(88号)固定資産の個別評価と不動産鑑定評価・判例紹介(家屋編)

 今回は、前号につづいて、「固定資産の個別評価に不動産鑑定がどこまで通じるか」の家屋編として、「伊達市固定資産評価審査委員会決定取消請求事件」を紹介します。

 これまで、固定資産税の家屋評価方法が再建築価格方式で大変複雑で「課税誤り」の原因にもなっていることを説明してきました。

 また、第86号「固定資産税評価の再建築価格方式と不動産鑑定評価の原価法との相違」をお伝えしました。

 

本訴訟関係の経緯

札幌地裁の判決

・判決日:平成10年11月17日
・原告:B
・被告:伊達市長
・判決:原告・B敗訴

 伊達市に存在する鉄骨造陸屋根3階建店舗(昭和51年12月建築、以下「本件建物」)の所有者が、伊達市長によって決定された固定資産税家屋の平成9年度の価格を不服として、伊達市固定資産評価審査委員会に審査の申出をしたところ棄却決定され、それに対する不服として札幌地裁に提訴したことから始まります。

 そもそも原告(以下「B」とする)は、本件建物を昭和62年の競売(競売鑑定評価額1237万2000円)で取得したものですが、平成9年度の伊達市長の固定資産評価額は3008万3044円と決定されていました。

 第一審の札幌地裁(平成10年11月17日判決)での原告・Bの主張は、本件建物の価格が3000万円を超えることは納得できない、というものでした。

 これに対して、札幌地裁は「平成9年度の固定資産税評価額は、固定資産評価基準に従って算出されたものであるから、特段の事情のない限り、本件建物の価格は適切である」と原告・Bの敗訴となっています。

 

札幌高裁の判決

・判決日:平成11年6月16日
・控訴人:B
・被控訴人:伊達市長
・判決:控訴人・B勝訴

 第二審の札幌高裁(平成11年6月16日判決)では、控訴人・Bが不動産鑑定書(以下「F鑑定書」とする)を提出し、平成9年1月1日の鑑定評価額を1895万円としました。

 これに対して、札幌最高裁では、同鑑定書に則って本件建物の「適正な時価」を認定するのは相当である、として控訴人の請求を容認する(控訴人・Bの勝訴)との判決がされました。

 
 この後、最高裁第二小法廷で、札幌高裁に差し戻され、差戻し後の札幌高裁では、Bの控訴が棄却(伊達市長の勝訴)されています。(詳細は後述)

 ところで、最高裁及び差戻し後の札幌高裁の内容に入る前に、このB所有の本件建物の固定資産評価基準による家屋評価が「総合比準方式」により行われていますので、この内容を説明します。

家屋評価の「比準評価方式」

 固定資産家屋の評価方法は再建築価格方式ですが、ここで再建築費評点数を求める方法としては、古くから①部分別による再建築費評点数の算出方法と②在来分の家屋に係る再建築費評点数の算出方法でした。

 上記の2つの再建築費評点数の算出法は、古くからあったものですが、実は、昭和39年度の固定資産評価基準において、①の「特例として標準家屋の再建築費評点数に比準して求める方法」が位置づけられ、昭和42年度から「基本的な方法としての総合比準評価方法」として位置づけられました。これは、複雑な再建築価格方式を少しでも(?)解決しようとの考えからの追加でした。

 さらに、平成12年度から、部分別比準評価と総合比準評価の中間的な評価方法を評価基準上可能とするため、両者が統合された「比準による再建築費評点数の算出方法」が定められました。(「総合比準評価」との名称ではなくなりました。)

 この「比準による再建築費評点数の算出」は、次の方法により行います。
①当該市町村に所在する家屋を、その実態に応じ、構造、程度、規模等の別に区分し、それぞれの区分ごとに標準とすべき家屋を標準家屋として定める。
②標準家屋について、部分別評価により再建築費評点数を付設する。
③評価対象家屋の再建築評点数を、当該家屋が属する区分における標準家屋の各部分別の使用資材、施工量等の相違を考慮し、標準家屋の再建築費評点数に比準して付設する。

最高裁の判決

・判決日:平成15年7月18日
・上告:伊達市長
・被上告人:B
・判決:札幌高裁へ差戻し

「伊達市長が本件建物について評価基準に従って決定した前記価格は、 評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存しない限り、その適正な時価であると推認するのが相当である。」

「F鑑定書が採用した評価方法は、評価基準が定める家屋の評価方法と同様、再建築費に相当する再調達原価を基準として減価を行うものであるが、原審は、F鑑定書の算定した本件建物の1当たりの再調達原価及び残価率を相当とする根拠を具体的に明らかにしていないため、原審の前記説示から直ちに上記特別の事情があるということはできない。そして、原審は、上記特別の事情について他に首肯するに足りる認定説示をすることなく、本件建物の適正な時価が2606万円程度を超えるものではないと判断したものであり、その判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、 原判決は破棄を免れない。そして、本件決定の適否について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。」

 
 つまり、札幌高裁では、控訴人・BのF鑑定書により提示された評価額が認められたのですが、最高裁では「F鑑定書には固定資産評価基準が定める再建築費の算定や減点補正を超える減価を要する特別の事情が明らかにされていない」として、高裁判決が破棄され差し戻された訳です。

差戻し後札幌高裁の判決

・判決日:平成16年4月27日
・控訴人:B
・被控訴人:伊達市長
・判決:控訴人・B敗訴

「伊達市長は、本件建物について固定資産評価基準に定める総合比準評価の方法に従って再建築費評定数を算出したところ、この評価の方法は、再建築費の算定方法として一般的な合理性があるということができる。また、 評点1点当たりの価額1.1円は、家屋の資材費、労務費等の工事原価に含まれない設計管理費、一般管理費等負担額を反映するものとして、一般的な合理性に欠けるところがない。そして、鉄骨造り(骨格材の肉厚が4mmを超えるもの)の店舗及び病院用建物について固定資産評価基準が定める経年減点補正率は、 この種の家屋について通常の維持管理がされた場合の減価の手法として一般的な合理性を肯定することができる。」

「そうすると、伊達市長が本件建物について固定資産評価基準に従って決定した前記価格は、固定資産評価基準が定める評価の方法によって再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は固定資産評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存しない限り、その適正な時価であると推認するのが相当である。」

「よって、原判決の結論は相当であり、本控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。」

 
 なお、上記の札幌高裁の判決は、平成16年11月2日の最高裁で決定されています。

 以上、前号と今号で「固定資産評価基準による個別評価に不動産鑑定が通じるか」を見てきましたが、固定資産税の全国の土地約1億8千万筆、家屋約6千万棟が評価・課税されていますが、これら個別の土地、家屋に対して市町村の税務窓口に不動産鑑定書(意見書)をもって修正を求めることを認めるとなると、税務関係課では混乱になることも想定できます。

 ただし、土地であれば、仮に固定資産評価基準の適用が誤っている場合、その基準のレールに載せるための鑑定書(意見書)も有り得るとは思いますが、あくまでも評価の基本は固定資産評価基準によることとされています。