(第97号)住宅用地の減額特例に関する浦和地裁判決(H4年2月)とその効果ー住宅用地の認定と国家賠償法の適用等

 
(投稿・令和5年8月-見直し・令和7年4月)

 住宅用地の減額特例については、これまでも第5号、第20号、第32号で説明してきました。

 
 これまでの解説では、平成4年2月24日浦和(現さいたま)地方裁判所判決(以下「浦和地裁判決」)をきっかけに「住宅用地は申告が義務づけられているが、申告が無くても適用される」ことを説明してきました。

 実は、この浦和地裁判決では、「住宅用地の申告問題」とともに「国家賠償法が適用できるかどうか」も争点になっていたのでした。

 今回は、この浦和地裁判決の「住宅用地の申告問題」と「国家賠償法適用の可否」についてもみていきます。

住宅用地と申告の義務づけ

住宅用地とは何か(再掲)

 まず「住宅用地とは何か」について簡単に復習します。

<住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例>
「地方税法第349条の3の2」
「専ら人の居住の用に供する家屋又はその一部を人の居住の用に供する家屋で政令で定めるものの敷地の用に供されている土地で政令で定めるもの(以下「住宅用地」という。)に対して課する固定資産税の課税標準は、第349条及び前条第11項の規定にかかわらず、当該住宅用地に係る固定資産税の課税標準となるべき価格の3分の1の額とする。
2 住宅用地のうち、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める住宅用地に該当するもの(以下「小規模住宅用地」という。)に対して課する固定資産税の課税標準は、第349条、前条第11項及び前項の規定にかかわらず、当該小規模住宅用地に係る固定資産税の課税標準となるべき価格の6分の1の額とする。(中略)」

(1)戸建住宅用地の場合は200㎡までが1/6

 戸建住宅用地の場合は、200㎡までが1/6(小規模住宅用地)に減額され、それを超える面積分は1/3(一般住宅用地)となります。
 なお、一般住宅用地1/3は住宅面積の10倍が限度となります。


 

(2)アパートは部屋毎に1/6が適用

 アパートの住宅用地は部屋単位で200㎡が適用されます。
 したがって、下図のように1部屋(80㎡)で8部屋有る場合は8×200㎡=1600㎡までが小規模住宅用地(1/6)となり、この土地500㎡は全て小規模住宅用地となります。


 

(3)住宅と住宅以外の複合不動産の場合

 では、家屋が住宅と住宅以外(店舗・事務所等)の併用住宅の場合はどうなるかです。

 この場合は、家屋が「5階以上の耐火建築物である併用住宅」か「4階までの併用住宅」かによって、居住部分の割合に応じて住宅用地率が変わってきます。

 ここで留意すべき点ですが、下図右側のように2階建の家屋で「1階部分を店舗(事務所)、2階部分を居住用」として使用している場合です。

 このように2階を居住用としてしているケースは商店街でよくありますが、この場合には、土地の住宅用地として200㎡までは1/6、それ以上は1/3になります。
 しかし、1階の店舗(事務所)だけを見て、商業地(非住宅用地)として課税されている「課税誤り」もありますので、気をつける必要があります。


 

住宅用地は申告が義務づけられている

 それでは、住宅用地の申告が義務づけられている根拠ですが、これは地方税法(348条)では「申告させることができる」との『できる規定』なのですが、全国の市町村の条例では申告が義務として規定されています。

<住宅用地の申告>
「地方税法第384条1項」
「市町村長は、住宅用地の所有者に、当該市町村の条例の定めるところによつて、当該年度に係る賦課期日現在における当該住宅用地について、その所在及び面積、その上に存する家屋の床面積及び用途、その上に存する住居の数その他固定資産税の賦課徴収に関し必要な事項を申告させることができる。(後略)」

 次は、この地方税法第384条1項に基づいた市町村の条例です。

 住宅用地の申告規定は、全国の市町村税条例においてほぼ同じ内容ですが、ここでは、浦和地裁判決の対象となった埼玉県八潮市の市税条例を紹介します。

<条例による「住宅用地の申告」義務>
「八潮市市税条例第74条」
「賦課期日において、住宅用地を所有する者は、当該年度の前年度に係る賦課期日から引き続き当該住宅用地を所有し、かつ、その申告すべき事項に異動がない場合を除き、当該年度の初日の属する年の1月31日までに、次の各号に掲げる事項を記載した申告書を市長に提出しなければならない。
① 住宅用地の所有者の住所、氏名又は名称及び個人番号又は法人番号
② 住宅用地の所在及び地積
③ 住宅用地の上に存する家屋の所在、所有者、家屋番号、種類、構造、用途、床面積、居住の用に供する部分の床面積及び居住の用に供した年月日並びにその上に存する住居の数
④ その他市長が固定資産税の賦課徴収に関し、必要と認める事項」
※この内容は、ほぼ全国の市長村条例と同じです。

