(第101号)「役に立つ固定資産税講座」100号達成-これまでの閲読では「宅地評価」「課税誤り」「非課税」「減免」などが上位

(投稿・令和5年9月)

 この「役に立つ固定資産税講座」は平成25年10月から始めましたが、100号を達することができました。

 これまでの皆様のご熱心な閲読に励まされて、ここまで到達することができました。有り難うございました。

 このブログソフト「WordPress」には、毎日の閲覧数を記録する機能であるプラグイン「Count Per Day」を搭載していますので、全ての記録が残っています。

 そこで今回は、①初号から現在までと②最近1週間の上位閲読(1位から10位まで)のナンバーを紹介することにします。

 多くの人が「固定資産税のどの内容を知りたいのか」が分かりますので、参考にしていただけましたら幸いです。

※ 過去の「閲覧数」と「順位」となりますと、古い掲載が有利となりがちですので、この点を考慮されますようお願い致します。

 なお、次の①②の一覧表と該当ブログのアドレスリンクのみとさせていただきますので、各ブログはアドレス(赤字)をクリックの上ご覧いただきますようお願い致します。

① 初号から現在までの閲読状況


 
◇1位<第36号>(50,021回)
 ・固定資産税の宅地の評価方法(「その他の宅地評価法-標準宅地比準方式」)
 
◇2位<第27号>(47,049回)
 ・固定資産税の課税誤り(過誤納金)の返還期間-地方税法及び「過誤納金返還要綱」
 
◇3位<第22号>(46,188回)
 ・物的(用途)非課税の例(2)-社会福祉法人等による「老人福祉施設」
 
◇4位<第15号>(43,911回)
 ・固定資産税「減免」の要件と市町村条例
 
◇5位<第16号>(26,531回)
 ・固定資産税(土地)の地目認定は現況主義による
 
◇6位<第28号>(25,225回)
 ・固定資産税の課税誤りの返還期間(20年間ー国家賠償法適用)―最高裁判決
 
◇7位<第19号>(22,591回)
 ・固定資産税の家屋とはどういうものか(基本編)
 
◇8位<第2号>(20,410回)
 ・固定資産税は市町村税の「基幹税」で、土地と家屋は「賦課課税方式」
 
◇9位<第13号>(19,158回)
 ・固定資産税が課税されない非課税制度とは
 
◇10位<第24号>(17,610回)
 ・固定資産評価は相続税、不動産取得税、登録免許税でも活用
 

② 最近1週間の閲読状況


 
◇1位<第21号>(153回)
 ・物的(用途)非課税の例(1)-私道でも「公共の用に供する道路」であれば非課税
 
◇2位<第64号>(92回)
 ・区分所有マンションの固定資産税評価について
 
◇3位<第29号>(83回)
 ・一般家屋の(固定資産税)床面積の算定について
 
◇4位<第27号>(72回)
 ・固定資産税の課税誤り(過誤納金)の返還期間-地方税法及び「過誤納金返還要綱」
 
◇5位<第22号>(61回)
 ・物的(用途)非課税の例(2)-社会福祉法人等による「老人福祉施設」
 
◇6位<第28号>(52回)
 ・固定資産税の課税誤りの返還期間(20年間ー国家賠償法適用)―最高裁判決
 
◇7位<第17号>(52回)
 ・固定資産税の土地面積は原則として「登記簿主義」、例外的に現況地積も
 
◇8位<第16号>(49回)
 ・固定資産税(土地)の地目認定は現況主義による
 
◇9位<第13号>(48回)
 ・固定資産税が課税されない非課税制度とは
 
◇10位<第95号>(47回)
 ・私道が「公共の用に供する道路」として非課税になる場合(具体的要件)
 

ご意見・ご感想のお願い

 この「役に立つ固定資産税講座」ブログでは、固定資産税の様々な課題を取り上げてきましたが、これからも、テーマはダブル可能性はありますが、できるだけ新しい課題の面から考察して情報を発信していくつもりです。

