(第129号)固定資産税の「非課税」は「課税禁止」の制度(更新版)

(更新版・令和7年7月)

固定資産税の「非課税」制度

 地方税法には、固定資産税が課税されない「非課税」制度というものが規定されています。

 この「非課税」とは固定資産税を「課税しない」ということではなく、市町村の意思いかんにかかわらず納税義務を負わせることができない、固定資産税を「課税してはいけない」という法的な「課税禁止」の制度なのです。

 固定資産税の「非課税」制度には、「人的非課税」と「物的非課税」の二つの種類があります。

固定資産税の「人的非課税」

「人的非課税」とは

 市町村は、国、都道府県、市町村、特別区、これらの組合、財産区及び合併特例区に対しては、固定資産税を課することができないとされています。これを「人的非課税」と言います。

 これらが所有する固定資産の典型的なものとしては、国道、県道、市町村道あるいは役所の庁舎、公立学校などが該当します。

 これは、国、都道府県、市町村が有する固定資産については、それがどのような性格を有するものであろうと、また、どのような用途に供されているものであるかを問わず、すべて固定資産を課することができないということを意味します。

<固定資産税の「人的非課税」>-地方税法第348条1項
「 市町村は、国並びに都道府県、市町村、特別区、これらの組合、財産区及び合併特例区に対しては、固定資産税を課することができない。」

「人的非課税」の例外

 「人的非課税」といえども、国や地方公共団体が所有している固定資産が一般の固定資産と異ならないような状態で使用収益されているもの、例えば、公務員の宿舎や民間への貸付土地等は、「人的非課税」扱いはされません。

 この場合は、「国有資産等所在市町村交付金法」により、固定資産税に準ずるものとして、その固定資産所在の市町村等に対して、国有資産等所在市町村(都道府県)交付金が交付されています。

<市町村に対する交付金の交付>-国有資産等所在市町村交付金法第2条
「 1.国又は地方公共団体は、毎年度、当該年度の初日の属する年の前年(以下「前年」という。)の3月31日現在において所有する固定資産で次の各号に掲げる固定資産に該当するものにつき、当該固定資産所在の市町村に対して、国有資産等所在市町村交付金(以下「市町村交付金」という。)を交付する。」

 上記の「各号に掲げる固定資産に該当するもの」とは、次が該当します。
・ その所有する固定資産で他のものに使用させているもの。
・ 空港の用に供する固定資産
・ 国有林野に係る土地
・ 発電所、変電所又は送電施設の用に供する固定資産
・ 水道施設又は工業用水道施設のうち取水施設等の用に供する固定資産
・ 石油の備蓄の確保等に関する国家備蓄施設の用に供する固定資産

固定資産税の「物的非課税」

「物的非課税」とは

<固定資産税の「物的非課税」>-地方税法第348条2項
「 固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。
ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合には、当該固定資産の所有者に課することができる。」

 「物的非課税」は、例えば、宗教法人、墓地、公共の用に供する道路(私道)、社会福祉法人、学校法人、国宝、重要文化財等が所有している固定資産の場合です。

 地方税法では「物的非課税」とされる固定資産が約70項目規定されています。地方税法第348条2項各号(59項目)に列挙する固定資産及び同条第4項、第5項、第6項、第7項、第8項、第9項(6項目)並びに法附則14条1項2項、14条の2,41条3項、41条8項(5項目)に規定する固定資産に対しては課税することができません。

 またこの規定は、これ以外は認めることが出来ない「限定列挙」となります。

※ 物的非課税の詳細は、別表「固定資産税の物的非課税(一覧表)」をご覧ください。70項目全てを表示しています。

「物的非課税」が適用されない場合

(1)有料使用の場合の課税
 地方税法第348条2項各号に列挙する資産等に該当するものであっても、その固定資産を有料で借り受けた者がこれを同条同項各号の固定資産として使用する場合においては、その固定資産の所有者に固定資産税を課税することができます。(地方税法第348条2項ただし書)。

