(第105号)固定資産税の課税誤りによる還付金(返還金)の返還期間は何年間か

(投稿・令和5年10月) <閲覧上位再生版(第27号&第28号)>
※(第27号は過去の閲覧記録で第2位、第28号は第6位)

 
 今回は、固定資産税の評価・課税誤りによって納め過ぎた場合、その還付金又は返還金は何年間遡って還してもらえるかについて解説します。

地方税法による原則的手続<5年>

 地方税法では、徴収し過ぎた税金(還付金)の請求権は5年で消滅時効になる、つまり5年間遡って還してもらえると定められています。

還付金の消滅時効(5年まで)

<還付金の消滅時効>
※地方税法第18条の3
「地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定による還付金に係る地方団体に対する請求権は、その請求をすることができる日から5年を経過したときは、時効により消滅する。」

 ところで、固定資産税の納め過ぎの原因のほとんどは、課税当局の誤り(課税ミス)によるものと考えられますが、課税誤りが発見されるケースは、納税者等からの指摘によることがほとんどです。 

「審査申出前置主義」とは

 課税処分に不服がある場合は、(課税当局が認めない場合には)裁判所にその処分を取り消してもらうための取消訴訟を提起しなければなりませんが、いきなり裁判所に取消訴訟を提起することはできません。

 まず価格の不服について固定資産評価審査委員会へ「審査の申出」を行い、その決定に不服がある場合に取消訴訟を提起できることになります。

 これが地方税法上の原則的な手続で、「審査申出前置主義」と言われています。

<①審査の申出>
※地方税法第432条1項
「固定資産税の納税者は、価格に不服がある場合には、納税通知書の交付を受けた日後3ヵ月までの間に文書をもって、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。」
<②争訟の方式>
※地方税法第434条1項
「固定資産税の納税者は、①の決定に不服があるときは、その取消しの訴えを提起することができる。」
<③出訴期間>
※行政事件訴訟法第14条1項
「取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から6ヵ月を経過したときは、提起することができない。」

「重大な錯誤」による修正<10~20年>

 地方税法の原則的手続は上記のとおりですが、地方税法では特例規定とも言うべき規定として、「重大な錯誤」がある場合の「固定資産の価格等のすべてを登録した旨の公示の日以後における価格等の決定又は修正」が認められています。

「重大な錯誤」とは

 そこで、設けられている規定が地方税法第417条1項です。

<重大な錯誤>
※地方税法第417条1項
「市町村長は、…登録された価格等に重大な錯誤があることを発見した場合においては、直ちに…決定された価格等を修正しなければならない。」

 ここで「重大な錯誤」とは、虚偽の申告又は申請による誤算、固定資産課税台帳に登録する際の誤記、価格等を決定する際の計算単位のとり違い、評価調書における課税客体の明瞭な誤記又はその認定の誤り等、客観的にみて価格等自体の決定に重大な誤りがあると認められるような錯誤を言い、軽微な誤り程度のものは含まれません。

 つまり、このような「重大な錯誤」があれば、原則的な手続(審査の申出等)を経ることなく、市町村長は直ちに修正しなくてはならないのです。

 ここで価格等が修正され、過徴収金がある場合、「重大な錯誤」であれば、その返還期間が10年や20年もあり得ることになります。
※この場合の5年間が地方税法上の「還付金」で、残りの期間の還付不能額を「過誤納補填金」(又は「返還金」)と称します。

「過誤納金返還要綱」による返還

 そして、この「重大な錯誤」があった場合の10年か20年の返還を市町村毎に定めているのが、次の「過誤納金返還要綱」になります。
 この「要綱」とは法律や条例とは異なり、市町村の行政内部(議会に諮らず)のみで定めることができるもので、全国の7割程度の市町村で保有していると言われています。

 ところで、この 「過誤納金返還要綱」による還付不能額とは、「固定資産税の課税客体に係る過誤納金のうち、地方税法第18条の3の規定により還付することができない税相当額」と定義されています。

