(第121号)利用ニーズが大幅に低下した土地の評価について

(投稿・令和7年6月)

 今回は、利用ニーズが大幅に低下した土地の評価についてです。

 近年、人口の減少や都市部への一極集中など、様々な要因によって利用ニーズが大きく低下した土地の固定資産評価額が、実勢価格と乖離しているのではないかとの報道があります。

 利用ニーズの低下した土地が存する地域には、山間部の集落や郊外の住宅団地のように人口減少により過疎化が進み、土地取引の頻度が減少している地域も多いと考えられます。

 この件では、一般財団法人 資産評価システム研究センター(以下「評価センター」)で、過疎化が進む地域における実態を把握して、課題を整理し解決策を研究しています。
 今回は、その一部の紹介となります。

宅地等の評価方法

 まず、宅地の評価方法を復習を兼ねて掲げます。

1. 地目の認定

 地目とは、土地の現況及び利用目的による区分を表すもので、固定資産評価基準では、土地を田、畑、宅地、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野及び雑種地の9 地目に分類されています。

<固定資産評価基準の地目一覧>

 
 そして、固定資産評価基準では、地目別に評価方法が定められています。

2. 宅地の評価

 宅地の評価方法は、「市街地宅地評価法」と「その他の宅地評価法」に分けられ、市町村の宅地の状況に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法(路線価方式)」によって、また市街地的形態を形成するに至らない地域における宅地については「その他の宅地評価法(標準宅地比準方式)」によるものとされています。

<宅地の評価手順>

(1)市街地宅地評価法
 市街地宅地評価法は、いわゆる路線価方式を採用していますが、主に次の手順によります。。
市町村の宅地を商業地区、住宅地区、工業地区、観光地区等に区分。
状況が相当に相違する地域ごとに、その主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定。
標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価を求め、これに基づいて上記主要な街路の路線価を付設し、これに比準してその他の街路の路線価を付設。
路線価を基礎とし、画地計算法を適用して各筆の宅地の評点数を付設。

(2)その他の宅地評価法
 その他の宅地評価法(標準宅地比準方式)の評価方法は、次のとおりです。
状況類似地区を区分。
状況類似地区ごとに標準宅地を選定。
標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価に基づいて評点数を付設。
標準宅地の評点数に比準して、状況類似地区内の各筆の宅地の評点数を付設。

(3)不動産鑑定士等による鑑定評価
上記(1)及び(2)において、標準宅地の適正な時価を求める場合には、当分の間、基準年度の初日の属する年の前年の1月1日の地価公示法による地価公示価格及び不動産鑑定士(補)による鑑定評価から求められた価格等を活用することとし、これらの価格の7割を目途として評定するものとします。
不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行うに当たっては、不動産鑑定評価基準において、価格形成要因について、不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要の三者に影響を与える要因をいうものと定めており、不動産の価格を求める鑑定評価の基本的な手法として、原価法、取引事例比較法及び収益還元法などが挙げられています。

今後の検討課題

 過疎化が進み、土地の利用ニーズが大幅に低下する地域は、上記(1)より(2)「その他の宅地評価法(標準宅地比準方式)地域」が該当すると思われます。

 過疎化が進む地域においては、人口減少により、例えば商店やスーパーの閉鎖、公共交通の利便性の低下など、その地域における基礎的な生活条件の確保に支障をきたすようになるとともに、産業の担い手不足などにより地域の生産機能が低下しています。

 これらにより土地取引の減少が見られ、標準宅地の鑑定評価を行うに際して取引事例の収集が困難であることが課題として上げられています。

 このように過疎化が進み、利用ニーズが大幅に低下した土地(宅地)の評価について、今後の検討課題として次の項目が挙げられています。

1. 用途地区の区分

 空き家等が増えた場合の用途地区の区分の見直しです。
(1)商業系から住宅系への用途地区の見直し
(2)住宅系から村落地区への用途地区の見直し(市街地宅地評価法適用地域からその他の宅地評価法適用地域への見直しを含む)