例えば、国や地方公共団体が私人に地代及び家賃を支払って建物を借りている 場合には、官公庁用が使用していても、貸している所有者に課税されます。

(2)目的外使用の場合の課税
法第348条2項各号等の固定資産がそれぞれ各号に定められている目的外の目的に使用される場合には、その固定資産税は課税されます。

<目的外使用の場合の課税>-地方税法第348条第3項
「 市町村は、前項各号に掲げる固定資産を当該各号に掲げる目的以外の目的に使用する場合においては、前項の規定にかかわらず、これらの固定資産に対し、固定資産税を課する。」

「物的非課税」には申告が必要

 「物的非課税」を適用するにあたっては申告が必要とされています。
 この申告制度は、地方税法には規定されておらず、総務省の通知に基づいて、市町村毎の条例により定められています。

固定資産税の「物的非課税一覧表」

 なお、次に固定資産税の「物的非課税一覧表」(70項目)を掲載しますので、参考にしてください。

 
2025/07/12/18:00
 

 

(第128号)固定資産評価は相続税、不動産取得税、登録免許税でも利用(更新版)

(更新版・令和7年7月)

 固定資産税の価格(評価額)は、他の税金の評価でも活用されています。

 では、どのような税金に活用されているのでしょうか。

 固定資産税の価格は、(1)相続税の「倍率方式による評価」、(2)相続税の「家屋の評価」、(3)不動産取得税の「課税標準額」、(4)登録免許税の「課税標準額」の評価に用いられています。

相続税の「倍率方式による評価」

 相続税の宅地の評価方法には、路線価方式と倍率方式がありますが、倍率方式は、路線価が定められていない地域の土地の評価方法です。主に市街化調整区域(非住宅地区)内の宅地、また、農地や山林、原野もこの倍率方式が採用されています。

 この倍率方式とは、固定資産税の価格(評価額)に、地域ごとに決められた倍率(例えば1.1とか1.2など)を乗じて評価する方法です。

<相続税の倍率方式>

 
<相続税倍率方式とは>—相続税財産評価に関する基本通達21
「倍率方式とは、固定資産税評価額に国税局長が一定の地域ごとにその地域の実情に即するように定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する方式をいう。」

相続税の「家屋の評価」

 相続税の家屋の評価は、固定資産税評価額を用います。

<相続税家屋の評価>—相続税財産評価に関する基本通達89
「家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額に別表1に定める倍率(現在は1.0)を乗じて計算した金額によって評価する。」

 つまり家屋の相続税評価額は固定資産税家屋評価額をそのままとなります。

 相続税家屋の評価額 = 固定資産税家屋評価額 × 1.0

不動産取得税の「課税標準額」

 土地や家屋を購入したり、家屋を建築するなどして不動産を取得したときに、都道府県により不動産取得税が課税されます。
 不動産取得税は、市町村が毎年課税する固定資産税と違って、不動産を取得した時に一度だけ納める。いわゆる流通税の一種であり、不動産の移転という事実に着目して課されるものです。

 この不動産取得税の「取得した不動産の価格」も固定資産税評価額(正確には「固定資産課税台帳に登録された価格」)とされています。

 なお、令和9年3月31日までに取得した土地及び住宅の税率は3%です。
ただし、宅地(住宅のある土地)の場合は1/2の負担調整措置が講じられています。

<不動産取得税の納税義務者等>—地方税法73条の2
「 1.不動産取得税は、不動産の取得に対し、当該不動産所在の道府県において、当該不動産の取得者に課する。」
<不動産取得税の価格の決定等>—地方税法73条の21
「 1. 道府県知事は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとする。但し、当該不動産について増築、改築、損かヽいヽ、地目の変換その他特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いときは、この限りでない。」