 仮に10年間の過誤納金である場合は、還付金5年+返還金5年の合計10年間という計算になります。

 また「過誤納金返還要綱」では、一般的には10年間の返還ですが、固定資産税納付の領収書等が確認できれば20年間の返還を認めるともなっています。

 しかし、そもそも固定資産税は、所有者の申告を必要とせず(償却資産は申告が必要)、行政が一方的に評価・課税をする「賦課課税」となっていますので、仮に誤りを認めるのであれば、その責任を納税者に転嫁するのはおかしいと言わざるを得ません。

国家賠償法の適用<最高20年>

  以上のとおり、固定資産税の課税誤りがあった場合の還付又は返還は、原則として地方税法による原則的手続による5年、また「過誤納金返還要綱」による場合は10年間から最高20年間も有り得るということです。

浦和地裁判決(平成4年2月)による効果

 第97号の「住宅用地の減額特例に関する浦和地裁判決(H4年2月)とその効果—住宅用地の認定と国家賠償法の適用等」でも紹介しましたが、平成4年2月24日の浦和(現さいたま)地方裁判所の判決では「固定資産税の賦課決定に重大かつ明白な瑕疵(過失)があった場合は、国家賠償法の適用(20年間の返還)が可能である」とされました。

 実は、この判決を受けて、市町村による「過誤納金返還要綱」が策定されるに至った訳です。

 
 そして、この方向を一歩進めたのが、次の最高裁判決でした。

最高裁判決の内容

 この最高裁判決(平成22年6月3日)において、「固定資産税の評価・課税に過失による誤りがある場合は国家賠償の請求を認める」との判断がなされたのです。

<平成22年6月3日最高裁(第一小法廷)判決>
「公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは、これによって損害を被った当該納税者は、地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく、国家賠償請求を行い得るものと解すべきである。」
「記録によれば、本件倉庫の設計図に『冷蔵室(-30℃)』との記載があることや本件倉庫の外観からもクーリングタワー等の特徴的な設備の存在が容易に確認し得ることがうかがわれ、これらの事情に照らすと、原判決が説示するような理由だけでは、本件倉庫を一般用の倉庫等として評価してその価格を決定したことについて名古屋市長に過失が認められないということもできない。」

 この最高裁判決によると、一定の要件の下では、地方税法上の審査請求や取消訴訟を経ることなく、国家賠償請求を行うことができ、固定資産税の過徴収金の返還期間は最高20年となります。

 では、いかなる場合に国家賠償の請求が認められるのかですが、これは国家賠償法第1条によります。

※国家賠償法第1条
「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」

 そして、過徴収金返還の時効は20年になりますが、これは民法第724条によります。

<不法行為による損害賠償請求権の消滅時効>
※民法第724条
「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1  被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
2  不法行為の時から20年間行使しないとき。」

「過失」とは「手抜きがあったとき」

 上記の最高裁判決では「過失とな何か」が明確に定義されていませんが、他の下級審判決等によると「職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことの無いような場合には、国家賠償が認められるような違法になる」と判断されています。

 この場合の過失とは「手抜きがあったとき」とされています。

 つまり、「手抜き」のような過失(職務上通常尽くすべき注意義務を尽くされていない)では、国家賠償法の対象で20年間の返還になり得るということです。
 
2023/10/28
 

 

(第16号)固定資産税(土地)の地目認定は現況主義による

(投稿・平成25年-見直し・令和6年2月)<過去閲覧数5位>

 今号は、固定資産税の土地の地目認定はいかに行うか、についてです。

地目とは(地目の定義)

地方税法での地目

 まず地方税法で、固定資産税の土地とは何かということです。

<用語の意義(土地)>
※地方税法341条1項2号
「土地とは、田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、山林、牧場、原野その他の土地をいう」

 ここでお分かりのように、地方税法では「土地とはどういうものか」という定義がされているのではなく、土地の利用面からの分類、すなわち土地の地目を掲げた条文となっています。