2. 状況類似地区(域)の区分

 状況類似地区(域)の区分についての見直しです。
(1)価格水準の把握が困難な場合
(2)利用状況の変化の把握が困難な場合

3. 標準宅地の選定

 標準宅地の見直しです。
(1)標準宅地が空き家となった場合
(2)標準宅地の建物が取り壊されて空き地となった場合

4. その他

 地目認定の見直しとして、宅地から雑種地への見直し(補正率、造成費等の考慮を含む)があります。
 
2025/06/13/14:00
 

 

(第120号)非木造の複合構造家屋に対する経年減点補正率の評価について

(投稿・令和7年6月)

 今回は、非木造家屋の構造が複合構造(鉄骨鉄筋コンクリート造「SRC造」、鉄筋コンクリート造「RC造」、鉄骨造「S造」)になっている場合の経年減点補正率をいかに評価するかです。

経年減点補正率とは

 まず経年減点補正率とは、 家屋を通常の維持管理を行うものと した場合において、その年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎と して定められた補正率です。

 家屋の評価額は、主に「再建築評点数×経年減点補正率」ですが、その補正率です。

<家屋の固定資産税評価>

木造家屋の経年減点補正率

 木造家屋では構造別がありませんので、経年減点補正率は用途別区分及び延べ床面積1. 0㎡当たり再建築費評点数の区分により、初年度0.80 、2年度0.75 、3年度0.70、4年度以降は経年減点補正率の最低限度(「最終残価率(20%)」) に達するまでの期間に応じて定額法を基本として求められています。

 ここに木造家屋の経年減点補正率基準表の例を掲げます。

<木造家屋—1. 専用住宅、共同住宅、寄宿舎及び併用住宅用建物>

非木造家屋の経年減点補正率

 これに対して、非木造家屋にあっては、 用途別区分だけではなく構造別区分により、最終残価率に達するまでの期間に応じて定額法を基本として求められます。

 ここに用途別区分の事務所、銀行用建物の経年減点補正率基準表を掲げますが、「SRC造」、{RC造}、「S造」の構造別に区分されています。

<非木造家屋—1. 事務所、銀行用建物及び2~8以外の建物>

複合構造家屋の経年減点補正率

 非木造の複合構造家屋とは、一棟の建物で複数の異なった構造を有する家屋ですが、固定資産評価基準ではその評価方法は定められていません。

 では、複合構造家屋の場合の経年減点補正率はどう評価するのかです。

 これまで、一般財団法人資産評価システム研究センタ-により、次の方法が示されています。(平成26年3月「家屋に関する調査研究」から抜粋)

1.  複合構造家屋の経年減点補正率は、 原則として、 最も大きな床面積を占める主たる構造により、一棟単位で適用するが、当該市町村内の家屋の評価、課税の均衡上問題があると市町村長が認めるときには、構造種別の異なる部分ごとに適用することができることとする。

2.  家屋の構造種別は、 主に柱に着目し判断する。

3.  構造種別の異なる柱の接合部が階の途中にある場合、当該柱のうち最も多い割合を占める構造種別を当該柱の構造とする。

4.  同一の階の中で、複数の構造種別の柱が混在している場合において、主たる構造が直ちに判断できない場合にのみ、隣接する柱を2等分する線で囲まれた床面積を、当該柱の構造の床面積として判断する。

5.  階高が著しく異なる等、床面積によ り主たる構造を判断することが不合理であると考えられる場合に、柱で最も多く使用されている部材の構造種別により経年減点補正率を適用すべきという考え方に基づいた他の手法による結果を考慮して判断することも、 否定されるものではない。

6.  経年減点補正率の適用単位にっいては、以 下の要件を総合的に考慮し、判断する。
(1)外気遮断性の有無 (外観上の一体性)
(2)構造上一体か否か(構造上の一体性)
(3)利用実態が一体か否か(用途上の一体性)

最高裁(令和2年2月27日)判決

 この最高裁判決は、原判決(高裁判決)3件に対するものですが、いずれも同様な内容で、大まかな内容として「家屋が複数構造の場合は一棟単位を対象とし、かつ低階層の構造を主として適用する」というものです。

 これは、前記の「家屋評価に関する調査研究」(平成26年版)の内容とほぼ同じになっています。

 ここで、最高裁の裁判官4人のうち3人の多数意見の理由をまとめると、次のようになります。(「資産評価情報(令和7年5月号)」から抜粋)