登録免許税の「課税標準額」

 土地や建物の所有権移転登記、建物の所有権保存登記の際に、登録免許税が課税されます。

 土地の所有権移転登記では、「不動産の課税標準額」に1000分の20の税率が乗じられますが、ここでも固定資産税評価額(正確には「固定資産課税台帳に登録された価格」)が用いられます。

 なお、登録免許税の税額につきましては、種類も多く、軽減税率等もありますので、詳しくは最寄りの登記所等で確認してください。
 
2025/07/11/06:00
 

 

(第127号)固定資産税の納税義務者は所有者課税が原則(更新版)

(更新版・令和7年7月)

所有者課税の原則とは

 固定資産税の納税義務者は、毎年1月1日(これを賦課期日と言います)における固定資産の所有者(正確には登記簿上の所有者又は固定資産補充課税台帳に登録されている者)となります。

<所有者課税の原則>

 
<固定資産税の納税義務者>-地方税法343条1~3項
「1 固定資産税は、固定資産の所有者に課する。
   2 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録がされている者をいう。
この場合において、所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録がされている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている第348条第1項の者が同日前に所有者でなくなつているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。
   3 第1項の所有者とは、償却資産については、償却資産課税台帳に所有者として登録されている者をいう。」

所有者課税の例外(使用者課税)

 令和2年度の地方税法改正により、所有者以外に使用者にも課税する「使用者課税」が可能となっています。
 それまでは、震災、風水害、火災その他の事由により不明である場合に限って「使用者を所有者とみなす」(343条4項)ことができたのですが、343条5項が追加され「存在が不明である場合」の所有者課税が認められました。

災害等によって所有者の所在が不明の場合

 災害等により所有者の所在が不明である場合(所有者が誰であるか分からない場合、生死が分からない場合、住所ないし居所がわからない場合等)には、使用者を所有者とみなして固定資産税を課税することができます。
 また、その不明である原因は、震災、風水害、火災、戦災、海難等であることを要し、引っ越しによって転出先の住所が不明でるというような日常の一般的な事由により不明である場合は含まれません。

<災害等によって不明な場合>-地方税法343条4項
「 市町村は、固定資産の所有者の所在が震災、風水害、火災その他の事由により不明である場合には、その使用者を所有者とみなして、固定資産課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課することができる。この場合において、当該市町村は、当該登録をしようとするときは、あらかじめ、その旨を当該使用者に通知しなければならない。」

調査を尽くしても所有者の所在が不明の場合

 市町村が住民基本台帳及び戸籍簿等の調査並びに使用者と思われる者その他の関係者への質問その他必要な調査をしても所有者の存在が不明の場合には、使用者を所有者とみなして固定資産税を課税することができます。

<調査を尽くしても所在が不明な場合>-地方税法343条5項
「 市町村は、相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行つてもなお固定資産の所有者の存在が不明である場合には、その使用者を所有者とみなして、固定資産課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課することができる。この場合において、当該市町村は、当該登録をしようとするときは、あらかじめ、その旨を当該使用者に通知しなければならない。」

テナントが取り付けた家屋の附帯設備

 テナントが、建築設備、間仕切等の附帯設備を家屋に取り付けて、これらの附帯設備が家屋に付合する場合は、当該附帯設備は家屋の所有者が所有するものとされます(民法242条)。

 しかし、実際に当該附帯設備を使用収益しているのは、家屋の所有者ではなくテナントであることから、附帯設備を取り付けた者(テナント)を所有者とみなして固定資産税(償却資産)を課税することができるものとされています。

<テナントが取り付けた家屋の附帯設備>-地方税法343条10項
「 家屋の附帯設備であつて、当該家屋の所有者以外の者がその事業の用に供するため取り付けたものであり、かつ、当該家屋に付合したことにより当該家屋の所有者が所有することとなつたもの(以下この項において「特定附帯設備」 という。)については、当該取り付けた者の事業の用に供することができる資産である場合に限り、当該取り付けた者をもつて第一項の所有者とみなし、当該特定附帯設備のうち家屋に属する部分は家屋以外の資産とみなして固定資産税を課することができる。」