浦和地裁判決の内容

訴訟の要旨等

(1)訴訟の概要
① 裁判所…浦和(現さいたま)地方裁判所
② 裁判年月日…平成4年2月24日
③ 事件名…不当利得返還請求事件
④ 原告…八潮市の土地所有者複数名
⑤ 被告…八潮市(被告代表・八潮市長)
⑥ 判決…原告側の勝訴

(2)原告側の主張(一部抜粋)

「固定資産税については、元来、申告納税方式はとられておらず、賦課課税方式がとられているのであるから、減税特例に関し右のような運用を図ることは租税法規に違反するものであり、このことはその運用に当る市長としては容易に気付くはずのものである。」

「被告の市長が原告らに対してした固定資産税の賦課決定は少なくとも「納付税額」と「特例適用額」との差額に相当する「過払税額」に関する部分については重大かつ明白な瑕疵があるから無効である。また、被告の市長が右固定資産税の賦課決定をするについては、同市長に前記のような過失があり、そのために原告らが右当該各「過払税額」に相当する損害を被ったのであるから、被告は原告らに対しこれを賠償すべきである。」

(3)被告側の主張(一部抜粋)

「被告の市長が原告らに対してした固定資産税の賦課決定は、課税の金額を誤っただけであって、この誤りは、例えば、課税の対象物件が原告らの所有ではないのに課税をしたというような、課税要件の根幹にかかわる事由に関するものではない。また、市長が減税特例の適用をもらしてしまったことについては、原告らが市税条例で義務付けられている申告をしなかったことに一因がある。そうだとすれば、右賦課決定に存する瑕疵は重大かつ明白なものとはいえない。」

「被告の市長が減税特例の適用をもらしたのは、原告らが市税条例で義務付けられている所定事項の申告をしなかったからにほかならない。ほかに市長には原告らに対し固定資産税の賦課決定をするについて違法又は不当の目的はなく、付与された権限をその趣旨に背いて行使したこともない。したがって、市長が右固定資産税の賦課決定をしたことには違法性はないものというべきである。」

浦和地裁判決の要旨

 上記の原告、被告両者の主張を踏まえた、浦和地裁判決の要旨は次のとおりです。(一部抜粋)

「固定資産税の賦課決定は、市町村長の納税義務者に対する納税通知書の交付によってされるのであって(地方税法第364条)、納税義務者からの申告によるものではないのであり、同法第384条第1項本文が、市町村長は、住宅用地の所有者に対して、当該市長村の条例の定めるところに従い、土地の所在及び面積等、固定資産税の賦課に関し必要な事項を申告させることができるとしたのは、納税義務者に対して右申告義務を課することにより課税当局において減税特例の要件に該当する事実の把握を容易にしようとしただけのものであって、右申告がないからといって、減税特例を適用しないとすることが許されるものではないことは課税の当局者にとっては見易い道理である。」

「被告は、違法な租税の賦課処分は、専ら行政不服審査上の異議申立て又は審査請求、及びこれに続く取消訴訟の提起等によって是正されるべきであると主張するが、これは専ら租税の賦課処分の効力を争うものであるのに対して、租税の賦課処分が違法であることを理由とする国家賠償請求は租税の賦課処分の効力を問うのとは別に、違法な租税の賦課処分によって被った損害の回復を図ろうとするものであって、両者はその制度の趣旨・目的を異にし、租税の賦課処分に関することだからといって、その要件を具備する限り国家賠償請求が許されないと解すべき理由はない。」

※浦和地裁判決の原文は次のPDFをご覧ください。

 

本判決が与えた行政への影響

 この平成4年2月の浦和地裁判決が固定資産税行政へ与えた影響として、つぎの3点をあげることができます。

  住宅用地は申告が義務づけられているが、申告がなくても減額特例は適用できること。
固定資産税の賦課決定に重大かつ明白な瑕疵(過失)があった場合は、国家賠償法の適用(20年間の返還)が可能であること。
多くの市町村で「過誤納金返還要綱」が策定されたこと。