1.  経年減点補正率の所定経過年数は、物理的要因により定まる耐用年数を基礎として、機能的要因や経済的要因により定まる。

2.  耐用年数の判断は、家屋の取壊しを行うか否かにより一棟単位でなされる。

3.  家屋に作用する荷重や外力が最終的には低層階を構成する構造によって負担されることになる。

4.  本件家屋については、低層階を構成する構造のうち耐用年数が最も長いものの耐用年数が経過しない限り、それ以外の構造の部分の補修等によって建物としての効用の維持を図ることができるものと考えられる。

5.  取壊しに係る判断が、低層階を構成する構造のうち最も耐用年数が長いものに着目してされるものとみることも不合理ではない。

筆者の意見

 これまでの「複合構造家屋の経年減点補正率」と「最高裁(令和2年2月27日)判決」について、どうなのでしょうか。

 前記最高裁における複合構造家屋では、S造割合が80%~90%もあるのですが、低階層部分はSRC造又はRC造で堅固な構造になっているのです。
 そのため、一棟全体を低階層部分の耐用年数が長い構造で経年減点補正率を評価しているのです。

 そうしますと、家屋一棟の減点補正率が少なくなり、家屋評価額(固定資産税価格)が高くなるのです。

 これを構造ごとに区分し、各構造部分について異なる補正率をかけて評価すると評価額は低くなりますが、行政の実務的負担が大きくなりますので、最高裁判決においてもこの点が考慮されているのです。

 しかし、「行政の実務上の都合から家屋評価が高くなる」のは、納税者からすると納得できないものです。

 最高裁の少数(反対)意見でも、「コンピュータによる数理計算が普及した現代においてこの実務上の理由にいかほどの説得力があるのか疑問なしとしない」とも述べています。

 ところで、現在では、新築家屋に関して低階層方式を採用している市町村は多くないようです。これは、市町村毎に固定資産税評価要領で定められているからです。

 更に言わせていただくと、やはり、家屋評価の「再建築価格方式」という複雑な評価方法を見直す必要もあるのではないでしょうか。
 
2025/06/04/15:00
 

 

(第119号)令和7年度の固定資産税に関する税制改正について

 
(投稿・令和7年6月)

 今回は、令和7年度の固定資産税に関する税制改正の解説(概要)です。

 税制改正の項目は、次5点になります。
1. 生産性向上や賃上吠こ資する中小企業の設備投資に関する固定資産税の特例措置の拡充及び延長
2. 鉄道の豪雨対策の促進に係る課税標準の特例措置の創設
3. 港湾の民有護岸等の耐震化の推進に係る課税標準の特例措置の拡充及び適用期限の延長
4. 令和2年7月豪雨に係る固定資産税・都市計画税の特例措置の適用期限の延長
5. 2027年国際園芸博覧会の開催に伴う特例措置の創設

令和7年度の固定資産税の税制改正

1. 生産性向上や賃上吠こ資する中小企業の設備投資に関する固定資産税の特例措置の拡充及び延長

 
(1)改正の背景

 中小企業は地域の経済や雇用を支え、経済全体を発展させる重要な役割を担っている。赤字企業を含む中小企業の前向きな投資を後押しすることにより、生産性向上や賃上げを促進し経済全体の発展を図るため、固定資産税の特例措置について要件等を見直した上で2年間延長されました。

(2)改正の概要

適用要件において、雇用者給与等支給額の引き上げが必須条件となります。
雇用者給与等支給額を3%以上引き上げる方針を同計画に位置付けた場合の減免割合が最大3/4(改正前は最大2/3)に引き上げられます。

※ 制度が複雑なため一覧表を掲げます。

2. 鉄道の豪雨対策の促進に係る課税標準の特例措置の創設

 
(1)創設の背景

 近年では、短時間に降る猛烈な雨の年間発生回数は増加しており、鉄道施設の豪雨対策の重要性は今後更に高まっていくものと考えられます。豪雨災害に伴い、河川に架かる鉄道橋りょうの流失・傾斜被害や鉄道隣接斜面の崩壊による土砂流入被害が生じると、その復旧に長期間を要し、鉄道の運休が長引く事態が生じます。

