(第83号)石川県N市のビルオ-ナーが「楽待」動画で「自治体のミスを疑う」

(投稿・令和4年8月-見直し・令和5年5月)

 第57号「家屋の新築時データを廃棄すると、在来家屋の検証も出来ない」で紹介しました『石川県N市にビルを所有しているKさん』が大手不動産投資会社の株式会社ファーストロジックが運営するYouTube「楽待」動画に登場しました。
(動画ではKさんの本名と顔は伏せられています。)

 
 また、なぜ在来家屋であるのに新築時の評価検証が必要かについては、前号の(第82号)「在来家屋の評価検証には新築時の見直しが必要(『評価計算書』)」で説明してあります。

 

N市課税当局対応の問題点

 第57号では、「課税当局対応の問題点」として、①評価データを廃棄したこと、②建築当初の評価額が審査されないこと、の2点を指摘しています。

 当然ですが、①があってこその②ということになりますが、これは「所有者の申告によらずに役所が一方的に評価・課税する『賦課課税方式』」としての固定資産税を取り扱う部署としては、あってはならないことなのです。

 しかも、石川県N市からは「もしこの家屋の評価が高いと思うならば、その計算根拠を示してください」とも言われているのです。

 Kさんが審査申出において、「新築時の再建築費評点数(評価)がおかしいのではないか、この点を明らかにして欲しい」と申出たのに対して、審査委員会の結果は「在来家屋の評価の妥当性」に終始していました。

 もっとも、本件では家屋の新築時のデータが廃棄されていることから検証することも出来ない訳です。

行政不服審査請求の結果

 Kさんは、審査申出で棄却された後に、文書公開請求を行ったものの「文書保存年限満了により不存在」との決定がされました。またその後、行政不服審査法による行政不服審査請求を行いましたが、請求した7ヵ月後に「処分実施機関が、本件対象行政文書について、不存在を理由として非公開とした本件処分は妥当であると認められる」との裁決が下されています。

 この審査請求には弁護士さんが代理人として関与していましたので、筆者は裁決書を読ませていただきましたが、これは「7ヵ月掛けて何をしていたのか?」と思わざるを得ない内容の裁決書でした。

 その後Kさんが、この裁決書の内容と根拠規定を課税当局に問い合わせても、まともな回答は得られなかったそうです。

在来家屋で新築評価が可能か

 ところで、Kさんから「現在の家屋を新築評価して、それを補正することはできないのですか」との相談を受けました。

 これは、固定資産評価基準による評価方法からは難しいと思います。

<在来分の家屋に係る再建築費評点数の算出方法>
※固定資産評価基準(非木造・四)
「在来分の家屋に係る再建築費評点数は、次の算式によつて求めるものとする。ただし、当該市町村に所在する在来分の家屋の実態等からみてこの方法によることが適当でないと認められる場合又は個々の在来分の家屋に地方税法第349条第2項各号に掲げる事情があることによりこの方法によることが適当でないと認められる場合においては、二(部分別による再建築費評点数の算出方法)又は三(比準による再建築費評点数の算出方法)によつて再建築費評点数を求めることができるものとする。」

(算式)
再建築費評点数=基準年度の前年度における再建築費評点数×再建築費評点補正率」

 この評価基準の中で、「ただし書き」として次の2項目が規定されています。
①当該市町村に所在する在来分の家屋の実態等からみてこの方法によることが適当でないと認められる場
②在来分の家屋に地方税法第349条第2項各号に掲げる事情があることによりこの方法によることが適当でないと認められる場合

 まず、①については、「新築時の評価データを廃棄した」との場合は該当しないでしょう。また②についての家屋の場合は、「増築又は改築」が該当します。

 つまり、現在の再建築価格方式では、在来家屋の評価は、基本的に新築当時の評価が継続されることになっているのです。

 
 また、平成25年4月16日の東京高等裁判所の判決において、在来家屋の評価においても新築時の評価が正しいかどうかの審査を求めることができるとされています。さらに、この判決が、平成26年7月24日の最高裁において決定されています。

 
 ところで、不動産鑑定評価で家屋評価は出来るかということについては、第88号「固定資産評価基準による個別評価に不動産鑑定が通じるか(家屋編)」でも紹介していますが、訴訟で「特別な事情」があると認められない限りは難しいと考えます。

 

今後の改善のための提案

 ということで、この件では、まさに事実上の「お手上げ状態」になっているのです。

 これまでの号でも提案してきましたが、このようなことが無いように「新築時家屋の評価データは『永年保存』か『課税中保存』にすべき」であります。

 なお、筆者が関わっている案件の中には、「家屋の新規データを廃棄した」という市町村がいくつかあります。
 一方、多くの市町村では、家屋の新築時データを保管していることも事実です。最近の経験としては、前号(第95号)で紹介しました北海道K市では、築30年の家屋新築時データを完璧に保管しているのです。

 また、これも他の号でも再三記していますが、そもそも固定資産税家屋の評価方法である再建築価格方式が複雑過ぎて”課税誤り”の原因ともなっているため、「家屋評価の簡素化」を実施すべきことが、この問題の解決策の根底にあるのです。
 これまで長年検討されてきていますが、未だに実施には至っておりません。
 
2022/09/05/12:00