 そこでお願いですが、各ページの最下段に『お問合せ、ご意見・ご感想欄』を設けましたので、是非この欄からの情報発信をお願い致します。
 
2023/09/21/20:00
 

 

(第100号)震災、風水害等により被災した「住宅用地のみなし特例」について

(投稿・令和5年9月)

 今年(2023年)の夏は、「地球温暖化」を超えて「地球沸騰化」の時代とも言われ(国連グテーレス事務総長の発言)、異常気象による世界的な大災害が発生しました。

 そして、日本でも異常降雨、崖崩れ等の災害が続発し、住宅が滅失、倒壊する等の被害も発生しました。

 ところで、震災、風水害等の災害により住宅が滅失、損壊すると、その住宅の敷地となっていた土地が住宅用地として使用することができなくなってしまいます。

 そこで今回は、被災して住宅用地ではなくなった場合、固定資産税評価はどうなるかの解説です。

住宅用地とは何か(復習)

 まず、住宅用地とは何かの一部を復習します。

 住宅用地とは「専ら人の居住の用に供する家屋又はその一部を人の居住の用に供する家屋で政令で定めるものの敷地の用に供されている土地」(地方税法第349条の3の2)です。

 住宅用地のうち戸建住宅の場合の固定資産税は、200㎡までが1/6(小規模住宅用地)に、それを超える面積分は1/3(一般住宅用地)に減額されることとなります。
 また、都市計画税の小規模住宅用地は1/3、一般住宅用地は2/3となります。

 なお、一般住宅用地の固定資産税1/3・都市計画税2/3は住宅の床面積の10倍までが限度となります。

<住宅用地の仕組み(戸建住宅の場合>

 

「住宅用地のみなし特例」とは

「住宅用地のみなし特例」制度の趣旨

 この住宅用地は、原則として賦課期日(1月1日)の現況において現に住宅の存する土地であるものの、震災、風水害、火災等の災害により住宅が滅失し又は損壊のため取り壊された場合(以下「被災住宅用地」)には、住宅用地として認定できなくなってしまいます。

 そこで、被災住宅用地について所有者の税負担が急増することを回避し、住宅の再建を側面から支援する観点から、市町村長が「止むを得ない事由」と認定した場合には、次の「住宅用地のみなし特例」が適用されます。

 根拠法は地方税法第349条の3の3「被災住宅用地等に対する固定資産税の課税標準の特例」ですが、平成13年度、17年度、29年度に亘って改正されています。

(1)平成13年度の改正
 震災、風水害等の発生後2年度分の固定資産税(以下「都市計画税も含む」)を住宅用地とみなします。

(2)平成17年度の改正
 災害対策基本法に基づく避難指示等(避難勧告及び警戒区域の設定を含む)の期間が災害発生年の翌年以後に及んだ場合、住宅再建に着手し得る状況が整った後に賦課期日が到来する3年度分の固定資産税を住宅用地とみなします。

(3)平成29年度の改正
 被災市街地復興特別措置法に基づく被災市街地復興推進地域に定められた場合には、震災発生後4年度分の固定資産税を住宅用地とみなします。

震災、風水害等とは

 震災、風水害等とは、震災、風水害、雪害、落雷、噴火等の自然的災害、及び火災、爆発、事故等の人為的災害に起因して、住宅が滅失し、又は損壊した場合を指します。
 ただし、自己の放火や自己都合による建物取壊しの場合は、これに含まれません。

「止むを得ない事由」とは

 市町村長が被災住宅用地を住宅用地として使用することができない「止むを得ない事由」と認定し、「住宅用地のみなし特例」が適用される事例は、次の場合等です。

・ がれき等の処理で物理的に使用できない。
・ 権利関係の調整に時間がかる。
・ 復旧工事用の資材置場として用地を提供したため使用できない。
・ 経済的事情により、住宅再建まで時間が必要である。