 このような状況を踏まえ、豪雨対策を推進し、鉄道ネットワークの強靱化等を図るために、鉄道の豪雨対策の促進に係る特例措置を創設しました。

(2)特例措置の概要

 鉄軌道事業者が豪雨対策のために取得した次の線区に存する一定の償却資産に係る固定資産税について、課税標準を最初の5年間価格の3分の2(JR 本州3社については4分の3)とする特例措置を令和9年3月31日まで講ずることとしました。
1日当たりの片道断面輸送量が1 万人未満の線区
1日当たりの片道断面輸送量が1 万人以上15 万人未満の線区(JR 本州3社の線区を除く)
1日当たりの片道断面輸送量が15万人以上の線区であって、貨物列車又は優等列車が運行する線区(JR 本州3社の線区を除く)

3. 港湾の民有護岸等の耐震化の推進に係る課税標準の特例措置の拡充及び適用期限の延長

 
(1)改正の背景

 港湾には官民の多様な者が集積しており、民間事業者が所有・管理している護岸等も、航路の機能確保や後背地の浸水防護の観点で重要な施設です。
 しかし、それらの中には、平均海面水位の上昇や高潮・高波の災害リスクの増大を踏まえると嵩上げ等が必要なものが存在します。

 このため、港湾の民有護岸等の耐震化の推進に係る固定資産税の課税標準の特例措置について、港湾法の改正を前提に、港湾全体の浸水被害を防ぐ協働防護の取組を推進するよう、次の見直しを行った上、3年の延長を行うこととされました。

(2)改正の概要

対象地域を全国(現行: 南海トラフ地震防災対策推進地域、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進地域及び首都直下地震緊急対策区域)に拡大します。
対象資産を政府の補助を受けて同法に規する協働防護計画(仮称)が作成された国際戦略港湾、国際拠点港湾又は重要港湾において新たに取得され、又は改良された定特定港湾施設(仮称)であって国土交通大臣が認めた護岸、岸壁、物揚場、防潮堤、堤防及び胸壁とされます。

4. 令和2年7月豪雨に係る固定資産税・都市計画税の特例措置の適用期限の延長

 
(1)改正の背景

 令和2年7 月豪雨に係る特例措置については、(a)被災住宅用地等に係る課税標準の特例措置は、常設規定の適用期間(被災後原則2年度分)終了後も2年延長しているほか、(b)被災代替家屋に係る税額の減額措置、(c)被災代替償却資産に係る課税標準の特例措置は、常設規定が適用されています(被災後4年以内)。

(2)改正の概要

 これらの特例措置は令和6年度に期限を迎えることになりますが、被災地及び関係省庁からの要望を踏まえ、引き続き2 年間適用を受けることができるよう、延長することとされました。

5.2027年国際園芸博覧会の開催に伴う特例措置の創設

 
(1)創設の背景

 令和9年3月19日から9月26日までの間、神奈川県横浜市において「2027 年国際園芸博覧会」が開催されます。この博覧会は、国際博覧会条約に基づき開催される国際博覧会であり、今回の税制改正においては次の措置を講じることとしました。

2)創設の概要

公式参加者等若しくは博覧会国際事務局、公益社団法人20277 年国際園芸博覧会協会、同協会との間に博覧会への出展参加契約を締結した者(公式参加者等を除く。)又は家屋等貸与者が博覧会関連業務の用に供する一定の固定資産に係る固定資産税及び都市計画税について、非課税とする措置を講ずることとされます。 国又は地方公共団体が公益社団法人2027年国際園芸博覧会協会に対して無償で貸し付け、又は使用させている土地で博覧会関連業務の用に供するものについて、国有資産等所在市町村交付金の交付対象から除外する措置を講ぜられます。
 
2025/06/01/10:00
 

 

(第118号)宅地内の「赤道」が公道に認定されている問題点

 
(投稿・令和6年9月-見直し・令和7年5月)

