(第76号)生産緑地指定解除の2022年問題と固定資産税の対応

(投稿・令和3年7月-見直し・令和5年4月)

 生産緑地とは、1991年(平成3年)から生産緑地法により、都市圏の市街化区域内の農地のうち、生産緑地地区として都市計画決定がされている農地です。

「生産緑地地区の標識」
 現在では東京ドーム約3,000個分にも相当する農地が生産緑地として指定されていますが、そのほとんどが東京都、大阪府、愛知県とその近郊の圏内に集中しています。

 この生産緑地が指定から30年後の2022年(令和4年)に指定の解除が可能となります。そうなると、土地を売却するなど、これまで生産緑地だった土地が一気に市場に流出し、土地の価格が暴落したりすることも懸念されています。

 これを「生産緑地の2022年問題」とも言われています。
 しかし、次号でお知らせしますが「生産緑地の2022年問題」は”取り越し苦労”でありました。

生産緑地とは何か

(1)30年間の営農義務

 生産緑地に指定されている土地の所有者に対しては、「30年間の営農義務」が課されています。また、営農義務以外にも次のことを守る必要があります。
① 生産緑地を農地として管理しなければならない。
② 生産緑地である旨を掲示しなければならない。
③ 生産緑地地区において建築物や工作物の造成、土地に手を加える行為はできない。ただし、農林漁業を営むための施設等は市町村長の許可を得て設置・管理できる。

(2)固定資産税の優遇

 市街化区域内にある農地(市街化区域農地)は、通常宅地並みの固定資産税の評価・課税がされますが、生産緑地地区内にある農地は、市街化調整区域内の農地(一般農地)として評価・課税されています。

 

(3)相続税の納税猶予

 相続や遺贈により生産緑地を取得した場合、その取得者は生産緑地分の相続税の納税猶予を受けることができます。ただし、あくまでも「納税猶予」であることに注意が必要です。
 例えば、相続人が営農を廃止した場合、相続時までさかのぼって相続税が課税されるとともに、猶予期間に応じた利子税まで支払うことになります。

生産緑地の2022年問題

 生産緑地に指定されている間は「営農義務」が課され、他人に譲渡することもできませんでしたが、30年の「営農義務」経過後は市町村に対して買取の申し出を行い、市町村が買い取らない場合は、民間に売却することが可能となります。
 この結果として、土地が大量に市場に供給され、地価の下落を引き起こすことも懸念されています。この生産緑地問題は「2022年問題」とも言われています。
生産緑地の指定が解除されると固定資産税の減免もなくなることから、所有し続けることの負担が大きいことも「2022年問題」が懸念される理由の一つでもあります。

生産緑地法の変遷

(1)新生産緑地法改正(2017年)

 2017年に改正された生産緑地法の内容とポイントです。
①特定生産緑地指定
 生産緑地は30年の「営農義務」経過後は市町村に対して買取の申し出ができますが、特定生産緑地に指定された土地は、買取の申し出をできる時期が10年先送りにされることになりました。ここで先送りされた場合は、固定資産税の減免などの減税措置を引き続き受けることができます。これにより「2022年問題」の影響を緩和する意図があります。
②条例による面積要件の引き下げ
 生産緑地地区の面積要件はこれまで500㎡でしたが、市町村が一定の基準のもと、条例により面積要件を300㎡に引き下げることが可能となりました。これは、500㎡という要件が都市部の農地にしては広いものだったことが改正に至った要因です。
③行為制限の緩和
 これまで生産緑地内に設置できるのは農業用施設のみでしたが、これでは所有者が生産緑地を使って収益を得ることが難しい状況にありました。こうしたことから、改正後には地元の農産物を使った商品の製造、加工、販売のための施設やレストランを設置できるように変更されました。

(2)田園住居地域創設

 2018年4月1日に改正された都市計画法の施行に伴い、用途地域に田園住居地域が新たに追加されました。
 田園住居地域は住居系の「農業の利便の推進を図りつつ、良好な低層住宅の環境を保護する地域」です。つまり、農地と市街地の共存を図る目的で田園住居地域が追加されたということです。

(3)都市農地賃借法制定(2018年)

 「都市農地賃借法」を一言で表すと、「生産緑地の所有者が生産緑地を第三者に貸しやすくなる法律」です。
①法定更新適用なし
 一般農地も第三者に貸すことはできますが、農地法により賃貸借契約が自動更新される法定更新制度が適用されてしまい、一度農地を貸したら返してほしいタイミングで返ってこない可能性がありました。しかし、都市農地賃借法の適用を受けられる生産緑地においては、法定更新制度の適用から除外されるため、安心して農地を貸せるようになっています。
②相続税納税猶予制度は継続
 都市農地賃借法の適用を受けて生産緑地を貸し出すと、生産緑地を第三者に貸しだしても相続税の納税猶予制度を継続して利用できるようになりました。

2022年における選択肢と固定資産税

(1)生産緑地の買取申出後に売却か有効活用する

 30年経過後、市町村に生産緑地の買取りを求め、市町村が買取らず3ヵ月間経過した時点で、民間への売却が自由となります。
<固定資産税は基本的に宅地課税となります。>

(2)特定生産緑地の指定を受けて営農を継続する

 今後10年間、従来どおりの生産緑地(営農)を続けるため、特定生産緑地の指定を受ける。
<固定資産税は、一般農地課税が継続されます(延長も可能です)。>

(3)特定生産緑地の指定を受けて市民農園等に貸借する

 特定生産緑地の指定を受け都市農地賃借法の適用を受けて、市民農園等で第三者に貸借する。
<固定資産税は、一般農地課税が継続されます。>

(4)特定生産緑地指定に指定されなかったが農地を継続する

 この場合は宅地並みの市街化区域農地となりますが、激変緩和措置があります。
<固定資産税は、30年経過後1年目(市街化区域農地の0.2)・2年目(0.4)・3年目(0.6)・4年目(0.8)・5年目~(1.0)>

2022年問題はどうなるでしょう?

 昨今では、行政に生産緑地の買取申出を行っても、その土地が公共事業の必要性が高く無い限りは取得されなのが一般的です。そうしますと、民間に売却するのがほとんどのケースとなっています。
 2022年度は来年度ですが、既に大手不動産業者が土地確保のために、生産緑地の保有者との交渉が行われているとも聞いております。

 さて、この生産緑地の2022年問題はどうなるでしょうか?
 
2022/07/31/10:00