特例適用可能な所有者の範囲

 本特例措置の適用を受けることができる所有者等の範囲は、次のとおりです。

(1) 被災年度に係る賦課期日(1月1日)における所有者

(2) 震災等の発生した日の属する年の1月2日から当該震災等の発生した日までの間に土地の全部又は一部を取得した者

(3) (1)又は(2)に該当する者から相続により、土地の全部又は一部を取得した者

(4) (1)又は(2)に該当する者から土地の全部又は一部を取得した三親等内の親族

(5) (1)又は(2)に該当する法人についての合併又は分割により、土地の全部又は一部を取得した法人

特例対象地積の範囲

 被災住宅用地について、一部が分割譲渡された場合、又は共有関係の変更があった場合等について、特例を受ける対象地積の範囲は、次のとおりです。

一部が分割譲渡された場合

 被災住宅用地の一部について、震災等の発生した日の翌日以後に、第三者に分割譲渡された場合は、当該譲渡された部分の地積が譲渡する前の全体の地積に占める割合により、その部分を「みなし住宅用地の特例」の適用から除外します。

共有関係の変更があった場合

(1)被災共用土地の場合
 被災共用土地については、建物が滅失した後についても従前と同様に、連帯納税義務の解除及び共用土地に係る税額の按分を行いますが、住宅用地とみなされる地積の算定については、通常の区分所有家屋の敷地の場合に準じます。

 すなわち、被災前の居住用部分に相当する部分の被災区分所有家屋の床面積に対する割合を元に、住宅用地とみなす部分を算定します。
 ただし、被災前に居住用であった部分の持分に対応する持分が第三者に譲渡された場合には、その持分に対応していた部分は居住部分ではなかったものとみなします。

(2)被災共用土地以外の土地の場合
 新たな第三者が取得した共用持分や本来の対象者であっても被災後新たに取得した共有持分は対象としません。

「被災住宅用地」適用には申告が必要

 震災、風水害等により被災した「住宅用地のみなし特例」の適用にあたっては、所有者から市町村長への申告が必要とされています。

 これは、市町村の市税条例で定められていますが、ここに例として千葉市の『被災住宅用地申告書』を紹介します(「千葉市のサイト」より)。
<『被災住宅用地申告書(千葉市)』>

 
2023/09/27/08:00
 

 

(第99号)地方税における固定資産税・都市計画税の位置づけ

(投稿・令和5年9月)

 今回は、固定資産税・都市計画税が地法税の中でどのような位置づけになっているかを図と表を中心に見ていきます。

固定資産税・都市計画税の概要

 固定資産税・都市計画税の内容については、これまで複数の号で説明してありますので、ここでは一覧表を掲載します。

 固定資産税は、土地、家屋、償却資産から構成されますが、課税客体は、全国で土地が約1億8,042万筆、家屋が約5,880万棟存在しています。
 また、納税義務者は、土地が約4,122万人、家屋が約4,192万人、償却資産が約466万人となっています。
 一方税収は、土地3兆4,853億円、家屋3兆9,578億円、償却資産1兆7,556億円となっており、税収比率は4:4:2の関係になっています。

地方税の中での地位は

 では、固定資産税は地方税の中でどのような地位にあるのでしょうか。

 固定資産税は、令和3年度決算額のうち「国税・地方税の税収内訳」として、地方税合計の21.8%を占め、市町村税においては41.0%、都市計画税と併せると46.9%を占める基幹的な税であります。

<固定資産税の地方税収の地位(令和3年度)>


 

世界の中での資産税負担率

 日本は諸外国と比べて、2020年度の資産課税の割合がどうなのかです。

 次のグラフは国民所得比に対しての諸税の負担率がどのくらいかを示したものですが、アメリカ、イギリス、フランスは日本よりも資産課税の割合が高いことが分かります。

<国民所得比での税負担率>

 