 今回は、宅地内の「赤道」(あかみち)問題ですが、必ずしも固定資産税がメインではありませんが、是非このような事実を知っていただきたいと思います。

※なお、この「赤道」問題は必ずしも全国全ての市町村で行われているのかは不明ですが、以下の事例は筆者が居住しているY市での内容です。市町村によっては、「宅地内の道路を公道として認定していない」場合もあるようです。

「赤道」(あかみち)とは何か

 
 「赤道」とは、古くから道路として利用された土地のうち、道路法の適用のない法定外公共物である道路(国有地)であったため、公図上で地番が記載されず赤色で着色されていたことから「赤道」と呼ばれています(里道とも言われています)。
(水路は青色で着色されていたことから「青道」と呼ばれています。)

 明治9年(1876年)太政官達第60号「道路ノ等級を廃し国道県道里道を定む」により、道路はその重要度によって国道・県道・里道の3種類に分けられました。

 大正8年(1919年)に(旧)道路法が施行され、いったん全ての道路は国の営造物(国有地)とされ、府県道は府県道知事が、市町村道は市町村長が管理するようになりました。その際、重要な里道のみを市町村道に指定したため、それ以外の里道については道路法の適用外で国有のまま取り残されました。
 里道のままとされた道路は、小さな路地や農道、山道(林道、けもの道)です。

 そこで、市町村道に指定された道路は市町村の道路台帳に登録され、実質的な道路状態の管理や維持が行われましたが、未登録の里道はその多くが公図に「赤線」で記載があるのみで、実質的な維持管理は周辺の住民任せで放置されていたのが実情でした。

 そして、平成12年4月1日に地方分権一括法が施行され、国土交通省(旧建設省)所管の「赤道(里道)・青道」などのいわゆる法定外公共物を無償で市町村へ譲与(所有権移転)されることになりました。
 この制度の譲与期間は、国有財産特別措置法の一部改正に伴う経過措置により平成17年3月31日までとなっており、各市町村は申請に基づいて譲与を受けることになりました。

 つまり、「赤道(里道)・青道」は国から市町村が無償で譲り受けているのです。

道路とは一般交通の用に供する道

 
 「赤道」でも普通に道路として使用されていれば問題は無いのです(そのケースは現に存在しています)が、多くの「赤道」は建物が存在する宅地内を通っているのです。

 例えば50年以上前から住み続けている宅地において、敷地内に「赤道」が通っているのですが、それが公道と指定されている場合があります。 

 「そもそも道路とは何か」ということですが、道路法第2条に道路の定義が規定されていますが、「道路とは、一般交通の用に供する道」ですので、宅地内に公道がある筈が無いのです。

 建物の敷地内に公道が通っていること、この状況は全国的にも多いのではないかと思いますが、これは問題ではないでしょうか。

<道路法—用語の定義>
「第2条1項」
「この法律において「道路」とは、一般交通の用に供する道で次条各号に掲げるものをいい……。」
<道路の種類>
「第3条」
「道路の種類は、左に掲げるものとする。
① 高速自動車国道
② 一般国道
③ 都道府県道
④ 市町村道」

 筆者は、Y市のある方から「敷地内に『赤道』があるのですが、どうすれば良いでしょうか」との相談を受けています。

 下記の左図は登記所の公図ですが、道路部分は地番が入っていません。昔はこの部分が赤色で着色されていたため「赤道」と呼ばれています。(現在の公図では、道路は赤色にはなっていません。)

 また、右図はY市の道路の認定路線図ですが、ここには「●●466」と認定路線番号が入っていますので、公道として指定されていることになります。


 
※ 認定道路とは
 道路法が適用される都道府県道、市町村道等を通称「認定道路」と呼んでいます。この認定道路とは、道路法に規定する路線の認定(道路法第7条、8条)、区域の決定(道路法第18条1項)供用の開始(道路法第18条2項)の行政行為を経た道路のことです。