住宅用地は申告が無くても適用される

 住宅用地の減額特例は、固定資産税(土地、家屋)が「賦課課税方式」のため、条例による申告が無くても適用されます。

 本判決文の中には「賦課課税方式」との直接的な表現はありませんが、「固定資産税の賦課決定は納税通知書の交付によってされるもので、申告によるものではない」と、原告側主張(固定資産税は「賦課課税方式」)を容認しています。

 全国の市長村では、この判決がきっかけとなり「条例による申告が無くても住宅用地の減額特例を認める」となっている訳です。

固定資産税は最高20年間の返還が可能

 固定資産税の還付期間は、地方税法第18条の3により5年間とされています。

<還付金の消滅時効>
「地方税法第18条の3」
「地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定による還付金に係る地方団体に対する請求権は、その請求をすることができる日から五年を経過したときは、時効により消滅する。」

 しかし、国家賠償法では「故意又は過失」があった場合、民法724条を適用して20年間の還付(返還)が可能となります。

<国家賠償法の内容(一部)>
「国家賠償法第1条」
「① 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。」
※国家賠償法第4条
「国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法の規定による。」

<民法-不法行為による損害賠償請求権の消滅時効>
「民法第724条」
「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
二 不法行為の時から20年間行使しないとき。」

 上記のとおり、固定資産税の還付(返還)は、原則として地方税法により5年間の還付ですが、行政側に「故意又は過失」があった場合には国家賠償法により20年間の還付(返還)が可能となります。

 この「過失」(行政の「故意」は無いでしょうから)とは具体的にどのような場合なのかということですが、学者によると「手抜き」があったときと説明されています

市町村で「過誤納金返還要綱」が策定

 現在、全国の多く(約7割)の市町村で「過誤納金返還要綱」(市町村により名称が異なり、以下「要綱」とします)が定められています。
(※「要綱」とは、市町村議会の議論・議決を経ずに行政のみで定めているもので「法的拘束性」は弱いものです。)

 この「要綱」では、固定資産税の課税において「過失」があった場合には、地方税法による還付5年ではなく、10年又は20年の還付(返還)が可能とされています。従って、市町村側に「過失」(「手抜き」)があったと認めた場合には、この「要綱」に基づいて5年を超える返還もされています。

 実は、この「要綱」は平成4年2月の浦和地裁判決を受けて定められたものなのです。

 しかし、この「要綱」では、10年を超える場合には「納税済みの領収書が必要」などとされ、問題が無いとも言えません。

 なお、この「要綱」については、(27号)固定資産税の課税誤り(過誤納金)の返還期間-地方税法及び「過誤納金返還要綱」で説明していますので、そちらをご覧ください。

 
2023/08/21/11:00

 

(第96号)固定資産税に不服がある場合の手続きは、「審査の申出」(価格)と「審査請求」(価格以外)の2通り

 
(投稿・令和5年8月-見直し・令和7年4月)

 これまで、固定資産税に不服がある場合の手続きとして「審査の申出」について紹介してきました。

 
 しかし、固定資産税に対する不服は、価格(評価額)に限ったものではありません。

 では、価格以外の固定資産税に対して不服がある場合はどうしたら良いのでしょうか。
 これは「審査請求」という手続きになります。

 つまり、固定資産税に対する不服対応(審査)としては「審査の申出」と「審査請求」の2通りある訳です。

 今回は、この後者の「審査請求」についての解説になりますが、まず両者の相違を紹介します。

「審査請求」とは

 そもそも、行政庁の処分に対して不服がある場合の救済手続きの一般法としては行政不服審査法が制定されています。
 そして、固定資産税に関する不服申立についても、原則として、この行政不服審査法に定めるところによるとされていますが、地方税法第19条で特例がまとめられています。

<行政不服審査法との関係>
「地方税法第19条」
「地方団体の徴収金に関する次の各号に掲げる処分についての審査請求については、この款その他この法律に特別の定めがあるものを除くほか、行政不服審査法の定めるところによる。(以下省略)」

「審査請求」の手続き

「審査請求」を出来る者及び対象

 固定資産税の賦課等について「審査請求」をすることができる者は、その固定資産税の賦課等を受けた者であり、その賦課等について不服がある場合です。
 ただし、固定資産税の価格については「審査の申出」が出来ることから、「審査請求」としての不服の理由とすることはできません。