令和5年度地方税収の構成

 次は、令和5年度地方財政計画での固定資産税の位置づけです。

 令和5年度の計画として、地方税全体が429,397億円に対して、固定資産税が96,696億円(22.6%)、都市計画税が13,873億円(3.2%)となっていて、割合としてはトップを占めています。

<令和5年度地方税収の構成>

 

償却資産の税収割合

 最後に、固定資産税の一つである償却資産の税収割合の多い市町村の表です。

 償却資産というと家屋との関係に目が行きがちですが、この表のとおりダムや原発も大規模償却資産の一種となります。

<償却資産の税収割合が高い市町村>

 
 太陽光パネルも償却資産の課税対象ですが、やはりダム、原発は規模・税収額が大きいのが分かります。
 
2023/09/04/11:00

 

(第98号)急傾斜地崩壊危険区域、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の宅地における「所要の補正」について

(投稿・令和5年8月)

 過日、四日市市において「固定資産税土地の評価誤りがあった」との報道がありました。
 『三重県四日市市は18日、本年度の固定資産税・都市計画税について、一部の土地の評価額が誤っていたことによる課税誤りが判明したと発表した。土地3017筆、計1455人分が誤っていた。原因は、土地評価業務の受託業者が使用する単価計算ツールの設定誤りのため、誤った単価データが納品されたことと、データのチェックが不十分だったため。』(令和5年8月19日「伊勢新聞」より)

 これだけでは土地評価のどこの課税誤りか分からないため、四日市市のホームページを確認しましたところ、次の記者発表資料が掲載されていました。
『1.概要
 土砂災害特別警戒区域内にある宅地並評価の土地について、本市では平成27年度から評価を減額する補正を適用していますが、一部の土地で補正の適用漏れが判明しました。
2.原因
 課税事務において、補正適用作業に誤りがあったこと、及び補正適用作業後のチェック体制が不十分であったことによるものです。』(以下省略)

 課税誤りの対象が土砂災害特別警戒区域の宅地並評価であったことが分かりました。

 そこで、今回は土砂災害特別警戒区域、それと併せて急傾斜地崩壊危険区域について説明します。

災害対策関連法の一部

 災害対策関連法は、「地震・津波」「火山」「風水害」「地滑り・崖崩れ・土石流」「豪雪」「原子力」の類型におて、「予防」及び「復旧・復興」の各段階に分かれていて、膨大な数の法律が制定されています。

※次の「主な災害対策関連法の類型別整理表(PDF)」をご覧ください。

 
 その中で、今回関係する法律は類型「地滑り・崖崩れ・土石流」の「予防」段階における、「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」(以下「急傾斜地法」)及び「土砂災害警戒区域における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(以下「土砂災害防止法」)になります。

急傾斜地崩壊危険区域とは

 まず急傾斜地崩壊区域から説明しますが、この区域は「急傾斜地法」による区域となります。
 急傾斜地崩壊危険区域とは、「急傾斜地法」に基づき知事が指定するもので,急傾斜地の崩壊による災害から国民の生命を保護することを目的に,崩壊するおそれのある急傾斜地で,その崩壊により相当数の居住者その他の者に危害が生じるおそれのあるもの及びこれに隣接する土地のうち,当該急傾斜地の崩壊が助長され,又は誘発されるおそれがないようにするため,一定の行為が禁止若しくは制限される区域のことです。


 
 具体的には次の2つになります。
① 崩壊するおそれのある急傾斜地(傾斜度が30度以上の土地)で、その崩壊により相当数の居住者その他の者に被害のおそれのあるもの
② ①に隣接する土地のうち、急傾斜地の崩壊が助長・誘発されるおそれがないようにするため、一定の行為制限の必要がある土地の区域(誘発助長区域)