 固定資産税の土地の評価は地目ごとに行います。
 そのため、固定資産評価基準(自治省告示第158号)にも土地の地目が定められています。

<固定資産評価基準の地目>
※固定資産評価基準第1章第1節
「土地の評価は、次に掲げる土地の地目の別に、それぞれ、以下に定める評価の方法によって行うものとする。この場合における土地の地目の認定に当たっては、当該土地の現況及び利用目的に重点を置き、部分的に僅少の差異の存するときであっても、土地全体としての状況を観察して認定するものとする。
(1)田、(2)畑、(3)宅地、(4)鉱泉地、(5)池沼、(6)山林、(7)牧場、(8)原野、(9)雑種地」

 地方税法の定義と固定資産評価基準を比べると、若干の違い(塩田が無くなって池沼が入り、その他の土地=雑種地が入っている)がありますが、ほぼ同じ地目となっています。

 この中で中心となる地目は、宅地、田、畑、山林あたりですが、もう一つ雑種地、実はこの雑種地が固定資産税評価の中ではかなり重要な地位を占めています。

不動産登記法での地目

 ところで、地方税法と固定資産評価基準では地目の意義の定義がされていませんが、不動産登記法の地目の定義と同じで、具体的には不動産登記事務取扱手続準則の定める通りとされています。

 そこで、参考までに不動産登記事務取扱手続準則の定める地目を掲げます。

<不動産登記法の地目>
※不動産登記事務取扱手続準則第68条
「 次の各号に掲げる地目は、当該各号に定める土地について定めるものとする。この場合には、土地の現況及び利用目的に重点を置き、部分的にわずかな差異の存するときでも、土地全体としての状況を観察して定めるものとする。
(1) 田 農耕地で用水を利用して耕作する土地
(2) 畑 農耕地で用水を利用しないで耕作する土地
(3) 宅地 建物の敷地及びその維持若しくは効用を果すために必要な土地
(4) 学校用地 校舎、附属施設の敷地及び運動場
(5) 鉄道用地 鉄道の駅舎、附属施設及び路線の敷地
(6) 塩田 海水を引き入れて塩を採取する土地
(7) 鉱泉地 鉱泉(温泉を含む。)の湧出口及びその維持に必要な土地
(8) 池沼 かんがい用水でない水の貯留池
(9) 山林 耕作の方法によらないで竹木の生育する土地
(10) 牧場 家畜を放牧する土地
(11) 原野 耕作の方法によらないで雑草、かん木類の生育する土地
(12) 墓地 人の遺体又は遺骨を埋葬する土地
(13) 境内地 境内に属する土地であって、宗教法人法(昭和26年法律第126号)第3条第2号及び第3号に掲げる土地(宗教法人の所有に属しないものを含む。)
(14) 運河用地 運河法(大正2年法律第16号)第12条第1項第1号又は第2号に掲げる土地
(15) 水道用地 専ら給水の目的で敷設する水道の水源地、貯水池、ろ水場又は水道線路に要する土地
(16) 用悪水路 かんがい用又は悪水はいせつ用の水路
(17) ため池 耕地かんがい用の用水貯留池
(18) 堤 防水のために築造した堤防
(19) 井溝 田畝又は村落の間にある通水路
(20) 保安林 森林法(昭和26年法律第249号)に基づき農林水産大臣が保安林として指定した土地
(21) 公衆用道路 一般交通の用に供する道路(道路法(昭和27年法律第180号)
による道路であるかどうかを問わない。)
(22) 公園 公衆の遊楽のために供する土地
(23) 雑種地 以上のいずれにも該当しない土地」

 固定資産税の地目は9種類ですが、不動産登記法はそれよりはるかに多い23種類です。

不動産鑑定評価での土地の種別

 不動産鑑定評価では、土地の種別(地目とは言いません)は、その属する地域の種別に応じて分類される土地の区分となります。

 土地の種別は宅地、農地、林地、見込地、移行地に分けられます。

 これらは、さらに地域の種別の細分化に応じて、例えば宅地でしたら、住宅地、商業地、工業地等に細分されます。

 例えば、市街化区域で駐車場に利用されている土地は、固定資産税評価では雑種地評価ですが、不動産鑑定評価では宅地評価を行うことになります。

 もちろん、いきなりそう決めるのではありません。

 不動産鑑定評価では、一般的要因を始めとして、地域要因及び個別的要因を分析した上で、その土地の最有効使用が住宅用の土地と判断されるか、という手順を経る必要があります。

