(第88号)「固定資産税の仕組み」が十分に理解されない原因及びコンサルタントとしての「意見」

(投稿・令和4年12月-見直し・令和5年7月)

 今回は、筆者の行政での経験と固定資産評価見直しコンサルタントとしての実践から得た率直な感想及び「意見」をさせていただきます。

固定資産税はなぜ理解し難いのか

 ところで、「固定資産税の仕組み」は何故十分に理解されていないのでしょうか。

 「固定資産税の仕組み」が十分に理解されない原因は様々ありますが、大きな原因は、①土地と家屋は「賦課課税方式」のため、②土地と家屋の評価方法が複雑なためと考えられます。

 一方、償却資産は「申告課税方式」なのですが、これも一点問題があります。
 それは、家屋との関係なのですが、「家屋=賦課課税、償却資産=申告課税」のため、家屋の一部がダブって課税される二重課税(課税誤り)もある、ということです。

土地と家屋が「賦課課税方式」のため

 固定資産税の土地と家屋の評価方法は、固定資産評価基準に基づき行われることとされています。そして、毎年、納税通知書とともに課税明細書も送られてきますが、これを見てもよく分かりません。

 これは、土地と家屋は基本的に全国全ての資産を対象とするため、納税者の申告によらず役所が一方的に評価・課税する「賦課課税方式」によることに原因があります。そのため、納税者からすると、評価の内容(計算方法)までは分からないのです。

 ここで大事なことは、市町村の課税当局としては、毎年の課税明細書の発送や縦覧・閲覧制度が行われていますが、納税者から説明を求められた場合には、地方税法417条の「重大な錯誤」があるかどうかを確認した上で、内容を納税者に十分説明するべきなのです。

 納税者からの話では、市町村の窓口で「価格に不服があるのなら、審査申出でお願いします」と言われて、事実上「門前払い」にされてしまう場合もあるそうなのです。

固定資産税土地の評価の場合

「負担調整措置」の仕組みが原因

 土地の評価方法については、平成9年度から行われている宅地の「負担調整措置」の仕組みにより分かりにくくなっているのが現状です。

 本来であれば、課税年度の課税標準額に税率を乗じて税額を求める訳ですが、負担水準(前年度課税標準額/本則課税標準額)の値により、課税年度の課税標準額が決められるという複雑な内容になっています。

 
 「負担調整措置」制度がスタートしてから四半世紀が経っていますし、非住宅用地(商業地等)の据置ゾーンによる不公平や、住宅用地での負担水準が100に近づいている土地も多くなっている(これは統計が無いため推測)など、そろそろ見直す時期ではないでしょうか。

「申告制度」が所有者に知られてない

 土地の場合は、例えば非課税や減免あるいは小規模住宅用地の減額特例などにについては、市町村の条例により「申告」が義務づけられています。

 この「申告制度」は土地を外見からみただけでは分からないからですが、仮に「申告」が無かったとして、その後気がついたときはどうなるのでしょうか。

 役所の窓口でよく揉めることですが、納税者が課税当局から「これまで申告が無かったのだから還付ではなく、次年度からの非課税とする」と言われることがあることです。

 これに対しては、例えば非課税資産であれば例え無申告であっても、非課税と分かった以上は還付(あるいは返還)が必要であるのです。これは地方税法第348条に非課税規定があり、非課税とは課税してはいけない「課税禁止規定」であるからです。

 また、小規模住宅用地の減額特例については、平成4年の浦和(現さいたま)地裁により「申告が無くても減額特例を適用しないことが許されるものではない」との判決があります。
 なお、平成18年の大阪高裁では「被控訴人(納税者)にも申告をしなかった過失があるため3割の過失相殺を認める」との判決がありますので、市町村と交渉してください。

 

「適正な時価=客観的な交換価値」なのか

 地方税法341条5号では「価格=適正な時価をいう」とあり、この「適正な時価」とは何かについて、平成15年6月26日の最高裁判決で「適正な時価=客観的な交換価値」とされています。

 本来「交換価値」となると、土地評価においては「市場流通性(※)」の要素が含まれるのが一般的である訳ですが、固定資産評価基準では、例えば大規模画地評価は「奥行価格補正で足りる」として「市場流通性」が考慮されていません。これでは「適正な時価=客観的な交換価値」に疑問を呈さざるを得ません。

※「市場流通性」とは……土地の売買においては、面積が大きくなるに従って総額が嵩むためその分単価が小さくなるという「不動産取引の世界」では一般的な考え方です。

 
 これも「私見」ですが、固定資産税の評価は、「保有価値」に着目した「資産税」である訳ですから、「交換価値」ではなく「使用価値」とすべきであると考えます。「適正な時価=客観的な使用価値」です。

固定資産税家屋の評価の場合

「再建築価格方式が」が極めて複雑

 また家屋については、「再建築価格方式」という極めて複雑な評価方法が採用されていることです。

 再建築価格方式とは、評価の対象となる家屋と同一のものを、評価する時点において、その場所に新築するとした場合に必要とされる建築費(再建築価格)を求める方法です。

 
 この家屋の評価方法は、固定資産評価基準による評価方式が始まって以来継続されています。

 これまでも、家屋評価の簡素化については、総務省及び一般財団法人資産評価システム研究センターを中心に検討されてきていますが、あくまでも「再建築価格方式」枠内の簡素化検討に終始しているのではないかと思います。

「取得価格方式」を採用すべき

 そこで、家屋評価の簡素化としては、この際「再建築価格方式」の枠を超えて検討すべきであり、筆者の個人的意見ですが、「取得価格方式を採用すべき」ではないかと考えます。

 
 固定資産税はその名のとおり「資産税」ですので、事業用、非事業用にかかわらず実際に費やした費用を根拠にした「取得価格方式」が納税者にとっても理解しやすい評価方法になります。

 現在の「再建築価格方式」では、計算した価格が結果として概ね取得価格の6~7割程度となっているようですので、「取得価格方式」では、取得価格に6~7割の調整率を加え、経年減価補正率を乗じて評価額を求める方法です。

<「取得価格方式」の内容>
 評価額 = 取得価格 × 調整率(※)× 経年減価補正率
 ※木造:6割、非木造:7割を想定

 もちろん家屋評価方式の変更は、これまでの評価方法との整合性等課題が多い(大きい)ことは承知しています。

 しかし、ここは長期的視点に立って評価の簡素化を図るべきで、「取得価格方式」によれば市町村での評価実務も簡素化され、「課税誤り」も少なくなるものと考えられます。
 
2022/12/17/15:00