 なお、ここで急傾斜地とは「傾斜度30度以上」とありますが、この急傾斜地の定義は他の法律でも同様となっています。

土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)とは

 まず、「土砂災害防止法」とは何かですが、土砂災害から国民の生命を守るため、土砂災害のおそれのある区域について危険の周知、警戒避難態勢の整備、住宅等の新規立地の抑制、既存住宅の移転促進等のソフト対策を推進しようとするものです。

 この中で、土砂災害警戒区域(イエローゾーン)と土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)とに分かれます。


 
(1)土砂災害警戒区域(イエローゾーン)とは
 急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、住民等の生命又は身体に危害が生じるおそれがあると認められる区域であり、危険の周知、警戒避難体制の整備が行われます。

(2)土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)とは
 今回、四日市市の課税誤りの原因は、この土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の評価でした。
 急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、建築物に損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると求められる区域で、特定の開発行為に対する許可制、建築物の構造規制等が行われます。

固定資産税での評価対応

 以上のように土地が災害区域にある場合、固定資産税の土地評価において、市町村単位で減額修正(「所要の補正」)が行われています。

 なお、総務省からの通知(「令和3年度固定資産の評価替えに関する留意事項について」)でも「評価の均衡確保等」として「法規制等により利用制限等のある土地の評価」で土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)と急傾斜地崩壊危険区域が示されています。

急傾斜地崩壊危険区域の「所要の補正」

 最初に「急傾斜地法」の急傾斜地崩壊危険区域での評価についてです。

(1)適用団体数
 全国の地方団体数1,719団体のうち適用団体は187団体で約10.9%で適用されています。

(2)適用方法及び適用率
① 一律の補正率を乗じる方法
 対象画地の一部でも当区域に指定されていれば補正を適用する方法で、0.90を適用している団体が最も多く、次が0.95となっています。
② 面積割合に応じた補正率を乗じる方法
 「急傾斜地崩壊危険区域/総面積」の面積割合に応じて補正率を適用する方法で、がけ地補正率を準用する団体が多くなっています。

土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の「所要の補正」

 こちらは、四日市市での課税誤りがあった「土砂災害防止法」の土砂災害特別警戒区域(レッドッゾーン)での評価についてです。

(1)適用団体数
 全国の地方団体数1,719団体のうち適用団体は905団体で約52.6%で適用されています。
 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の適用が急傾斜地崩壊危険区域での適用より遙かに多いのが実態です。

(2)適用方法及び適用率
① 一律の補正率を乗じる方法
 対象画地の一部でもレッドゾーンに指定されていれば補正を適用する方法で、0.70を適用している団体が最も多く、次が0.80となっています。
② 面積割合に応じた補正率を乗じる方法
 「レッドゾーン内の面積/総面積」の面積割合に応じて補正率を適用する方法です。
 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)において宅地利用するには、防護壁や建物の構造による対策費が必要となり、通常はこの対策費用相当額が土地の減価と認識できます。

 ただし、対策工事を行わずレッドゾーン以外の残地のみを宅地利用する場合もあり、この場合は面積割合方法を採用しない場合もあります。

固定資産税評価の外部委託

 今回の四日市市の課税誤りについて、伊勢新聞では『原因は、土地評価業務の受託業者が使用する単価計算ツールの設定誤りのため、誤った単価データが納品されたことと、データのチェックが不十分だったため』と報じられています。

 つまり、四日市市は固定資産税(土地)評価を外部業者に委託しているのです。外部業者への委託は、土砂災害特別警戒区域の土地だけではなく、市内全域の土地のようです(電話で確認しました)。

 しかし、外部委託がされていても、四日市市の記者発表資料に『課税事務において、補正適用作業に誤りがあったこと、及び補正適用作業後のチェック体制が不十分であったことによるもの』とあるように、当然、固定資産税の課税誤りの責任は市町村にあります。

 正確な調査結果はありませんので伝聞情報ではありますが、最近では、1/3程度の市町村において、固定資産税評価を外部業者に委託されているようだと聞いています。

 およそ30~40年前頃から、市町村でも人員削減(業務の効率化?)が進められており、税務部門にもその波が押し寄せて、評価の外部委託を行っている市町村も増えているのです。
 