納税義務者が変更した場合

 固定資産税の納税義務者は、毎年の賦課期日(1月1日時点)で登記又は登録している者ですが、その納税義務者が変更した場合はどうなるかです。

 ここに、所有者XからYに所有権移転された場合、その移転が①賦課期日前と②賦課期日後かによって違いがあります。

<賦課期日前後に所有者が交代>

賦課期日前に所有者XからYに所有権移転した場合

 賦課期日前にXからYに所有権が移転され、所有権移転登記もされていれば、問題なくYが年度納税義務者となります。

 しかし、所有権が移転されているにもかかわらず、賦課期日現在でXからYに所有権移転登記がされていない場合には、Xがその年度の納税義務者となってしまいます。

 固定資産税は、登記簿に登記されている土地及び家屋については、登記簿上の所有者が納税義務者となり、真実の所有者が誰であるかにかかわらず登記簿上の所有者に対して課税されることになります。

 なお、登記所は、土地又は建物の表示に関する登記をしたとき、所有権等の登記の抹消、登記名義人の氏名・住所等の変更をしたときは、10日以内にその旨を当該土地又は家屋の所在地の市町村長に通知をすることとなっています。

<登記所からの通知等>-地方税法第382条1項
「 登記所は、土地又は建物の表示に関する登記をしたときは、10日以内に、その旨その他総務省令で定める事項を当該土地又は家屋の所在地の市町村長に通知しなければならない。」

賦課期日後に所有者XからYに所有権移転した場合

 賦課期日にはXが納税義務者ですので、年度途中でYに移転しても、その年度はXが納税義務者となります。

 ただし、売買による所有権移転の場合には、不動産業者により「固定資産税の精算」が行われるのが普通で、これにより、契約(決済)日以降の固定資産税はYの負担として、日割計算でその日以降の固定資産税分がYからXに渡されます。
 しかし、この場合でも、法的な納税義務者はXですので、精算時にはXが全納していることを条件とされています。

納税義務者が死亡した場合

 それでは、納税義務者が死亡した場合はどうなるかです。
 その場合も、その死亡が①賦課期日前と②賦課期日後かによっても違います。

<賦課期日前後に所有者が死亡>

賦課期日前に所有者Xが死亡した場合

 賦課期日前に所有者Xが死亡した場合、相続の遺産分割協議及び所有権移転登記が行われ、賦課期日現在の納税義務者が確定しているときは、その相続人(登記者)が納税義務者で問題ありません。

 ここで、問題となるケースは、所有者Xが死亡し法定相続人が複数いるが、遺産分割もされず不動産登記もXのままになっている場合です。

 この場合には、法定相続人全員が「現に所有している者」となり、法定相続人は「連帯納税義務」を負うことになります。
 「連帯納税義務」とは、仮に法定相続人が3名であったとした場合、その3名はそれぞれが全員分の納税義務を負うという意味ですので、「自分は3分の1のみ負担する」との主張はできません。

<連帯納税義務>-地方税法第10条
「 地方団体の徴収金を連帯して納付し、又は納入する義務については、民法第436条、第437条及び第441条から第445条までの規定を準用する。」

賦課期日後に所有者Xが死亡した場合

 この場合も法定相続人3名で遺産分割協議と所有権移転登記が行われている場合は、その固定資産を取得し登記名義人となった者が「事実上」の納税義務者となります。

 しかし、法定相続人3名の間で遺産分割協議が成立していない場合にどうなるかということです。
事例①の場合は、法定相続人3名の「連帯納税義務」でしたが、この事例②では「法定相続分の割合負担」で各自責任を負うということになります。

