(令和7年9月)
今回は、「家屋の附帯設備(エレベーター等)に係る固定資産税の取扱い」についてです。
なお、このテーマについては第122号でも扱っています。
今回は、家屋の附帯設備の中でも、特にエレベーター等についての説明です。
家屋の附帯設備について
家屋の附帯設備について、固定資産評価基準では次のとおりとされています。
<家屋の附帯設備の課税>—固定資産評価基準第2章第1節七
「家屋の所有者が所有する電気設備、ガス設備、給水設備、排水設備、衛生設備、冷暖房設備、空調設備、運搬設備、清掃設備等の建築設備で、家屋に取り付けられ、家屋と構造上一体となって、家屋の効用を高めるものについては、家屋に含めて評価する。」
これによると家屋の附帯設備を所有者が取り付けた場合には、その家屋の所有者が納税義務者となるのが一般的です。
しかし、家屋の所有者以外の者(テナント等)が附帯設備を取り付けた場合には、民法上の「付合」の但し書及び地方税法上の「みなし償却資産課税」制度があります。
不動産の「付合」について
まず、民法第242 条の不動産の「付合」規定です。
<不動産の「付合」>—民法242条
「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。」
この条文の本文からしますと、家屋の所有者が「付合」により所有者となり納税義務者となるのが一般的です。
通説によれば、次の3つの要件のうちいずれかを満たせば「付合」が成立するとされています。
① 毀損しなければ分離することが出来ない場合(分離復旧の困難)
② 分離するために過分の費用を要する場合(社会経済上の不利益)
③ このような程度の物理的結合を欠く場合であっても、その物が不動産に結合した結果、取引上の独立性を失うに至ったこと
なお、但し書(権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない)では、「付合」させた物が不動産の非構成部分となって、不動産(家屋)とは別個の所有権の対象(テナント等の所有権)となるとされています。
仮に「付合」の但し書きが適用された場合は、その家屋の附帯部分は所有者(テナント等)への償却資産の課税となります。
しかし、この但し書きは、市町村の家屋担当者にとって、適用の不可についての判断が難しく、悩ましい条文でもあります。
「みなし償却資産」課税制度について
上記のとおり、民法の「付合」但し書きの適用には課題もあるため、検討された結果、平成16 年度税制改正において、「みなし償却資産」課税制度が創設されました。
<「みなし償却資産」課税制度>—地方税法第343条10項
「家屋の附帯設備であって、当該家屋の所有者以外の者がその事業の用に供するため取り付けたものであり、かつ、当該家屋に付合したことにより当該家屋の所有者が所有することとなつたもの(以下この項において「特定附帯設備」という。)については、当該取り付けた者の事業の用に供することができる資産である場合に限り、当該取り付けた者をもって第1項の所有者とみなし、当該特定附帯設備のうち家屋に属する部分は家屋以外の資産とみなして固定資産税を課することができる。」
このように、実際に当該附帯設備を使用収益しているのは、家屋の所有者ではなくテナント等であることから、附帯設備を取り付けた者(テナント等)を所有者とみなして固定資産税(償却資産)を課税することができるものとされました。
ところで、この「みなし償却資産」制度は、当初テナント等が取り付けた附帯設備(例えば、システムキッチンや取付型の空調設備、内装、壁等)を想定していたものと考えられていました。
エレベーター等の「みなし償却資産」
しかし、最近の調査において、エレベーター等の運搬設備等や給排水設備・ガス設備の主管等、通常は家屋と一体的に整備すると想定される附帯設備までも「みなし償却資産」の対象とされていることが判明しました。
このような状況の背景として、一般的に附帯設備が家屋として課税されるよりも償却資産として課税された方が税負担が軽減されることにあると思われます。
償却資産であれば、都市計画税は不要であるし、固定資産税の残価率20%が無い等の税負担が軽減される訳です。
なかには、エレベーターの附帯設備を家屋所有者とは別の法人に所有させ、それを家屋所有者へ貸し付けることで租税回避を図っている例もあるようです。
さて、このような実態に対して、総務省としても、不動産業等に対してテナント事業の実態等のヒアリングを行ったようですが、どこまで改善ができるのでしょうか。
まず、市町村の評価・課税部門で、民法上の「付合」の不可や実態調査が難しいことや、ビルの建築実態やテナント事業等も複雑になっている等簡単ではありません。
ただし、例えばエレベーター部分を別業者に所有権移転し、家屋所有者に貸し付けさせることにより、税負担軽減を意図的に行っているのが明白であれば、その対策を考えるべきです。
(以上です)
2025/09/15/16:00