2023/08/28/20:00

 

(第97号)住宅用地の減額特例に関する浦和地裁判決(H4年2月)とその効果ー住宅用地の認定と国家賠償法の適用等

(投稿・令和5年8月)

 住宅用地の減額特例については、これまでも第5号、第20号、第32号で説明してきました。

 
 これまでの解説では、平成4年2月24日浦和(現さいたま)地方裁判所判決(以下「浦和地裁判決」)をきっかけに「住宅用地は申告が義務づけられているが、申告が無くても適用される」ことを説明してきました。

 実は、この浦和地裁判決では、「住宅用地の申告問題」とともに「国家賠償法が適用できるかどうか」も争点になっていたのでした。

 今回は、この浦和地裁判決の「住宅用地の申告問題」と「国家賠償法適用の可否」についてもみていきます。

住宅用地と申告の義務づけ

住宅用地とは何か(再掲)

 まず「住宅用地とは何か」について簡単に復習します。

<住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例>
※地方税法第349条の3の2
「専ら人の居住の用に供する家屋又はその一部を人の居住の用に供する家屋で政令で定めるものの敷地の用に供されている土地で政令で定めるもの(以下「住宅用地」という。)に対して課する固定資産税の課税標準は、第349条及び前条第11項の規定にかかわらず、当該住宅用地に係る固定資産税の課税標準となるべき価格の3分の1の額とする
2 住宅用地のうち、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める住宅用地に該当するもの(以下「小規模住宅用地」という。)に対して課する固定資産税の課税標準は、第349条、前条第11項及び前項の規定にかかわらず、当該小規模住宅用地に係る固定資産税の課税標準となるべき価格の6分の1の額とする。(中略)」

(1)戸建住宅用地の場合は200㎡までが1/6

 戸建住宅用地の場合は、200㎡までが1/6(小規模住宅用地)に減額され、それを超える面積分は1/3(一般住宅用地)となります。
 なお、一般住宅用地1/3は住宅面積の10倍が限度となります。


 

(2)アパートは部屋毎に1/6が適用

 アパートの住宅用地は部屋単位で200㎡が適用されます。
 したがって、下図のように1部屋(80㎡)で8部屋有る場合は8×200㎡=1600㎡までが小規模住宅用地(1/6)となり、この土地500㎡は全て小規模住宅用地となります。


 

(3)住宅と住宅以外の複合不動産の場合

 では、家屋が住宅と住宅以外(店舗・事務所等)の併用住宅の場合はどうなるかです。

 この場合は、家屋が「5階以上の耐火建築物である併用住宅」か「4階までの併用住宅」かによって、居住部分の割合に応じて住宅用地率が変わってきます。

 ここで留意すべき点ですが、下図右側のように2階建の家屋で「1階部分を店舗(事務所)、2階部分を居住用」として使用している場合です。

 このように2階を居住用としてしているケースは商店街でよくありますが、この場合には、土地の住宅用地として200㎡までは1/6、それ以上は1/3になります。
 しかし、1階の店舗(事務所)だけを見て、商業地(非住宅用地)として課税されている「課税誤り」もありますので、気をつける必要があります。


 

住宅用地は申告が義務づけられている

 それでは、住宅用地の申告が義務づけられている根拠ですが、これは地方税法(348条)では「申告させることができる」との『できる規定』なのですが、全国の市町村の条例では申告が義務として規定されています。

<住宅用地の申告>
地方税法第384条1項
「市町村長は、住宅用地の所有者に、当該市町村の条例の定めるところによつて、当該年度に係る賦課期日現在における当該住宅用地について、その所在及び面積、その上に存する家屋の床面積及び用途、その上に存する住居の数その他固定資産税の賦課徴収に関し必要な事項を申告させることができる。(後略)」