<相続による納税義務の承継>-地方税法第9条2項
「 相続人が2人以上あるときは、各相続人は、被相続人の地方団体の徴収金を民法第900条から第902条までの規定によるその相続分によりあん分して計算した額を納付し、又は納入しなければならない。」

<相続人からの徴収の手続>-地方税法第9条の2
「1 納税者につき相続があつた場合において、その相続人が2人以上あるときは、これらの相続人は、そのうちから書類を受領する代表者を指定することができる。
 この場合において、その指定をした相続人は、その旨を地方団体の長に届け出なければならない。
2 地方団体の長は、相続人の一人を指定し、その者を同項に規定する代表者とすることができる。」
 
2025/07/10/12:00
 

 

(第126号)固定資産税は毎年課税され、土地と家屋は3年毎に評価替え(更新版)

(更新版・令和7年7月)

固定資産税は毎年課税される

年間スケジュール(賦課期日)

 固定資産税の賦課期日は、毎年の1月1日になります。この賦課期日時点で当該年度の納税義務者と課税価格が決まってきます。

そして、毎年3月31日までに当該年度の価格を決定することになります。
また、固定資産税は「年度課税」ですので、課税(納付)期間は4月から翌年3月までとなります。

<年間スケジュール>

 

固定資産税の納期は4期

 固定資産税の納期は1期から4期となっていますが、地方税法で規定されている納期は標準納期で、全国の市長村での納期は必ずしも標準納期のみではありません。
 また、第1期で年度分を全額一括納付することも可能です。

(1)標準納期の場合
 固定資産税の納期は4月、7月、12月、2月の4期が標準納期として地方税法に定められています。

 なお、標準納期を4月、7月、12月、2月としているのには意味があります。
 その主な理由は、他の税金の納期と重ならないようにするための配慮です。
・ 所得税(申告の場合)の納期…3月
・ 市町村民税の納期…6月、8月、10月、1月
・ 軽自動車税の納期…5月
 これが全ての税金ではありませんが、これらの納期を見ますと、ほぼ毎月何らかの税金が課税されているのが分かります。

<固定資産税の納期>-地方税法第362条
「 固定資産税の納期は、4月、7月、12月及び2月中において、当該市町村の条例で定める。但し、特別の事情がある場合においては、これと異なる納期を定めることができる。」

(2)標準納期を採用している主な市
 千葉市、横浜市、川崎市、新潟市、静岡市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、北九州市、福岡市

(3)標準納期でない納期を採用している主な市
 ・4月、7月、9月、12月…札幌市、仙台市、岡山市
・4月、7月、9月、11月…浜松市、広島市
・4月、6月、11月、1月…さいたま市
・5月、7月、9月、12月…相模原市、熊本市
・6月、9月、12月、2月…東京23区 

納税通知書と課税明細書の送付

 毎年4月~5月上旬に固定資産税の納税通知書と課税明細書が納税義務者あてに送られてきます。

納税通知書は、市町村が固定資産税を徴収するための基本的な通知です。
 また、課税明細書は、固定資産税の課税内容を明らかにするためのもので、納税通知書とともに送られてきます。

固定資産税の「縦覧」制度と「閲覧」制度

 固定資産税の価格は、毎年3月31日までに決定され、4月~5月に納税通知書及び課税明細書が送付され、年4回の納期がスタートします。

 そして、毎年4月1日から第1期の納期限までの間、「縦覧」が行われます。

この「縦覧」とは、他の納税者の土地や家屋の評価額を確認することにより、自己の評価額の適正さを判断できるようにするために設けられているものです。

 つまり、「縦覧」は固定資産税の納税者が自分の価格と他の納税者の価格とを比較するために設けられている制度です。

<土地及び家屋価格等縦覧帳簿の縦覧>-地方税法第416条1項
「 市町村長は、固定資産税の納税者が、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る土地又は家屋について土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録された価格と当該土地又は家屋が所在する市町村内の他の土地又は家屋の価格とを比較することができるよう、毎年4月1日から当該年度の当該年度の最初の納期限の日までの間、その指定する場所において、土地価格等縦覧帳簿又はその写しを当該 市町村内に所在する土地に対して課する固定資産税の納税者の縦覧に供し、かつ、家屋価格等縦覧帳簿又はその写しを当該市町村内に所在する家屋に対して課する固定資産税の納税者の縦覧に供しなければならない。(中略)」