<固定資産課税台帳に登録された価格に関する審査の申出>
「地方税法第432条3項」
「固定資産税の賦課についての審査請求においては、第1項の規定により審査を申し出ることができる事項についての不服を当該固定資産税の賦課についての不服の理由とすることができない。」

「審査請求」の相手(被告)

 行政不服審査法における「審査請求」は、行政庁の処分又は不作為について行うもので、固定資産税については市町村長に対して行います。
 なお、地方税に関しては、再審査請求は認められないこととなっています。(行政不服審査法6条1項)

「審査請求」が出来る期間

 「審査請求」をすることができる期間は、納税通知書の交付受けた日の翌日から起算して3ヵ月以内です。

「審査請求」の主な例

 「審査請求」の事例及び問題となるケースとしては、主に次のようなものがあります。
 ただし、棄却か容認かは個別具体的な判断が必要となります。

納税義務者の認定

①賦課期日現在の所有者
 固定資産税の納税義務者は賦課期日(1月1日)の登記簿に記載されている所有名義人ですが、相続による登記が行われていない場合は納税義務者にはなりません。

②解散手続中の法人
 法人は法律上消滅し権利能力を失うまで納税義務を負うこととなるため、解散手続中でも法人として納税義務を負います。

課税客体の認定

①土地の存否
 固定資産税の対象となっている土地が登記簿上は存在するが、実際に存在していない場合、固定資産税の課税客体は現況主義のため実際に存在しないなら課税されません。

②償却資産と家屋(設備)の区分
 家屋を借り受けて事業をする者が自己の費用により事業の用に供する附加加工した内装、造作、建築設備は、その者を所有者とみなして償却資産が課税されます。

公共の用に供する道路

 土地の一部が公共の用に供する道路として非課税にされるためには、不特定多数の用に供されていて、車両が置かれていないこと等が必要となります。

課税標準の特例

①新築家屋の特例
 新築住宅の軽減される税額の幅は、新築一戸建ての場合で3年間は2分の1に減額、新築マンションでは5年間が2分の1に減額となります。

②住宅用地の特例
 賦課期日(1月1日)現在で住宅が存在している場合には住宅用地の特例措置が適用されます。

③負担調整措置・住宅用地の特例
 土地の負担調整措置は、負担水準(その土地の前年度課税標準額が今年度の評価額に対してどの程度の水準まで達しているか)により決められるため、仮に土地の評価額が下がっていても固定資産税の課税標準額が上がる場合もあります。
 
2023/08/05/10:00

 

(第95号)私道が「公共の用に供する道路」として非課税になる場合(具体的要件)

 
(投稿・令和5年3月-見直し・令和7年4月)

 私道が「公共の用に供する道路」であれば非課税となることについては、第21号でお知らせしましたが、今回はその続編として、どのような場合に私道が非課税となるのか、具体的な要件についてみていきます。

 
 なお、固定資産税の地目の認定は現況主義で、これは固定資産評価基準の第1章(土地)第1節(通則)一(土地の評価の基本)に定められています。
 また地目の意義の定義については、不動産登記事務取扱手続準則の定めているとおりとされています。

 なお、この内容については、第16号「固定資産税(土地)の地目は現況主義による」で説明してあります。

 

固定資産税における私道の非課税

 固定資産税における私道の非課税は「公共の用に供する場合ですが、この根拠規定は地方税法348条(固定資産税の非課税の範囲)2項(物的非課税)5号になります。

<固定資産税の「私道」非課税>
「地方税法348条2項5号」
「2項 固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合には、当該固定資産の所有者に課することができる。
 5号 公共の用に供する道路、運河用地及び水道用地」

「公共の用に供する道路」に関する通達・行政実例

 この「公共の用に供する道路」については、これまで、自治省(現在の総務省)からの通達(現在は「通知」です)や行政実例が出されています。

<昭和26年7月13日地財委税1140号(地方財政委員会通達)> 
「『公共の用に供する道路』の解釈につき,所有者において何等の制約を設けず,広く不特定多数人の利用に供するものをいう。」 