 次は、この地方税法第384条1項に基づいた市町村の条例です。

 住宅用地の申告規定は、全国の市町村税条例においてほぼ同じ内容ですが、ここでは、浦和地裁判決の対象となった埼玉県八潮市の市税条例を紹介します。

<条例による「住宅用地の申告」義務>
※八潮市市税条例第74条
「賦課期日において、住宅用地を所有する者は、当該年度の前年度に係る賦課期日から引き続き当該住宅用地を所有し、かつ、その申告すべき事項に異動がない場合を除き、当該年度の初日の属する年の1月31日までに、次の各号に掲げる事項を記載した申告書を市長に提出しなければならない
(1) 住宅用地の所有者の住所、氏名又は名称及び個人番号又は法人番号
(2) 住宅用地の所在及び地積
(3) 住宅用地の上に存する家屋の所在、所有者、家屋番号、種類、構造、用途、床面積、居住の用に供する部分の床面積及び居住の用に供した年月日並びにその上に存する住居の数
(4) その他市長が固定資産税の賦課徴収に関し、必要と認める事項」
※この内容は、ほぼ全国の市長村条例と同じです。

浦和地裁判決の内容

訴訟の要旨等

(1)訴訟の概要
①裁判所…浦和(現さいたま)地方裁判所
②裁判年月日…平成4年2月24日
③事件名…不当利得返還請求事件
④原告…八潮市の土地所有者複数名
⑤被告…八潮市(被告代表・八潮市長)
⑥判決…原告側の勝訴

(2)原告側の主張(一部抜粋)

「固定資産税については、元来、申告納税方式はとられておらず、賦課課税方式がとられているのであるから、減税特例に関し右のような運用を図ることは租税法規に違反するものであり、このことはその運用に当る市長としては容易に気付くはずのものである。」

「被告の市長が原告らに対してした固定資産税の賦課決定は少なくとも「納付税額」と「特例適用額」との差額に相当する「過払税額」に関する部分については重大かつ明白な瑕疵があるから無効である。また、被告の市長が右固定資産税の賦課決定をするについては、同市長に前記のような過失があり、そのために原告らが右当該各「過払税額」に相当する損害を被ったのであるから、被告は原告らに対しこれを賠償すべきである。」

(3)被告側の主張(一部抜粋)

「被告の市長が原告らに対してした固定資産税の賦課決定は、課税の金額を誤っただけであって、この誤りは、例えば、課税の対象物件が原告らの所有ではないのに課税をしたというような、課税要件の根幹にかかわる事由に関するものではない。また、市長が減税特例の適用をもらしてしまったことについては、原告らが市税条例で義務付けられている申告をしなかったことに一因がある。そうだとすれば、右賦課決定に存する瑕疵は重大かつ明白なものとはいえない。」

「被告の市長が減税特例の適用をもらしたのは、原告らが市税条例で義務付けられている所定事項の申告をしなかったからにほかならない。ほかに市長には原告らに対し固定資産税の賦課決定をするについて違法又は不当の目的はなく、付与された権限をその趣旨に背いて行使したこともない。したがって、市長が右固定資産税の賦課決定をしたことには違法性はないものというべきである。」

浦和地裁判決の要旨

 上記の原告、被告両者の主張を踏まえた、浦和地裁判決の要旨は次のとおりです。(一部抜粋)

「固定資産税の賦課決定は、市町村長の納税義務者に対する納税通知書の交付によってされるのであって(地方税法第364条)、納税義務者からの申告によるものではないのであり、同法第384条第1項本文が、市町村長は、住宅用地の所有者に対して、当該市長村の条例の定めるところに従い、土地の所在及び面積等、固定資産税の賦課に関し必要な事項を申告させることができるとしたのは、納税義務者に対して右申告義務を課することにより課税当局において減税特例の要件に該当する事実の把握を容易にしようとしただけのものであって、右申告がないからといって、減税特例を適用しないとすることが許されるものではないことは課税の当局者にとっては見易い道理である。」