 なお、この「縦覧」制度と似ている制度として「閲覧」制度があります。

 「縦覧」は期間が決められていますが、「閲覧」は1年中可能で、納税義務者はいつでも自分の土地、家屋の課税状況を把握することができます。

<固定資産課税台帳の閲覧>—地方税法382条の2
「 市町村長は、納税義務者その他の政令で定める者の求めに応じ、固定資産課税台帳のうちこれらの者に係る固定資産として政令で定めるものに関する事項が記載をされている部分又はその写しをこれらの者の閲覧に供しなければならない(中略)。」

<閲覧と縦覧>

 

土地と家屋は3年毎に評価替え(3年間スケジュール)

3年単位のスケジュール

 次は、評価替えの3年単位のスケジュールです。

<3年単位のスケジュール>

 
(1)基準年度(評価替え年度)
 土地と家屋は3年毎に評価替えが行われ、課税標準となるべき価格が決定されます。直近では、令和3年度、令和6年度、令和9年度です。

(2)据置年度
 基準年度の間の年度で、原則として土地と家屋の価格が据え置かれます。

(3)価格調査基準日
 基準年度の前年に土地の標準宅地の価格(翌年1月1日現在)を内定します。

(4)土地の下落修正
 据置年度においても土地価格が下落している場合は下落修正が行われます。(下落修正は平成11年度から実施されています。)

基準年度における土地、家屋の評価

(1)土地の評価について
 土地の評価の基準としては、毎年の地価公示(1月1日現在)と地価調査(7月1日現在)の価格及び不動産鑑定士による標準宅地の鑑定評価が行われています。

 固定資産税の土地価格は、地価公示地価格、地価調査地価格及び標準宅地の価額の7割とされていますので、そこから3月末までに路線価の付設や各筆(画地)の評価を行うことになります。

(2)家屋の評価について
 家屋は新築以外の評価替えは、3年毎の基準年度に在来家屋の評価を行います。
在来家屋の計算方法は、前基準年度再建築費評点に築年数の経過年数に応じた経年減点補正率を乗じて求めますが、再建築費評点補正率も考慮されます。
 つまり、基本的には新築時の再建築評価額が継続されることになります。

据置年度における土地、家屋の評価

 据置年度においても、次の事項が発生した場合には評価、課税が行われます。

(1)新規の課税
 新しく新築された家屋及び新しく造成された土地の場合。

(2)価格の見直し
 土地の地目変更や家屋の新増築がされた場合。

(3)土地価格の下落修正
 土地の下落修正が行われる場合。

固定資産税の「審査の申出」

 価格に不服がある場合は、納税通知書の送付を受けた後3ヵ月以内に、固定資産評価審査委員会に対して「審査の申出」を行うことができます。
なお、この「審査の申出」は、原則として、3年毎の基準年度のみに行うことができるものです。

<価格に関する審査の申出>-地方税法432条1項
「 固定資産税の納税者は、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合においては、納税通知書の交付を受けた日後3ヵ月を経過する日まで、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。(中略)」

 ところで、固定資産税に対する不服対応として、①価格に対する不服と②価格以外の「処分」に対する不服の2通りあります。

 ①の場合は固定資産評価審査委員会に対して、②の場合は市町村長に対して申し出ることになります。②の場合は、例えば「固定資産税の課税処分などに対する不服がある場合」等ですが、その処分を行った市長村町に審査請求をすることができます。