 宅地内を通っている「赤道」は既に道路(公道)としての機能は果たしておらず、実質的な維持管理も土地所有者任せとされているのが実態なのです。

 本来、50年も建物の敷地として使用していれば時効取得になる筈なのですが。

 市町村では、この「取得時効」を防ぐために公道指定(路線認定)をしているのか、と疑わざるを得ません。

 しかし訴訟も大変なので、現実的には「赤道」の土地所有者は市町村から払下げを受ける(買い取る)方法に従っているのです。

「赤道」払下げの手続

 
 ところで、「赤道」を市町村から払下げを受ける場合、次の複雑な手続きや費用が発生します。

(1)土地測量と「赤道」部分の特定

 「赤道」の払下げを受ける際には、土地所有者の責任で土地測量を行い、宅地部分の面積と「赤道」部分の面積を確定する必要があります。当然、測量事務所に費用を支払うことにもなります。(市町村によっては補助金制度があります。)

(2)「赤道」沿いの所有者の承諾書

 払下げを受ける所有者の責任で「赤道」沿いの他の所有者の「承諾書」を取得する必要があります。
 何故、払下げを受ける所有者が「赤道」沿いの他の所有者から「承諾書」を取得する必要があるのか、根拠の法律も無いし理解できません。

(3)市町村議会での「公道廃止決議」

 宅地内の「赤道」が公道になっている場合は、議会での「公道廃止決議」が必要になります。この「公道廃止決議」により、道路から市町村の普通財産へと変更になります。
 つまり、土地所有者は市町村から普通財産を購入することになるのです。

(4)払下げ費用の支払い

 「赤道」が公道とされている市町村では、宅地所有者は市町村から普通財産の払下げを受ける(買い取る)ことになりますのが、市町村で決められている土地代金を支払うことになります。計算方法は市町村毎に異なると思われます。

※Y市の払下げ土地代金(計算方法の例)
<地価公示価格(又は払下げ対象地の固定資産税路線価÷0.7)×1/2×実測面積>
(商業地の場合は1/2の箇所が0.8。)

※固定資産税路線価は地価公示価格の7割ですので(固定資産税路線価÷0.7=地価公示価格)です。

固定資産税の非課税を確認

 
 そもそも、建物の敷地(宅地)内に公道(「赤道」)があることが正しいのか疑わしいものですが、仮に、敷地内に「赤道」が通っていることが分かった場合は、市町村で「赤道」への対策を確認してください。

 ただし、多くの市町村では、「赤道」という表現ではなく「法定外公共物」の用語が多いようです。

 なお、宅地内であっても「赤道」(公道)の固定資産税(土地)は非課税であるべきなのです。上記Y市の場合は、固定資産税が非課税となっています。
 
2024/09/17/15:00
 

 

(第117号)「固定資産税の仕組み」が十分に理解されない原因及びコンサルタントとしての「意見」

 
(投稿・令和4年12月-見直し・令和7年5月)

 今回は、「固定資産税の仕組み」が十分に理解されない原因と、筆者の行政での経験やコンサルタントとしての実践から、率直な疑問と意見をさせていただきます。

固定資産税はなぜ理解し難いのか

 
 ところで、「固定資産税の仕組み」は何故十分に理解されていないのでしょうか。

 この「固定資産税の仕組み」が十分に理解されない原因は様々ありますが、大きな原因は
(1)土地と家屋は「賦課課税方式」であること
(2)土地と家屋の「評価方法が複雑」なこと
が考えられます。
 これに対して償却資産は「申告課税方式」ですが、こちらの問題点としては
(3)家屋と償却資産の二重課税
があります。

土地と家屋は「賦課課税方式」

 
 固定資産税の土地と家屋の評価方法は、固定資産評価基準に基づき行われることとされています。そして、毎年、納税通知書とともに課税明細書が送られてきますが、これを見てもよく分かりません。

 これは、土地と家屋は基本的に全国全ての資産を対象とするため、納税者の申告によらず役所が一方的に評価・課税する「賦課課税方式」によることが大きな原因で、納税者からすると、評価の内容(計算方法)までは分からないのです。

 ここで大事なことは、市町村の課税当局としては、毎年の課税明細書の発送や縦覧・閲覧制度が行われていますが、納税者から説明を求められた場合には、地方税法417条の「重大な錯誤」があるかどうかを確認した上で、内容を納税者に十分説明するべきなのです。

 ところが、納税者から聞いた話ですが、市町村の窓口で「価格に不服があるのなら、審査申出でお願いします」と言われて、事実上「門前払い」にされてしまう場合もあるそうなのです。