「被告は、違法な租税の賦課処分は、専ら行政不服審査上の異議申立て又は審査請求、及びこれに続く取消訴訟の提起等によって是正されるべきであると主張するが、これは専ら租税の賦課処分の効力を争うものであるのに対して、租税の賦課処分が違法であることを理由とする国家賠償請求は租税の賦課処分の効力を問うのとは別に、違法な租税の賦課処分によって被った損害の回復を図ろうとするものであって、両者はその制度の趣旨・目的を異にし、租税の賦課処分に関することだからといって、その要件を具備する限り国家賠償請求が許されないと解すべき理由はない。」

※浦和地裁判決の原文は次のPDFをご覧ください。

 

本判決が与えた行政への影響

 この平成4年2月の浦和地裁判決が固定資産税行政へ与えた影響として、つぎの3点をあげることができます。

 (1)住宅用地は申告が義務づけられているが、申告がなくても減額特例は適用できること、(2)固定資産税の賦課決定に重大かつ明白な瑕疵(過失)があった場合は、国家賠償法の適用(20年間の返還)が可能であること、(3)多くの市町村で「過誤納金返還要綱」が策定されたこと

住宅用地は申告が無くても適用される

 住宅用地の減額特例は、固定資産税(土地、家屋)が賦課課税方式のため、条例による申告が無くても適用されます。

 本判決文の中には「賦課課税方式」との直接的な表現はありませんが、「固定資産税の賦課決定は納税通知書の交付によってされるもので、申告によるものではない」と、原告側主張(固定資産税は賦課課税方式)を容認しています。

 全国の市長村では、この判決がきっかけとなり「条例による申告が無くても住宅用地の減額特例を認める」となっている訳です。

固定資産税は最高20年間の返還が可能

 固定資産税の還付期間は、地方税法第18条の3により5年間とされています。

<還付金の消滅時効>
※地方税法第18条の3
「地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定による還付金に係る地方団体に対する請求権は、その請求をすることができる日から五年を経過したときは、時効により消滅する。」

 しかし、国家賠償法では「故意又は過失」があった場合、民法724条を適用して20年間の還付(返還)が可能となります。

<国家賠償法の内容(一部)>
※国家賠償法第1条
「① 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。」
※国家賠償法第4条
「国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法の規定による。」

<民法-不法行為による損害賠償請求権の消滅時効>
※民法第724条
「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
二 不法行為の時から20年間行使しないとき。」

 上記のとおり、固定資産税の還付(返還)は、原則として地方税法により5年間の還付ですが、行政側に「故意又は過失」があった場合には国家賠償法により20年間の還付(返還)が可能となります。

 この「過失」(行政の「故意」は無いでしょうから)とは具体的にどのような場合なのかということですが、学者によると「手抜き」があったときと説明されています

市町村で「過誤納金返還要綱」が策定

 現在、全国の多く(約7割)の市町村で「過誤納金返還要綱」(市町村により名称が異なり、以下「要綱」とします)が定められています。
(※「要綱」とは、市町村議会の議論・議決を経ずに行政のみで定めているもので「法的拘束性」は弱いものです。)

 この「要綱」では、固定資産税の課税において「過失」があった場合には、地方税法による還付5年ではなく、10年又は20年の還付(返還)が可能とされています。従って、市町村側に「過失」(「手抜き」)があったと認めた場合には、この「要綱」に基づいて5年を超える返還もされています。

 実は、この「要綱」は平成4年2月の浦和地裁判決を受けて定められたものなのです。

 しかし、この「要綱」では、10年を超える場合には「納税済みの領収書が必要」などとされ、問題が無いとも言えません。

 なお、この「要綱」については、(27号)固定資産税の課税誤り(過誤納金)の返還期間-地方税法及び「過誤納金返還要綱」で説明していますので、そちらをご覧ください。

 
2023/08/21/11:00