固定資産評価審査委員会とは

 固定資産評価審査委員会は、市町村ごとに設置され、学識経験を有する者のうちから市町村の議会の同意を得て、市町村長が選任します。

 固定資産税の価格が固定資産評価審査委員会へ「審査の申出」をすることとされている趣旨は、価格が納税者の負担に直接重大な影響を持つものであることから、独立した合議制の機関で慎重に審査させることとされているからです。

つまり、固定資産税の価格を決定した市町村長以外の第三者が審査することにより、より公平性を担保させようとの仕組みである訳です。
 
2025/07/10/08:00
 

 

(第125号)固定資産税の歴史と「賦課課税方式」について(更新版)

(更新版・令和7年7月)

固定資産税の歴史はシャウプ勧告から

固定資産税の歴史的な流れ

 固定資産税は、土地、家屋、償却資産の三つの固定資産が課税客体となっていますが、いつからこのようになったのでしょうか。

 固定資産税は、第二次世界大戦後の昭和24年の「シャウプ勧告」に基づいて昭和25年に創設さ れました。

「シャウプ勧告」とは
 「シャウプ勧告」とは、アメリカの財政学者カール・シャウプを団長とする使節団によって昭和24年に、連合国最高司令官マッカーサーに提出された日本の税制改革に関する報告書のことです。

<固定資産税の歴史>

 
 この「シャウプ勧告」の中では、それまでの土地を課税客体としていた「地租」から土地へ、家屋を課税客体としていた「家屋税」から家屋へ引き継ぎ・統合した上で、新たに償却資産を課税客体に加えて固定資産税を創設することが勧告されました。

土地は「年貢制度」まで遡る

 土地に関する租税は、古代から現代に至るまで主要な税目の地位を保っています。

 近世の日本は、領主制の下で、領主ごとに土地に対する税が課されていました。
農村の土地には年貢が課されていたのに対し、都市は年貢が免除されることも多く無税地が大きな割合を占めていました。

 明治政府は、このような制度を廃して、全国の土地について統一的な基準で全ての土地地籍を把握し、その土地に税を課すことを目指し、明治6年に地租改正を始めました。

 地租改正における地籍調査と地価調査は、その土地の所有者自身による申請から出発することが原則になっていました。府県は、提出された地籍と地価の検査を行い、必要に応じて再調査や書類の補訂を指示し、地券台帳を作成し、地券台帳から土地所有者に地券を発行し土地の証書としました。

 この明治6年の地租改正によって、近世の石高(こくだか)制による貢租(年貢)制度は廃止され、私的土地所有を前提にした「地租」が国税として誕生しました。

 そして、明治11年には、府県が「地租付加税」として課税できるようになり、明治21年には市町村でも「地租付加税」を課税できるようになりました。

 「地租」は第二次大戦後の昭和22年に地方に移譲されて府県税の独立税になり、昭和24年の「シャウプ勧告」により、昭和25年に市町村税の固定資産税となりました。

家屋は「家屋税」(府県税)から

 家屋は、明治15年に創設された「家屋税」から始まります。「家屋税」は府県税でしたが、当初は東京、大阪、京都、神奈川の大都府県に限定されていました。

 また、大正15年の税制改革で、市町村でも「家屋税」に「家屋税付加税」として課税できるようになり、昭和22年には「家屋税」も「地租」と同様に府県の独立税となりました。

 そして、土地と同じく、昭和24年の「シャウプ勧告」により、昭和25年に市町村税の固定資産税となりました。

償却資産は「シャウプ勧告」により新設

 償却資産は昭和24年の「シャウプ勧告」による税制改革で昭和25年に固定資産税の一つとして新設されました。

 しかし、この償却資産に似ている税が実は既に存在していました。昭和15年に旧地方税法により、法定外独立税が市町村に対して認められました。

 この法定外独立税は、内務、大蔵両大臣の許可に基づき、市町村の条例により設定するものでしたが、この税の中には原動機や冷凍機、織機、製材機、印刷機など各種事業用償却資産がありました。

