(68)家屋データを廃棄して計算説明ができないN市の杜撰さと傲慢さ

 最近、石川県河北郡津幡町に居住するKさんから、石川県能登地方のN市(「町」ではなく「市」です)に所有している家屋(マンション)の固定資産評価について、次のようなご相談をいただきました。

①自分の所有しているマンションの評価額が隣接のマンションと比較して約1.4倍、また自分が所有している他のマンションと比べても約1.6倍と高いので、5月に固定資産評価審査委員会(以下「審査委員会」)に審査申出を行ったものの棄却決定されました。
②その審査申出に対するN市からの弁明と審査委員会の決定では「建築時に算出した再建築費評点数に対して評価替ごとに再建築費評点補正率を乗じて、現在の再建築費評点数を算出している」とありました。しかし、仮に課税誤りがあるとすれば、新築当初の評価(再建築費評点数)に誤りがあった筈なのに、今までの評価は正しいとの前提なのです。
③そこで、N市の税務課に、新築当時の課税内容の説明を求めたところ、「当時の評価データは廃棄して無いが、間違いなく正しく評価している」との回答がありました。

 筆者は、Kさんから固定資産家屋評価見直コンサルタントとして相談を受けており(委任状も取得済み)、またKさんはN市の課税当局とのやりとりを録音していますので、これは事実で『作り話』ではありません。

N市課税当局対応の問題点

評価データを廃棄したこと

  まず、どこの市町村でも、課税中の家屋の評価データを保存しているのが普通ですが、このN市の対応には驚きました。
 評価データは、「評価計算書」とも言われ(名称は市町村により異なる)、市町村の内部資料ですが、どこの市町村でも所有者から説明を求められると、この資料により評価内容を説明し渡されるのが一般的です。
 所有者が評価内容を検討するためにも「評価計算書」が必要であるとともに、課税当局では、その家屋の評価額がどのように算定されているのかを説明し「課税誤り」が無いことを示す必要がある訳です。

建築当初の評価額が審査されないこと

 Kさんの審査申出の趣旨は「そもそも再建築費評点数の算定が正しいのか」ですが、課税当局の弁明と審査委員会の決定は、前年の再建築評評点数に補正率を乗ずる方法の説明に終始されています。これは在来(中古)家屋の評価方法になります。

 審査委員会の決定(棄却)もほとんど課税当局の弁明書を踏襲した結果となっています。審査委員会は第三者機関ですが、どこの市町村でも、審査申出の手続きでは課税当局の主張がそのまま採用されることがほとんどではないかと思います。
 「そもそも新築時の再建築費が正しいのか」との請求に対して、在来家屋の評価方法で決定(棄却)されていることも問題ですが、更に問題なのは、KさんがN市に直接説明を求めたときのN市側(「新築当時の資料は廃棄して無い」などの対応にあります。
 課税当局としては、その家屋の評価に「重大な錯誤」があるか無いかを確認した上で、問題が無ければ所有者に丁寧に説明し、仮に間違っていたら地方税法417条1項により、直ちに価格を修正しなければならないのです。
 しかし、N市は新築当時の資料を廃棄しているため、課税した当局自体が検証も出来ないし、説明も出来ないのです。

※地方税法第417条第1項
「市町村長は…登録された価格等に重大な錯誤があることを発見した場合においては、直ちに固定資産課税台帳に登録された類似の固定資産の価格と均衡を失しないように価格等を決定し、又は決定された価格等を修正して、これを固定資産課税台帳に登録しなければならない。…」

 つまり不服申立の原則は、3年に1度の評価替え(基準)年度に審査申出を行う仕組みですが、それに関わらず課税内容に不服や疑問があれば、市町村に働きかけてみることが必要なのです。

「評価計算書」とはどのようなものか

「課税明細書」と「評価計算書」の違い

 固定資産税については、毎年4~5月に「納税通知書」「納付書」とともに「課税明細書」が3点セットとして所有者に送られてきます。しかし、そこには家屋の価格(評価額)が記載されているのみで、それがどのように計算されたのか、なぜこの価格になったのかは一切分かりません。
 まず、毎年所有者に送られてくる「課税明細書」は次のようになっています。
「課税明細書(例)」

 どうでしょうか、この課税明細書の価格(評価額)をみても、どのように計算されてこの価格になっているのかは分かりません。

 そのために「評価計算書」の提出を求めるのですが、ここに「評価計算書」の例を掲げます。
「評価計算書(例)」

 ここに掲げた「評価計算書」は全体の一部です。また市町村によっては形式も名称も異なっています。
 固定資産税家屋の評価は非常に複雑な内容ですので、それを計算する「評価計算書」も複雑になっています。

 最近では、どこの市町村でも電子システムを活用していますが、それ以前は「データパンチ」(手書きの資料を電子化する)という方法で作成・保管され、仮に担当者がコピーを廃棄したとしても、組織としてはデータが保存されているのが普通なのです。特に家屋については、課税している間はデータを保存すべきなのです。
 そうでなければ、所有者にとって大切な財産である固定資産に対して評価・課税している根拠が疑われ、信頼性も損なわれることになります。

 ところで、平成25年4月16日の東京高等裁判所の判決「固定資産税評価審査決定取消請求控訴事件」において、本件と同様な事例が扱われていますので、次号で紹介します。