価について固定資産評価基準により評価されるべきとの趣旨の判断がなされた上で、府中市(固定資産評価審査委員会)による審査申出棄却決定の取消しを認める判断(控訴人勝訴)がされています。

「本件土地の登録価格の決定は、本件制限が減価要因として考慮されておらず、仮に本件制限を減価要因として適切に考慮した場合の本件敷地の登録価格は、実際に府中市長によって決定された本件敷地登録価格よりも下回るものとなるはずであり、府中市長によって決定された本件敷地登録価格は、本件敷地部分に適用される評価基準の定める評価方法に従って決定価格を上回るものであると認められる。したがって、本件敷地登録価格は、標準宅地の適正な時価の設定が適切になされたものとはいえず、本件敷地登録価格の決定及びこれを是認した本件決定は、この点を看過した違法なものであるから、本件決定の取消しを求める控訴人の請求には理由があるというべきである。」 

 
 なお、上記の東京高裁の判決は、平成26年9月30日の最高裁で決定されています。

不動産鑑定による証明の問題点

 本件の訴訟では、A側も府中市長側も不動産鑑定士による鑑定書により主張している部分がありますが、この訴訟が「固定資産評価基準による個別評価に不動産鑑定が通じるか」が論点になっていないように感じると思いますが、平成25年7月12日の最高裁判決文をよく読んでみますと、真意がどこにあるかが分かります。
 この最高裁判決は、裁判官全員一致による東京高裁への差戻しですが、千葉勝美裁判官が補足意見として<鑑定意見書等により登録価格を修正することの問題点>を述べられていますので、一部を掲載します。
<千葉勝美裁判官の補足意見>
「課税を行う市町村の側としては、このようにして所有者名義人から提出される鑑定意見書等が誤りであること、算出方法が不適当であること等を逐一反論し、その点を主張立証しなければならなくなり、評価基準に基づき画一的、統一的な評価方法を定めることにより、大量の全国規模の固定資産税の課税標準に係る評価について、各市町村全体の評価の均衡を確保し、評価人の個人差による不均衡を解消することにより公平かつ効率的に処理しようとした地方税法の趣旨に反することになる。」

 敢えて付け加えさせていただきますが、都市計画法11条1項8号により「一団地の住宅施設」に指定され、建蔽率20%・容積率80%となっている地域(街区)は、他の都市地域でも存在していますが、その地域に見合った正しい評価がされている筈です。
 そもそも府中市長が建蔽率60%・容積率200%で評価したこと自体が誤った方法であったのではないかと思います。