<昭和26年9月14日地財委税1456号(行政実例)>
「『公共の用に供する道路』の解釈につき,原則として,道路法の適用を受ける道路をいうものであるが,林道,農道,作業道等であっても,所有者において何等の制約を設けず,広く不特定多数人の利用に供し,道路法にいう道路に準ずるものと認められるものについては,『公共の用に供する道路』に包含され,また,特定人が特定の用に供する目的で設けた道路であっても,当該道路の現況が,一般的な利用について何等の制約を設けず広く不特定多数人の利用に供するものと認められるものについては『公共の用に供する道路』に該当する。」 

<昭和42年4月5日自治固34号(行政実例)>
「一般的に,特定人が特定の用に供する目的で設置した道路が『公共の用に供する道路』に該当するためには,当該道路の現況が一般的利用について何等の制約を設けず開放されている状態にあり,かつ,当該私道の他の道路への連絡状況,周囲の宅地の状況等からみて客観的に広く不特定多数人の利用に供される性格を有するものであることを要する。」

市町村の取扱要領・指針

 また、この地方税法の非課税規定は歴史も長いことから、多くの市町村で「公共の用に供する道路」の取扱要領や指針が定められています。

 ここに、東京都(23区)の「道路に対する非課税のご案内」と大阪市の「『公共の用に供する道路』に係る事務処理要領(一部)」を紹介します。
(いずれもホームページに掲載されています。)

 
 この東京都(区)・大阪市の内容はほぼ同じで、また他の全国の市町村の要領、指針も同様の内容となっています。

私道の固定資産税課税の取扱い

私道とは何か

(1)私道の定義
 私道とは、道路の設置と管理主体の観点から、個人や企業などの私人により設置及び維持管理等されている、通行の用に供されている道路です。

 これに対して公道は、国や公共団体等により設置及び維持管理されている、公衆の通行の用に供されている道路で、地方税法348条1項で「人的非課税」とされています。

(2)不動産登記の観点から
 不動産登記法による土地の地目は不動産登記事務取扱手続準則68条で23種類規定されていますが、そのうちの公衆用道路(21号)は「一般交通の用に供する道路(道路法による道路であるかどうかを問わない。)」とされています。
 つまり、公衆用道路は必ずしも公道とは限らないのです。

(3)建築基準法の観点から
 建築基準法では42条1項と2項に道路の種類が定義されていますが、建築基準法の道路は必ずしも公道とは限らず私道も含まれています。

<建築基準法上の道路>

 

裁判例にみる「公共の用に供する道路」

 「公共の用に供する道路」の適用をめぐって、これまでいくつか訴訟が行われてきていますが、定義自体は上記の通達や行政実例を踏まえて一貫しているようです。
 したがって訴訟の内容は、案件の私道が具体的に「公共の用に供する道路」に該当するか否かの内容となっています。

 これまでの裁判例にみる「公共の用に供する道路」の定義は、「開放性」「公共性」「準道路性」の3要件から成りますが、ここに判決文から引用します。

<福岡高等裁判所判決/平成26年(行コ)第18号>
「『公共の用に供する道路』とは,原則として道路法が適用される道路を意味し,所有者において何らの制約も設けず(開放性),広く不特定多数人の利用に供されている(公共性)ものをいうが,道路法による道路でなくても,それに準ずる土地であって,何らの制約なく一般公衆の利用に供されているものを別異に解する理由はないから,『道路法にいう道路に準ずるもの』と認められるもの(準道路性)を含むと解すべきである。」

(1)開放性
・所有者において何らの制約も設けられていないこと。
・例えば「夜間通行禁止」等の時間制約や道路上に植木鉢を置いたりしている場合は開放性が認められません。

(2)公共性
・広く不特定多数人の利用に供されていること。
・例えばショッピングモールで「利用者以外通行禁止」等の制約は公共性が認められません。

(3)準道路性
・道路法にいう道路に準ずるものと認められるもの。
・準道路性では、私道所有者の私権の行使(用途変更・廃止)が制限されます。

条例による申告義務

 この非課税等特別措置(非課税、課税標準の特例等)の適用に当たっては、取扱通知(「地方税法の施行に関する取扱いについて」平成22年)により、「条例により申告義務を課することが適当である」とされています。

<取扱通知-地方税法の施行に関する取扱いについて(第3章第1節19)> 
「非課税等特別措置の適用に当たっては、定期的に実地調査を行うこと等により利用状況を的確に把握し、適正な認定を行うこと。また、実地調査時点の現況等を記載した対象資産に関する諸資料の保管、整理等に努め、その的確な把握を行うとともに、利用状況の把握のため必要があると認められる場合には、条例により申告義務を課することが適当であること。」 