地目の認定は「現況主義」

地目認定の時期と取扱い

 まず、地目認定の時期ですが、固定資産税の賦課期日が1月1日とされており、地目の認定も1月1日現在の土地の現況や利用目的を重視することから1月1日現在の認定となります。

<固定資産税の賦課期日>
※地方税法第359条
「固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日とする。」

 次に認定の取扱いですが、固定資産税の土地評価上の地目の認定は現況の地目(「現況主義」)によります。

 では、土地の地目が登記簿と現況が異なる場合は、どうなるのでしょう。

 例えば、登記簿上の地目が「山林」となっているのに、実際には家屋が建っている土地の場合ですが、この土地の固定資産税の地目は、「現況主義」によって「宅地」と認定されます。

地目認定の単位

 地目認定の単位は、原則として1筆ごとに行います。

 ただし、地目は土地の現況や利用目的に重点を置いて認定しなければならないものであり、部分的に僅少の差異があるときでも土地全体としての状況を観察して行います。
 また、1筆の土地が相当の規模で、2以上の全く別の用途に利用されている場合(例えば、1,000㎡の土地の700㎡が畑、300㎡が宅地として利用されているような場合)には、これらの利用状況に応じて区分して、それぞれの地目を定めることになります。

地目認定の実地調査

 ところで、このような「現況主義」は、土地の面積は現地調査で見ただけでは判断できませんが、地目は現地調査で認定することが比較的容易であるからです。 

 では、固定資産税を担当する市町村の職員は、どの程度の実地調査を行っているのでしょうか。地方税法で実地調査の規定があります。

<固定資産税の実地調査>
※地方税法408条
「市町村長は、固定資産評価員又は固定資産評価補助員に当該市町村所在の固定資産の状況を毎年少なくとも一回実地にさせなければならない。」

 「固定資産評価員」及び「固定資産評価補助員」とは、いずれも市町村の固定資産税を担当する職員のことですが、「評価補助員」は担当者全員がなります。また、「評価員」はそのセクションの長があたるのが普通ですが、その市町村の議会での同意が必要とされています。(「評価員」が置かれていない市町村もあります。)

 一般的に、固定資産の実地調査は、申請や問題がある都度行う「随時調査」と、所管地域を一斉に行う「定期調査」が考えられますが、408条は「定期調査」に係る規定です。

 土地の評価替えは3年に1度であるため、実務上は3年単位で評価替えスケジュールが組まれるため、多くの市町村では「定期調査」もこの中で組み込んで行われるのが一般的ではないかと思います。

2022/5/7/14:45
 

 

(第110号)固定資産税と相続税の違いについて

(投稿・令和6年1月)

 今回は、「固定資産税と相続税の違い」について説明します。

 「固定資産税と相続税の違い」については、これまで「宅地評価方法の違い」として、第42号(基本的事項)から第43号(1)~第47号(5)で紹介してきました。

 
 そこで今回は、「宅地評価方法」に限定しない基本的な内容について、改めて説明していきます。

 内容は大きく分けて、(1)固定資産税と相続税の根拠法、(2)固定資産税と相続税の評価方法、(3)固定資産税と相続税の課税方法、(4)相続税でも固定資産税評価を活用、について説明します。

固定資産税と相続税の根拠法

固定資産税の根拠法

1. 地方税法

 まず、固定資産税の根拠法は地方税法になります。
 地方税法第三章「市町村の普通税」の第二節に「固定資産税」があります。

<固定資産税とは>
※地方税法341条1項1号~4号
「1号 固定資産 土地、家屋及び償却資産を総称する。
2号 土地 田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野その他の土地をいう。
3号 家屋 住家、店舗、工場(発電所及び変電所を含む。)、倉庫その他の建物をいう。
4号 償却資産 土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産でその減価償却額又は減価償却費が法人税法又は所得税法の規定による所得の計算上損金又は必要な経費に算入されるもののうちその取得価額が少額である資産その他の政令で定める資産以外のものをいう。ただし、自動車税の種別割の課税客体である自動車並びに軽自動車税の種別割の課税客体である原動機付自転車、軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除くものとする(中略)。」