土地と家屋の「評価方法が複雑」

土地は「負担調整措置」が原因

 土地の評価方法については、平成9年度から行われている土地の「負担調整措置」の仕組みにより分かりにくくなっているのが現状です。

 本来であれば、課税(基準)年度の課税標準額に税率を乗じて税額を求める訳ですが、負担水準(前年度課税標準額/本則課税標準額)の値により、課税年度の課税標準額が決められるという複雑な内容になっています。

 
 「負担調整措置」制度がスタートしてから四半世紀が経っていますが、非住宅用地(商業地等)の据置ゾーンによる不公平や、住宅用地での負担水準が100に近づいている土地も多くなっている(これは統計が無いため推測です)など、そろそろ見直す時期ではないでしょうか。

家屋は「再建築価格方式が」が複雑

 また家屋については、「再建築価格方式」という極めて複雑な評価方法が採用されていることです。

 「再建築価格方式」とは、評価の対象となる家屋と同一のものを、評価する時点において、その場所に新築するとした場合に必要とされる建築費(再建築価格)を求める方法です。

 この家屋の「再建築価格方式」は、固定資産評価基準による評価方式が始まって以来継続されています。

 「再建築価格方式」が決定される経過は、昭和34年4月から昭和36年3月の間に固定資産評価制度調査会において、家屋の評価方法として
再建築価格を基準として評価する方法
取得価格を基準として評価する方法
賃貸料の収益を基準として評価する方法
売買実例価格を基準として評価する方法
の4つの方法について検討されましたが、その結果、の「再建築価格方式」が採用され今日に至っています。

 その理由として、再建築価格は、家屋の構成要素として基本的なものであり、その評価の方式化も比較的容易であるので、「再建築価格方式」が適当であるとして決定された訳です。

 これまでも、家屋評価の簡素化については、総務省及び一般財団法人資産評価システム研究センターを中心に検討されてきていますが、あくまでも「再建築価格方式」枠内の簡素化検討に終始しているのではないかと思わざるを得ません。

 さらに最近では、家屋評価のAI化が図られたり(これ自体は良いことですが)、民間業者へ委託することがされ始めています。これは、職員の作業の簡素化(合理化)であって、家屋評価方式の簡素化とは異なります。

家屋と償却資産の二重課税に注意

 
 償却資産は「申告課税方式」なのですが、「家屋=賦課課税、償却資産=申告課税」のため、家屋の一部がダブって課税される二重課税(課税誤り)もある、ということですので注意が必要です。

 この内容は第66号「家屋と償却資産の二重課税(課税誤り)に注意(「建築設備」の場合)」で紹介してあります。

 

固定資産税評価に関する疑問点と意見

 
 固定資産税評価に関する疑問等はいくつかありますが、今回は(1)土地の「適正な時価=交換価値」で良いのか、(2)在来(中古)家屋評価が何故下がらないのか、(3)家屋の評価は「再建築価格方式」で良いのか、の3点について説明します。

(1)土地の「適正な時価=交換価値」で良いのか

 まず地方税法では「固定資産税の価格とは」との説明があり、「価格=適正な時価」と定義されています(地方税法第341条5号)。

<固定資産税の価格とは>
「地方税法第341条5号」
「固定資産税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
 5号 価格 適正な時価をいう。」
 
 そして、平成15年6月26日の最高裁判決で、「適正な時価とは……客観的な交換価値をいう」との見解が出され、土地の「適正な時価=客観的交換価値」とされています。

<平成15年6月26日最高裁判決>
「適正な時価とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解される。したがって、土地課税台帳に登録された価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば、当該価格の決定は違法となる。」
 
 ところで、「交換価値」となると、土地評価においては「市場流通性(※)」の要素が含まれるのが一般的である訳ですが、固定資産評価基準では、例えば大規模画地評価は「奥行価格補正で足りる」として「市場流通性」が考慮はされていません。これでは「適正な時価=客観的な交換価値」に疑問を呈さざるを得ません。