 「公共の用に供する私道」の判例紹介

 ここに「公共の用に供する私道」の判例の一部を紹介します。

 上記の「公共の用に供する道路」の定義で引用した福岡高等裁判所判決/平成26年(行コ)第18号です。

 この訴訟は、第1審(福岡地方裁判所/平成24年)で、福岡市にある商店街として使用されている土地を所有する原告らが「非課税とすべき土地が課税対象とされた」として訴え原告勝訴でした。

 しかし、第2審の福岡高等裁判所では「本件土地の一部である商店街の各通路は、「公共の用に供する道路」に該当するとはいえず、固定資産税等を非課税とすべき理由はないと」して原判決を取消し請求を棄却しました。

 詳細につきましては、次の判決要旨をご覧ください。

 
2023/03/25/10:00
 

 

(第94号)「空き家対策」の強化へ-「空家対策特別措置法」の改正⇒『管理不全空き家』を創設

 
(投稿・令和5年3月-見直し・令和7年4月)

 政府は増え続ける空き家の問題で、管理が不十分な物件については固定資産税を減額する措置を解除することなどを盛り込んだ「空家対策特別措置法」(以下「空き家法」)を改正することになりました。

 令和5年6月7日の参議院本会議において、「空き家法」の改正法が可決・成立し、施行されています。

 また京都市では、法定外普通税(固定資産税ではない)としての「空き家税」(「非居住住宅利活用促進税」)が検討されていますので、参考までにお知らせします。

これまでの「空き家法」による対応

平成26年に「空き家法」が成立

 空き家対策をめぐっては、平成26年に成立した「空き家法」で、空き家を放置して倒壊の恐れがあるなど特に危険性が高い物件を「特定空家」に指定し、空き家を撤去できるようにしました。

 この「特定空家」に指定されると、固定資産税の住宅用地減額特例(200㎡以下が1/6、200㎡を超える部分が1/3に減額)が解除されることになります。

『管理不全空き家』を新設

 しかし、「空き家法」による「特定空家」指定によっても、これまで空き家が増え続けていることから、今回、対策強化を盛り込んだ「空き家法」の改正が行なわれた訳です。

 この改正法では、放置すれば「特定空家」になるおそれがある物件を新たに『管理不全空き家』に指定し、固定資産税の減額措置を解除できるとしています。

 これまでの制度では、空き家でも住宅用地として土地の固定資産税が1/6に減額される続けていることが空き家放置につながっていると指摘されていて、今回の「空き家法」の改正は、所有者に空き家の撤去などの適切な管理を促す狙いとのことです。

 このほか改正法では、「特定空家」を撤去する際の行政の権限を強化することも盛り込まれています。

京都市で「空き家税」を検討

 京都市で、全国で初めての「空き家税」(「非居住住宅利活用促進税」)の創設が検討されています。

 この税は固定資産税とは別に、法定外普通税(市税)として創設されますので、具体的には「京都市非居住住宅利活用促進税条例」によります。
 なお、同条例により、令和11年度から実施されるとのことです。

 注目すべきことは、今後、他市町村も同様の法定外税を設立するのかどうかです。

 具体的には京都市のホームページ「非居住住宅利活用促進税の導入に向けた取組について」(「京都市情報館」)をご覧ください。

 
2023/03/03/20:00
 

 

(第93号)「わがまち特例」制度とはどのようなものか

 
(投稿・令和5年2月-見直し・令和7年2月)

 聞き慣れない名称かもしれませんが、地方税法の特例で「わがまち特例」という制度があります。この「わがまち特例」とは通称で、正式名は「地域決定型地方税制特例措置」です。

 この「わがまち特例」は、地方税法の定める範囲内で市長村が特例率を条例で定めることができる仕組みとして、平成24年度の税制改正により導入されています。

「わがまち特例」制度とは

 「わがまち特例」は、法律に基づき、国が市長村に対して特例措置の実施を求める場合であっても、市長村の裁量を認めた方が効果的な特例措置については、全国一律の特例措置ではなく、法律の定める範囲で、市長村が特例措置の内容を条例で定めることができる仕組みです。

<地域決定型特例措置>

「わがまち特例」の導入例

 「わがまち特例」は市長村の条例によるものですので、市長村毎に導入されている特例が異なります。

 では、どのようなものが「わがまち特例」なのか、ここに主な導入例を紹介します。
 ※必ずしも、この表で掲げた例が全国の市長村で採用されてはいませんし、逆に、ここに無い制度が導入されている市長村もあります。