 なお、固定資産税とともに都市計画税が課税される場合には同時に課税されており、納税通知書・課税明細書にも併せて記載されています。

 固定資産税は普通税ですが、都市計画税は目的税で地方税法の第四章「目的税」の第六節「都市計画税」に規定されています。

<都市計画税の課税客体等>
※地方税法702条1項
「1項 市町村は、都市計画法に基づいて行う都市計画事業又は土地区画整理法に基づいて行う土地区画整理事業に要する費用に充てるため、当該市町村の区域で都市計画法第5条の規定により都市計画区域として指定されたもののうち同法第7条第1項に規定する市街化区域内に所在する土地及び家屋に対し、その価格を課税標準として、当該土地又は家屋の所有者に都市計画税を課することができる。当該都市計画区域のうち同項に規定する市街化調整区域内に所在する土地及び家屋の所有者に対して都市計画税を課さないことが当該市街化区域内に所在する土地及び家屋の所有者に対して都市計画税を課することとの均衡を著しく失すると認められる特別の事情がある場合には、当該市街化調整区域のうち条例で定める区域内に所在する土地及び家屋についても、同様とする。(中略)」

(なお、以下本号では固定資産税を中心にして解説します。)

2. 市町村の条例、規則

 固定資産税(土地、家屋)は、全国に存在する土地(1億8,076筆)及び家屋(5,877万棟)は基本的に全て課税されることが原則ですが、地方税法のみでは、必ずしも全て網羅できないことから、地方税法の委任により、各市町村において条例(東京都23区は都税条例)を制定されることとされています。

3. 総務省の「基本通知(改正告示)」

 固定資産税の手続について、総務省から全国の市町村に周知するため、総務省の「基本通知(改正告示)」が必要に応じて発せられています。
 市町村では、その「基本通知(改正告示)」に従って固定資産税業務を遂行することになります。

相続税の根拠法

 相続税の根拠法は、民法及び相続税法です。

 民法は、第五編に「相続編」(第822条~1050条)があり、相続及び贈与に関する権利関係等の一般的ルールが定められています。

 これに対して相続税法は、相続税額の計算等細かい税のルールが規定されています。

 相続に関しては、民法が一般法ですが、相続税の計算等は相続税法が特別法になります。
 相続税法は、課税の公平性という観点から、民法に一定の修正を加えていますが、その場合は、特別法である相続税法が民法より優先されることになります。

固定資産税と相続税の評価方法

固定資産税、相続税の評価基準

 まず、固定資産税の評価は、「固定資産評価基準」によります。

 この「固定資産税評価基準」は、地方税法第403条で規定されており、法的拘束力が強いものです。

<固定資産評価基準>
※地方税法403条
「1項 市町村長は(中略)固定資産評価基準によって、固定資産税の価格を決定しなければならない。」

 一方、相続税の評価方法は国税庁による「財産評価基本通達」により定められていますが、相続税の評価は、あくまでも時価を求めるもので、必ずしもこの「財産評価基本通達」が100%とは限りません。

 例えば、時価を証明するために、不動産鑑定評価による評価が採用される場合があります。
 土地の個別画地の評価について、固定資産税では不動産鑑定評価は原則認められませんが、この点が相続税では異なります。

公的土地評価の一元化

 平成元年に「土地基本法」が成立し、そこで土地の公的評価の一元化が図られました。

 土地の公的評価とは、時価(実勢価格)、地価公示価格、相続税路線価、固定資産税評価額を指します。

 過去には、この4価格がアンバランスであったことから、一元化(地価公示を100とした場合の割合)を図ることなりました。

<公的土地評価の一元化>
※土地基本法第17条
「国は、適正な地価の形成及び課税の適正化に資するため、土地の正常な価格を公示するとともに、公的土地評価について相互の均衡と適正化が図られるように努めるものとする。」

