(68号)家屋データを廃棄して計算説明ができないN市の杜撰さと傲慢さ

(第1回目投稿:令和3年、第2回目見直し:令和4年6月)

 最近、石川県河北郡津幡町に居住するKさんから、石川県能登地方の七尾市に所有している家屋(マンション)の固定資産評価について、次のようなご相談をいただきました。

①自分の所有しているマンションの評価額が隣接のマンションと比較して約1.4倍、また自分が所有している他のマンションと比べても約1.6倍と高いので、5月に固定資産評価審査委員会(以下「審査委員会」)に審査申出を行ったものの棄却決定されました。
②その審査申出に対する七尾市からの弁明と審査委員会の決定では「建築時に算出した再建築費評点数に対して評価替ごとに再建築費評点補正率を乗じて、現在の再建築費評点数を算出している」とありました。しかし、仮に課税誤りがあるとすれば、新築当初の評価(再建築費評点数)に誤りがあった筈なのに、今までの評価は正しいとの前提なのです。
③そこで、七尾市の税務課に、新築当時の課税内容の説明を求めたところ、「当時の評価データは廃棄して無いが、間違いなく正しく評価している」との回答がありました。

 筆者は、Kさんから固定資産家屋評価見直コンサルタントとして相談を受けており(委任状も取得済み)、またKさんは七尾市の課税当局とのやりとりを録音していますので、これは事実で『作り話』ではありません。

 

七尾市課税当局対応の問題点

評価データを廃棄したこと

  まず、どこの市町村でも、課税中の家屋の評価データを保存しているのが普通ですが、この七尾市の対応には驚きました。
 評価データは、「評価計算書」とも言われ(名称は市町村により異なる)、市町村の内部資料ですが、どこの市町村でも所有者から説明を求められると、この資料により評価内容を説明し渡されるのが一般的です。

 所有者が評価内容を検討するためにも「評価計算書」が必要であるとともに、課税当局では、その家屋の評価額がどのように算定されているのかを説明し「課税誤り」が無いことを示す必要がある訳です。

建築当初の評価額が審査されないこと

 Kさんの審査申出の趣旨は「そもそも再建築費評点数の算定が正しいのか」ですが、課税当局の弁明と審査委員会の決定は、前年の再建築評評点数に補正率を乗ずる方法の説明に終始されています。これは在来(中古)家屋の評価方法になります。

 審査委員会の決定(棄却)もほとんど課税当局の弁明書を踏襲した結果となっています。審査委員会は第三者機関ですが、どこの市町村でも、審査申出の手続きでは課税当局の主張がそのまま採用されることがほとんどではないかと思います。
 「そもそも新築時の再建築費が正しいのか」との請求に対して、在来家屋の評価方法で決定(棄却)されていることも問題ですが、更に問題なのは、Kさんが七尾市に直接説明を求めたときの七尾市側(「新築当時の資料は廃棄して無い」などの対応にあります。
 課税当局としては、その家屋の評価に「重大な錯誤」があるか無いかを確認した上で、問題が無ければ所有者に丁寧に説明し、仮に間違っていたら地方税法417条1項により、直ちに価格を修正しなければならないのです。
 しかし、七尾市は新築当時の資料を廃棄しているため、課税した当局自体が検証も出来ないし、説明も出来ないのです。

※地方税法第417条第1項
「市町村長は…登録された価格等に重大な錯誤があることを発見した場合においては、直ちに固定資産課税台帳に登録された類似の固定資産の価格と均衡を失しないように価格等を決定し、又は決定された価格等を修正して、これを固定資産課税台帳に登録しなければならない。…」

 つまり不服申立の原則は、3年に1度の評価替え(基準)年度に審査申出を行う仕組みですが、それに関わらず課税内容に不服や疑問があれば、市町村に働きかけてみることが必要なのです。

「評価計算書」とはどのようなものか

「課税明細書」と「評価計算書」の違い

 固定資産税については、毎年4~5月に「納税通知書」「納付書」とともに「課税明細書」が3点セットとして所有者に送られてきます。しかし、そこには家屋の価格(評価額)が記載されているのみで、それがどのように計算されたのか、なぜこの価格になったのかは一切分かりません。
 まず、毎年所有者に送られてくる「課税明細書」は次のようになっています。
「課税明細書(例)」