<「わがまち特例」導入例>

「わがまち特例」の特例割合

 上記の表(導入例)のとおり、地方税法第349条の3第27~29項及び地方税法附則第15条等により、導入された固定資産税の特例ですが、特例割合(特例率)は市長村の条例により異なっています。

 しかし、地方税法(含む附則)の条文では、表にあるように「参酌率○/○」を示した上で「○/○以上○/○以下の範囲内で市長村の条例で定める」とあることから、多くの市長村ではこの「参酌率」を特例割合としているようです。

 なお「参酌」とは、条例の制定にあたっては、国の法令を十分参考にしてつくるべき、ということです。

 そこで、参考までに「汚水又は廃液処理施設」の条文を掲げます。

<汚水又は廃液処理施設> 
※地方税法附則第15条第2項第1号 
「2項 公共の危害防止のために設置された次の各号に掲げる施設又は設備のうち、令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に取得されたものに対して課する固定資産税の課税標準は、第349条の2又は第349条の3第2項若しくは第3項の規定にかかわらず、当該償却資産に係る固定資産税の課税標準となるべき価格に、それぞれ当該各号に定める割合を乗じて得た額とする。 
 1号 水質汚濁防止法第2条第2項に規定する特定施設又は同条第3項に規定する指定地域特定施設を設置する工場又は事業場の汚水又は廃液の処理施設で総務省令で定めるもの 1/2を参酌して1/3以上2/3以下の範囲内において市町村の条例で定める割合」 

 なお、市町村により導入項目も特例割合も様々ですので、具体的には該当の市町村の条例を確認してください。 

「太陽光発電設備」の特例

 最近では、太陽光発電設備が多くの市長村で設置されていますが、土地(太陽光パネル設置用地)については「その他の雑種地」になります。

 
 しかし、太陽光発電施設は土地だけでなく、土地上に設置されている太陽光パネル等が償却資産として課税されています。

 その償却資産の特例措置として「わがまち特例」が導入されています。

 具体的には、再生可能エネルギー事業者支援事業費の補助を受けて取得した太陽光発電設備及びこれと同時に設置する専用の架台、集光装置、追尾装置、蓄電装置、制御装置、直交変換装置又は系統連続用保護装置が該当します。

 この太陽光発電施設の特例割合は、次の2つに分かれます。

① 出力1千kW未満の設備(地方税法附則第15号第26項第1号イ)
 「固定資産税の課税標準となるべき価格に2/3分参酌して1/2以上5/6以下の範囲内において市町村の条例で定める割合を乗じて得た額」

② 出力1千kW以上の設備(地方税法附則第15号第26項第2号イ)
 「固定資産税の課税標準となるべき価格に3/4を参酌して7/12以上11/12以下の範囲内において市町村の条例で定める割合を乗じて得た額」

※地方税法附則第15号第26項(一部)
「26項 再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法第2条第2項に規定する再生可能エネルギー発電設備のうち、同条第3項第6号に掲げる再生可能エネルギー源を電気に変換する設備以外の設備であつて、令和2年4月1日から令和6年3月31日までの間に新たに取得されたものに対して課する固定資産税の課税標準は、第349条の2の規定にかかわらず、当該特定再生可能エネルギー発電設備に対して新たに固定資産税が課されることとなつた年度から3年度分の固定資産税に限り、次の各号に掲げる特定再生可能エネルギー発電設備の区分に応じ、当該各号に定める額とする。 
1号 次に掲げる特定再生可能エネルギー発電設備 当該特定再生可能エネルギー発電設備に係る固定資産税の課税標準となるべき価格に2/3を参酌して1/以上5/6以下の範囲内において市町村の条例で定める割合を乗じて得た額 
イ 太陽光を電気に変換する特定再生可能エネルギー発電設備で総務省令で定めるもので総務省令で定める規模未満のもの 
(中略) 
2号 次に掲げる特定再生可能エネルギー発電設備 当該特定再生可能エネルギー発電設備に係る固定資産税の課税標準となるべき価格に3/4を参酌して7/12以上11/12以下の範囲内において市町村の条例で定める割合を乗じて得た額 
イ 特定太陽光発電設備(前号イに掲げるものを除く。) 
(以下略) 
 
2023/01/20/10:00