(第54号)所有者が不明の土地・家屋の現状と課題

(投稿・令和2年-見直し・令和5年2月)

 今回は、所有者が不明な土地・家屋の現状と課題についてです。

 その前に「固定資産税の納税義務者とは誰か」については、第9号で説明してありますが、簡単に復習しておきます。

 
 固定資産税(土地及び家屋に限定)の納税義務者は、原則として登記簿に所有者として登記されている者(登記簿所有者)又は土地・家屋補充課税台帳に登録されている者をいいます。
 その意味では、固定資産税の納税義務者は、必ずしも真実の所有者とは限りません。

 また、この納税義務者は賦課期日(毎年の1月1日現在)に登記・登録されている者ですが、この登記・登録されている者が賦課期日前に死亡しているときは、固定資産税を「現に所有している者」が固定資産の所有者となります(地方税法第343条1項、2項)。

<固定資産税の納税義務者等>
※地方税法第343条
「1項  固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する。
2項 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については、当該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律第2条第2項の区分所有者とする。以下固定資産税について同様とする。)として登記又は登録がされている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録がされている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている第348条第1項の者が同日前に所有者でなくなつているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。」

なぜ所有者不明の土地・家屋が発生する

所有者不明土地・家屋の発生要因

 ところで、納税義務者が死亡して相続登記がなされる場合には、その情報が課税する市町村に通知され新たな納税義務者を把握することが出来ますが、相続登記がなされない場合には、死亡の事実の把握も新たな納税義務者を決めることも簡単ではありません。

 近年では、土地・家屋の相続の問題や、国外に居住する納税義務者の増加等様々な理由により、固定資産税の納税義務者たるべき者の住所や実態等が不明確となり、市長村の現場における課税・徴収の実務に支障を来す事例も増えてきています。

 課税・徴収の実務に支障を来す事例としては、主に次のようなもが想定されます。
① 登記簿上の所有者(=納税義務者)の住所や存在が不明
 登記簿上の所有者が住民票の異動を行わず転出したのち居所不明となっているケースや、国外に住所等を有しており実態がつかみにくいケースなど。

② 登記簿上の所有者が死亡し、相続人(=納税義務者)が不明
 相続人に所有権が移転されたがその所在を把握できないケースや、相続人がおらず相続財産管理人も選任されていないケースなど。

③ 登記簿上の所有者である法人が解散したが、変更登記がなされていない
 承継法人がおらず、清算人又は破産管財人も選任されていないケースなど。

賦課・徴収にあたっての現状と課題

死亡の事実の把握と相続人調査

 納税義務者が死亡し相続が発生した場合、相続登記がなされれば、その情報は課税庁に通知され新たな納税義務者をを把握することができます。

 しかし、相続登記がなされない場合、死亡の事実及び新たな納税義務者となる相続人を課税庁が自ら調査・特定することとなり、この負担も増加しています。

① 死亡の事実の把握
 納税義務者の住所地(=死亡届の提出先)が固定資産課税と同一市町村内であれば、死亡届が戸籍担当部局から固定資産税担当部局と共有されます。

 一方で、住所地が課税庁と異なる納税義務者については、死亡事実の把握が限られることになります。住民登録外者についても、住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」)を用いて照会し、本人情報を取得することが可能ですが、この住基ネットはマイナンバーカードが進んでいないこと等から、十分活用できていません。

② 相続人の調査・特定
 この調査はほとんどの市町村において、戸籍や住民票等の公簿上の調査を行っていますが、被相続人や法定相続人全員の本籍地にに対して戸籍等を請求・取得することから、費用対効果等において問題もあります。

 そのため、多くの市町村では、書類の送付先としての代表者を指定するための「相続人代表者届」(地方税法第9条の2)の届出を求めています。

<相続人からの徴収の手続> 
※地方税法第9条の2 
「1項 納税者又は特別徴収義務者においては、第11条第1項に規定する第二次納税義務者及び第16条第1項第6号に規定する保証人を含むものとする。)につき相続があつた場合において、その相続人が二人以上あるときは、これらの相続人は、そのうちから被相続人の地方団体の徴収金の賦課徴収(滞納処分を除く。)及び還付に関する書類を受領する代表者を指定することができる。この場合において、その指定をした相続人は、その旨を地方団体の長に届け出なければならない。」 

相続人の一部に対する課税

 上記のとおり、法定相続人の全てを調査・特定するためには、相当の時間と労力を要することになるため、法定相続人の一部が判明した場合、その一部の者に納税通知書を送付している市町村が、アンケート調査の結果70%となっているとのことです。

 この相続人の一部に対する課税は、連帯納税義務が生じている共有者の一部に対する納税の告知で法的にも可能なのですが、これが、課税客体である土地・家屋に対する滞納処分となると、相続人全員に対して納税の告知、督促等を行う必要があることに注意が必要です。

相続人の存在が一人も明らかでない場合

 相続人の調査を行っても、法定相続人全員が相続放棄をしている等により、相続人の存在が一人も明らかでないケースもあります。

 この場合には、民法上、相続財産は法人となり、利害関係人の請求によって家庭裁判所が相続財産管理人を選任することとなりまた、課税庁においても、利害関係人として相続財産管理人の選任を請求することができます。

 しかし、そもそも課税庁としては、未納分の税額を回収する目途が立たない等コストをかけて選任を請求するメリットはあまりありません。

所有者不明の固定資産税への対応策

 以上のように、課税庁たる市町村では、法定相続人の調査が出来きれない場合、法定相続人の一部が判明した場合には、その一部の者に対して納税通知書を送付している場合も多いようです。

 また、賦課期日に現に所有している者が一部が特定できているばあい、判明している所有者のみに課税を行っている市町村もあります。

 一方では、戸籍等による相続人調査が途中で途切れてしまい、相続人の存否すら明らかにならない場合もあり、お手上げ(課税保留)の場合もあります。

 そこで、この所有者不明な土地・家屋への対応として、「相続登記の義務化」や「使用者を所有者とみなす制度の拡大」等の制度改正が行われることになりました。

(次号に続きます)
 
2022/06/05/12:00