 その結果、地価公示は時価と同一レベル(100)とし、相続税を地価公示の8割、固定資産税を地価公示の7割と決められました。

土地の負担調整措置が複雑に

 実は平成5年以前の土地の固定資産税評価額は地価公示ベースの10~20%であった訳ですが、これをいきなり70%に引上げる訳にはいかないため、固定資産税では負担調整措置という制度が設けられました。

 これは、いきなり70%に引き上げるのではなく、徐々に近づけていく方法ですが、この負担調整措置の仕組みが土地評価を複雑にしています。

 なお、この内容については、第4号と第6号で説明しています。

 

固定資産税と相続税の課税方法

固定資産税は賦課課税方式

 固定資産税は全国の土地、家屋が基本的に全て課税されており、都市計画税と併せると市町村税の約47%を占めており「市町村の基幹税」とも言われています。

 そのため、課税方法も所有者の申告を経ずに、役所が一方的に評価・課税する方式(賦課課税方式)となっています。
 ※償却資産は、毎年1月末までに申告が義務づけられている申告課税です。

相続税は申告課税方式

 固定資産税は賦課課税方式ですが、相続税は申告課税方式です。

 相続(又は遺贈)により財産を取得し、相続税の納税義務がある者は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内に被相続人の最寄の税務署に申告書の提出が必要となります。

<相続税の申告書>
※相続税法第27条
「1.項 相続又は遺贈により財産を取得した者及び当該被相続人に係る相続時精算課税適用者は、当該被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者に相続税額があるときは、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から十月以内に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。(中略)」

相続税でも固定資産税評価額を活用

倍率方式での相続税評価

1. 土地の倍率方式

 相続税の土地評価には路線価方式と倍率方式があります。

 路線価方式は、設定されている路線価を基に「財産評価基本通達」により評価額を算定します。

 一方、倍率方式における土地の相続税評価は、その土地の固定資産税評価額に地域、地目ごとに定められた倍率を乗じて評価額を算出します。
 例えば、相続税対象の土地(宅地)の固定資産税額が800万円で、宅地の倍率が1.1の場合には、800万円×1.1で8,80万円となります。

2. 家屋の相続税評価額

 家屋の相続税評価額は、固定資産税の評価額をそのまま活用して相続税の評価額とすることになります。
 
2024/01/17/15:00
 

 

(第109号)「空き家法」の改正により「管理不全空き家」が指導、勧告される

(投稿・令和5年12月)

 今回、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下「空き家法」)が改正されました。

 総務省が5年毎に実施している「住宅・土地統計調査」の平成30年調査では、総住宅数6240万7千戸に対して空き家は約849万戸となっており、空き家率は13.6%となっています。また、長期にわたって不在の住宅などの「居住目的のない空き家」は349万戸で、この20年で約1.9倍に増加しています。

 このように空き家の増加が見込まれる中、周囲に著しい影響を及ぼす「特定空家」になることを待つことなく、事前に管理の確保を図ることが必要とされ「空き家法」が改正されました。 

「空き家法」の「特定空家」とは

「特定空家」とは何か

 空き家対策をめぐっては、平成26年に成立した「空き家法」で、空き家を放置して倒壊の恐れがあるなど特に危険性が高い物件を「特定空家」に指定し、空き家を撤去できるようにしました。

 この「空き家法」については、第91号で紹介しています。

 
 まず、空き家と「特定空家」とはどういうものかです。

<空き家及び「特定空家」の定義>
※「空き家法」第2条
「1. この法律において「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。
2. この法律において「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。」

 つまり、「特定空家」とは空き家のうち次のいずれかに該当するものをいいます。
① そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
② そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
③ 適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
④ その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

住宅用地の減額特例が解除

 そして、「特定空家」に指定されると、固定資産税の住宅用地の減額特例が解除されることになります。

 この住宅用地の減額特例が解除されると、小規模住宅用地(200㎡以下)の特例(6分の1)及び一般住宅用地(200㎡を越える部分)の特例(3分の1)が適用されないこととなります。