※「市場流通性」とは……土地の売買においては、面積が大きくなるに従って総額が嵩むためその分単価が小さくなるという「不動産取引の世界」では一般的な考え方です。

 
 固定資産税の評価は、「保有価値」に着目した「資産税」である訳ですから、「交換価値」ではなく「使用価値」とすべきではないでしょうか。「適正な時価=使用価値」です。

(2)在来(中古)家屋評価が何故下がらないのか

 相談者の方から「何故、中古家屋の評価額(税額)が下がらないのですか」とよく聞かれますが、その原因は次の2つ考えられます。

建設物価の上昇期には「評価額の据置」が行われること

 現在の「再建築価格方式」では、在来(中古)家屋の評価において、築後の経過年数(「経年減点補正率」)だけでなく、建設物価の状況(「再建築費評点補正率」)により物価上昇期には「評価額据置」が行われています。

<建設物価による家屋評価の上下> 

 この図のとおり、単に築年数の減価だけではなく、「前年度における再建築費評点数」に「再建築費評点補正率」(工事原価の物価水準)も関連づけて評価されているため、築年数を経るに従って単に評価額が下がる仕組みにはなっていません。

 右側の<物価上昇期>には、経年による減価は下がるものの、建設物価の上昇が大きく、計算上では前基準年度の評価額を上回る場合もあります。

 しかし、固定資産税の評価額を上げる訳にはいかないために「評価額据置」(前基準年度と同じ評価額)となりますが、これが「在来家屋の評価が下がっていない」仕組みの一つである訳です。

 ところで、「再建築費評点補正率」とは、東京都特別区の工事原価の物価水準で3年前の水準と比較してどの程度上下しているのかその割合ということになります。

 令和6年度では、木造1.11、非木造1.07とされており上昇していることになります。実は、この再建築費評点補正率は、ここ4基準年度(12年間)上がり続けているのです。

<再建築費評点補正率の推移>

 一般的には、家屋は築年数が経過するにつれて評価が下がっていくと考えられていますが、「評価額据置」はこの感覚には合わないものでもあります。

 つまり、在来(中古)家屋の評価において、「再建築費評点補正率(建設物価)」は「必要無い」のではと思います

固定資産税家屋の評価では「残価率(20%)」があること

 固定資産税の家屋評価では、もう一つ「残価率」という特徴があります。
 それは、家屋が存在している限りは、築年数が何年経っても「20%の評価額が続く」ということです。

<家屋評価の残価率>

 この図で固定資産税の取得価格(出発点)が60%としていますが、これは家屋の新築評価を行ったときの「実績」として、取得価格の60~70%程度に収まっているケースが多いことからです。

 このように、固定資産税家屋評価では、家屋を使用し続けている限りは何年経っても「残価率20%」が課税されています。

 なお、家屋が「空き家」として放置されるのは良く無いことですが、固定資産税は「行政サービスの対価」との性格がありますので、「20%が良いかどうかは別」として、一定の「残価率」は必要ではないかと思います。

(3)家屋の評価は「再建築価格方式」で良いのか

 そこで、家屋評価の簡素化としては、この際「再建築価格方式」の枠を超えて検討すべきであり、筆者の「意見」としては「『取得価格方式』を採用すべき」ではないかと考えます。

 
 固定資産税はその名のとおり「資産税」ですので、事業用、非事業用にかかわらず実際に費やした費用を根拠にした「取得価格方式」が納税者にとっても理解しやすい評価方法になります。

 現在の「再建築価格方式」では、計算した価格が結果として概ね取得価格の6~7割程度となっていますので、「取得価格方式」では、取得価格に6~7割の調整率を加え、経年減価補正率を乗じて評価額を求める方法です。

<「取得価格方式」の内容>
 評価額 = 取得価格 × 調整率(※)× 経年減価補正率
 ※木造:6割、非木造:7割を想定

 もちろん家屋評価方式の変更は、これまでの評価方法との整合性等課題が多く問題が多いことは承知しています。

 しかし、ここは長期的視点に立って評価の簡素化を図るべきで、「取得価格方式」によれば市町村での評価実務も簡素化され、「課税誤り」も少なくなるものと考えられます。

※ なお、取得価格とは「新築時の購入価格」又は「建築費用」ですが、取得価格を申告することになりますので、それが正しいものであることが立証できる仕組みを構築する必要があります。
 
2024/08/15/08:00