固定資産税は「シャウプ勧告」により財産税

 「シャウプ勧告」では、当時の日本の地方財政について、次の5つの点が指摘されています。
① 市町村、都道府県及び中央政府間の事務の配分及び責任の分担が不必要に複雑であり、また重複している。
② この3つの段階の統治機関の間における財源の配分が若干の点において不適当であり、また中央政府による地方財源の統制が課題である。
③ 地方自治体の財源は、地方の緊要経費を賄うには不足である。
④ 国庫補助金及び交付金は独断的に決定されることが多い。
⑤ 地方団体の起債の制限は極めて厳重に制限されている。

 この「シャウプ勧告」では、府県の独立税となっていた「地租」と「家屋税」を統合するだけでなく、償却資産も課税客体に加えて、固定資産税とすることが勧告され、昭和25年に創設されました。

 ところで、「シャウプ勧告」の意図は、固定資産税を固定資産と市町村の提供する公共サービスとの関連性を明確にして、市町村税の独立税とすることを勧告したと解されています。

 「シャウプ勧告」がされるまでの我が国の「地租」や「家屋税」は、賃貸価格を課税標準とする収益税であった訳ですが、「シャウプ勧告」では固定資産税の課税標準を賃貸価格から資本価格にすることを勧告しています。

 これまで、固定資産税は「収益税」なのか「財産税」なのかとの議論もありましたが、「シャウプ勧告」の資本価格論とともに、現在の地方税法における「価格=適正な時価をいう」の解釈からも、固定資産税は「財産税」とされています。

土地と家屋は賦課課税方式で分かりにくい

「賦課課税方式」は役所が一方的に評価・課税

 固定資産税は、全国どこでも土地や家屋を所有していれば(非課税を除いて)課税される資産税ですが、基本的に役所が一方的に評価して課税するもので、これを「賦課課税方式」と言います。

 これに対して固定資産税の償却資産や相続税は、申告に基づいて課税されるもので「申告課税方式」になります。

 全国で課税対象となる固定資産税の土地の数はおおよそ1億8千万筆、家屋は約6千5百万戸(令和5年10月・総務省「住宅・土地調査」)とされ、基本的に全国すべての土地及び家屋が評価され課税されます。

 そのため固定資産税評価は「大量一括評価」又は「大量画一評価」とも言われ、そこでは同じ基準の下に同じ方法で評価されることが要請されます。

「賦課課税方式」の問題点

 特に土地の場合は全国的な評価で「賦課課税方式」の採用は止むを得ないものですが、納税者からすると内容がよく分からないという問題があります。

 毎年4月~5月(東京都23区は6月)に固定資産税の納税通知書とともに課税明細書が送られてきますが、これを見ても何故この価額になったのかは説明を受けないと分かりません。

 一方、固定資産税の償却資産は「申告課税方式」(毎年1月末までに申告)ですので、この点では土地と家屋とは異なります。

固定資産税の税率は1.4%が標準

固定資産税の税率

 固定資産税の税率は1.4%が標準税率とされています。全国の市長村でもほぼ1.4%で統一されていますが、これを超える場合は、市町村の条例で定める必要があります。1.4%を超える税率が採用されている市は、北海道夕張市が1.45%とされています。

<固定資産税の税率>-地方税法350条1項
「 固定資産税の標準税率は、100分の1.4とする。」

都市計画税の税率は制限税率

 固定資産税は標準税率ですが、都市計画税は制限税率で0.3%を超えることはできません。

<都市計画税の税率>ー地方税法702条の4
「 都市計画税の税率は、100分の0.3を超えることができない。」

 なお、東京都23区の都市計画税の税率は、住宅用地の範囲に限り都税条例により減額特例(0.15%)が行われています。
 
2025/07/08/15:00