 どうでしょうか、この課税明細書の価格(評価額)をみても、どのように計算されてこの価格になっているのかは分かりません。

 そのために「評価計算書」の提出を求めるのですが、ここに「評価計算書」の例を掲げます。
「評価計算書(例)」

 ここに掲げた「評価計算書」は全体の一部です。また市町村によっては形式も名称も異なっています。
 固定資産税家屋の評価は非常に複雑な内容ですので、それを計算する「評価計算書」も複雑になっています。

 最近では、どこの市町村でも電子システムを活用していますが、それ以前は「データパンチ」(手書きの資料を電子化する)という方法で作成・保管され、仮に担当者がコピーを廃棄したとしても、組織としてはデータが保存されているのが普通なのです。特に家屋については、課税している間はデータを保存すべきなのです。
 そうでなければ、所有者にとって大切な財産である固定資産に対して評価・課税している根拠が疑われ、信頼性も損なわれることになります。

 そこで問題は、中古家屋の納税者は、現在の基準年度において、新築時(過去の)価格に対して意見等を申出ることができるかということになります。

中古家屋の新築時評価の是非について

 家屋の基準年度の評価額は、一つ前の基準年度の価格(正式には「再建築費評点数」)を基礎として算定されています(在来家屋=中古家屋の評価)。この場合、建築当初の価格は見直しがされないことから、仮に建築当初の価格の算定に誤りがあっても、誤ったままの状況が継続してしまうことになります。

 この点については、平成25年4月16日の東京高等裁判所において、新築時の審査を認める司法判断が示されています。
 この事例では、被控訴人(東京都)は、在来(中古)家屋の評価が適正であるので問題無いと主張したのですが、東京高等裁判所の判決では、新築時の評価が正しかったのか否かの証明が必要と判断されています。

 「被控訴人は,平成18年度価格についての不服として,本件家屋の建築当初の評価を争うことは原則としてできず,その評価を争うことができるのは,建築当初の評価において適切に評価できなかった事情がその後に判明した場合や,建築当初の評価の誤りが重大で,それを基礎に評価をすることが適正な時価の算定方法として不合理であると認められるような場合に限られる(中略)などと主張する。
 しかし,(中略)「建築当初の再建築費評点数の算出の誤り」は,「前年度(平成17年度)の再建築費評点数」に影響を及ぼし,ひいては平成18年度の価格に影響を及ぼすことが明らかである。(中略)被控訴人主張のような制限をすることはできない。」

 七尾市はデータを廃棄しただけではなく、税務課の幹部から「もしこの家屋の評価が高いと思うならば、納税者自身から計算して示してください」とまで言われているのです。データを廃棄しているのに納税者としても「検証」できる訳がありません。

 この七尾市税務課幹部の発言は、賦課課税の責任を納税者に転嫁する、まさに杜撰さと傲慢さが感じられます。

今後の改善のための提案

大規模非木造家屋の評価は県が担当

 上記の東京高等裁判所の判決文にも「建築当初の建築関係書類が廃棄又は紛失されることがあることも想像に難くなく,そうすると,時の経過と共に建築当初の評価に誤りがあったかどうかを的確に判断することは困難になることも当然に予想されるということはできる。」とありますが、七尾市の対応はまさにこのとおりである訳です。

 しかし、大都市でない市町村(七尾市も含む)では、大規模の非木造家屋の新築評価は県(県税事務所)に委ねていることです。県と市町村の協定によっても異なりますが、通常は500㎡以上(七尾市の場合は300㎡以上)の非木造家屋がその対象です。

 その場合、評価データは実際に評価した県税事務所が保存していて、市町村では紙レベルの「評価計算書」のみを保有しているという場合が多いのです。また県税事務所では、不動産取得税の課税ですので、評価データはそれほど長期間保有していないと思います。

新築時家屋評価データの保存の必要性

 しかし、市町村の固定資産税の家屋(特に非木造家屋)であれば長期間の課税になりますので、データも長期間保有すべきです。 
 特に新築時の再建築評点数をどう評価したのかを所有者に説明するときにも必要ですし、仮に所有者が課税誤りに対して訴訟を提起した場合には必要な資料が存在しないことになってしまうのです。

 そこで、「新築時のデータを保存年限で廃棄している」市町村には、是非、「永年保存」か「家屋課税中保存」にしていただくことをお願い致します。