 ところで、令和3年度までに「空き家法」により「特定空家」として措置(助言・指導、勧告、命令、代執行)された件数は約3万4千戸となります。

 (「特定空家」の措置状況)

「空き家法」の改正(概要) 

「管理不全空き家」が新設

 しかし、これまでの「空き家法」による「特定空家」の指定によっても、空き家が増え続けていることから、今回、対策強化を盛り込んだ「空き家法」の改正が行なわれた訳です。

 今回の「空き家法」の改正では、改正前が第16条までであったものが、改正後は第30条までと大幅な改正が行われました。

 この改正法では、空き家を放置すれば「特定空家」になる可能性がある物件を新たに『管理不全空き家』に指定され、管理指針に則した措置が「指導」されます。

 そして、「指導」してもなお状態が改善しない場合には「勧告」が可能となります。

<適切な管理が行われていない空家等の所有者等に対する措置>
※改正「空き家法」第13条
「1. 市町村長は、空家等が適切な管理が行われていないことによりそのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態にあると認めるときは、当該状態にあると認められる空家等(以下「管理不全空家等」という。)の所有者等に対し、基本指針に即し、当該管理不全空家等が特定空家等に該当することとなることを防止するために必要な措置をとるよう指導をすることができる。
2. 市町村長は、前項の規定による指導をした場合において、なお当該管理不全空家等の状態が改善されず、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれが大きいと認めるときは、当該指導をした者に対し、修繕、立木竹の伐採その他の当該管理不全空家等が特定空家等に該当することとなることを防止するために必要な具体的な措置について勧告することができる。」

 また、この「勧告」を受けたときは、「特定空家」の指定と同様に、当該敷地の固定資産税の住宅用地の減額特例を解除できるとされています。

(「特定空家」化を未然に防止)

 
 なお、この「管理不全空き家等」の設置に伴い、地方税法の「住宅用地の減額特例の解除」に関する条項も一部改正されました(下線部分)。

<住宅用地の減額特例の解除>
※地方税法349条の3の2
「1 (前略)空家等対策の推進に関する特別措置法第13条第2項の規定により所有者等に対し勧告がされた同法第13条第1項に規定する管理不全空家等及び同法第22条第2項の規定により所有者等に対し勧告がされた同法第2条第2項に規定する特定空家等の敷地の用に供されている土地を除く。(後略)」

財産管理人による空家の管理・処分

 民法(第25条~第29条)では、土地・建物等の所有者が不在・不明である場合等には、利害関係人又は検察官の請求により裁判所が選任した財産管理人が管理や処分を行うことができる、とされています。

<不在者の財産の管理>
※民法第25条
「1. 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。」

 今回の「空き家法」改正では、財産管理人の選任請求権を、空家等の適切な管理のために特に必要があると認めるときには、市区町村長も選任請求可能になりました。

<空家等の管理に関する民法の特例>/span>
改正「空き家法」第14条
「1. 市町村長は、空家等につき、その適切な管理のため特に必要があると認めるときは、家庭裁判所に対し、民法第25条第1項の規定による命令又は同法第952条第1項の規定による相続財産の清算人の選任の請求をすることができる。」

 
2023/12/17
 

 

(第108号)雑種地の固定資産税評価について(「狭小な雑種地」)

(投稿・令和5年12月) <閲覧上位5位(第16号)の関連版>

※第16号は過去の閲覧記録で第5位です。

 
 また、雑種地の固定資産税評価については、第68号及び第69号で解説しています。

 
 そこで今回は、「地目認定は現況主義」のみでは簡単過ぎますので、地目のうち分かりづらい雑種地について、とくに「その他の雑種地」の中で「狭小な雑種地」の評価について解説します。

 なお、「狭小な雑種地」については、一般財団法人・資産評価システム研究センターによる「令和5年度・土地に関する調査研究」からの抜粋によるものです。

雑種地の基本

 その前に、雑種地の基本について簡単にまとめていきます。

地目の認定は現況主義

 まず、地目認定の時期ですが、固定資産税の賦課期日が1月1日とされており、地目の認定も1月1日現在の土地の現況や利用目的を重視することから1月1日現在の認定となります。

<固定資産税の賦課期日>
※地方税法第359条
「固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日とする。」

 次に認定の取扱いですが、固定資産税の土地評価上の地目の認定は現況の地目(「現況主義」)によります。

 では、土地の地目が登記簿と現況が異なる場合は、どうなるのでしょうか。

 例えば、登記簿上の地目が「山林」となっているのに、実際には建物が建っている土地の場合ですが、この土地の固定資産税の地目は、「現況主義」によって「宅地」と認定されます。

地目の種類は9種類

 それでは、固定資産税評価における土地の地目は何かですが、固定資産評価基準では次のとおり9種類とされています。

<固定資産評価基準の地目>
※固定資産評価基準第1章第1節
「土地の評価は、次に掲げる土地の地目の別に、それぞれ、以下に定める評価の方法によって行うものとする。この場合における土地の地目の認定に当たっては、当該土地の現況及び利用目的に重点を置き、部分的に僅少の差異の存するときであっても、土地全体としての状況を観察して認定するものとする。
①)田、②畑、③宅地、④鉱泉地、⑤沼、⑥山林、⑦牧場、⑧原野、⑨雑種地」

 以上の9種類ですが、⑨雑種地は他の8種類以外の全てを含むことになります。

雑種地の固定資産税評価

 雑種地の評価については、固定資産評価基準において(ア)「ゴルフ場等用地の評価」、(イ)「鉄軌道用地の評価」及び(ウ)「その他の雑種地」の3種類とされています。

「雑種地の固定資産税評価」
 雑種地の評価方法は、(ア)と(イ)の評価方法は固定資産評価基準で定められていますが、(ウ)「その他の雑種地」の評価は。売買実例価額から評価額を求める方法と、売買実例価額が無い場合は付近の土地に比準して評価額を求める方法(近傍地比準方式)とされています。

 この(ウ)「その他の雑種地」の例としては、駐車場、資材・廃材置場、太陽光パネル設置用地、干場、鉄塔用地、私道、農業用施設用地、高圧線下地等があげられますが、これ以外にも、その他の全ての土地が「その他の雑種地」となります。

 「その他の雑種地」の評価方法は、売買実例地比準方式が原則ですが、売買実例が少ないことから、多くの市長村では近傍地比準方式により評価されているのが実際です。

「狭小な雑種地」の評価

「狭小な雑種地」とは

 「狭小な雑種地」とは、ゴミ置き場、防火水槽、残地・潰れ地等の雑種地です。

 一般的に、狭小な土地は画地規模が小さくなるにつれて利用可能な用途が限定され、用途の多様性が損なわれることから利用価値が減少します。

 「狭小な雑種地」は、主に次の区分がされています。

(1)建物の敷地として利用が困難な狭小な雑種地(通常の狭小地)
 建物の敷地としては利用困難であるものの、駐車場等として利用が可能な程度の画地規模が小さい(概ね15㎡から30㎡程度)土地です。

(2)単独では利用が困難な程度に狭小な雑種地(極狭小地)
 駐車場としての利用も困難な、画地規模が極めて小さな(概ね20㎡未満)土地です。

「狭小な雑種地」の評価方法

 「その他の雑種地」としては、売買実例地比準方式が原則ですが、「狭小な雑種地」の売買実例を収集することが困難なため、近傍地比準方式により評価される場合が多いと考えられます。

 「狭小な雑種地」の評価では、実務上、次の方法が考えられます。

(1)付近の土地の価額に、狭小地減価を含む比準割合を乗じる方法
 付近の標準的な規模の土地の価格(路線価等)に、狭小地であることの減価を含んだ比準割合を直接乗じる評価方法です。

(2)画地計算法等の適用により考慮する方法
 規模が狭小なことによる減価を、所要な補正を含めた画地計算法(奥行価格補正、間口狭小補正)を補正した上で適用することと市町村長が設定した狭小地補正を適用する方法等です。

 なお、「狭小な雑種地」については固定資産評価基準には規定が無いため、市町村の「所要の補正」(『固定資産評価事務取扱要領』)により行われています。
 
2023/12/01/16:00