(第134号)「特定空家」指定による住宅用地の解除について(更新版)

(更新版・令和7年7月)

「空家法」による「特定空家」

 平成27年5月に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」(「空家法)により「特定空家」として勧告を受けると住宅用地の減額特例の適用除外となりました。

<「特定空家」の定義>-「空家法」第2条2項
「2. この法律において「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。」

 ここで「特定空家」とは、次のように周辺への影響が大きい状態にある空家を指します。

① そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
② そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
③ 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
④ その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

「管理不全空き家」としての指導・勧告

 また「空家法」では、「空き家」を放置すれば「特定空家」になる可能性がある物件を新たに『管理不全空き家』に指定され、管理指針に則した措置が「指導」されます。
 そして、この「指導」をしてもなお状態が改善しない場合には「勧告」が可能となります。

<「管理不全空家」の定義>「空家法」第13条
「1. 市町村長は、空家等が適切な管理が行われていないことによりそのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態にあると認めるときは、当該状態にあると認められる空家等(以下「管理不全空家等」という。)の所有者等に対し、基本指針(第六条第二項第三号に掲げる事項に係る部分に限る。)に即し、当該管理不全空家等が特定空家等に該当することとなることを防止するために必要な措置をとるよう指導をすることができる。
2. 市町村長は、前項の規定による指導をした場合において、なお当該管理不全空家等の状態が改善されず、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれが大きいと認めるときは、当該指導をした者に対し、修繕、立木竹の伐採その他の当該管理不全空家等が特定空家等に該当することとなることを防止するために必要な具体的な措置について勧告することができる。」

 ここまでくると「特定空家」の指定同様、固定資産税の住宅用地の減額特例が解除されることになります。

「特定空家」指定で住宅用地除外

 これに併せて、地方税法349条の3の2が改正され、固定資産税の住宅用地の特例から除外することとされました

<「住宅用地の課税標準特例」から除外>-地方税法第349条の3の2
「1. (中楽)空家等対策の推進に関する特別措置法第13条第2項の規定により所有者等に対し勧告がされた同法第13条第1項に規定する管理不全空家等及び同法第22条第2項の規定により所有者等に対し勧告がされた同法第2条第2項に規定する特定空家等の敷地の用に供されている土地を除く。(中略)」

「空家」を取り壊すと土地は3~4倍となる

 「空家法」により「特定空家」に指定されるか、「管理不全空き家」として指導・勧告されると住宅用地の減額特例1/6が解除されます。

 ところで、一時マスコミ等で「『空家』が取り壊されると、1/6の減額特例が無くなるため土地の固定資産税は6倍となる」との報道がされていましたが、6倍にはなりません。

 それは、住宅用地から更地(非住宅用地)になった場合、非住宅用地の負担調整措置が適用されるからで、「空家」を取り壊すと土地の価格は3~4倍になるというのが正解なのです。

<住宅用地から非住宅用地へ>

 この図にあるとおり、住宅用地での固定資産税評価額は次のとおりです。

   固定資産税   都市計画税
  200,000円×1.4%+400,000円×0.3%=4,000円

 これに対して住宅を取り壊した場合には更地(非住宅用地)になりますので、固定資産税評価額は次のとおりになります。

 非住宅用地の据置ゾーンの下限(60%)を採用します。

 (固定資産税+都市計画税)
    720,000円     × 1.7% = 12,200円
   更地    宅地
  12,200円  ÷  4,000円  =  3.05倍
 この例では3.05倍で6倍であはありません。
 
2025/07/16/17:00
 

 

(第133号)土地の負担調整措置と住宅用地について(更新版)

(更新版・令和7年7月)

負担調整措置で土地評価が複雑

土地の負担調整措置とは

 土地の時価(実勢価格)と固定資産税評価額は時代の経済変化によって、大きく変わってきました。

 昭和の初期頃には、固定資産評価額は時価の7割程度でしたが、昭和末期のバブル最盛期には10~20%程度へと低下していました。

 そこで、上記のとおり、平成元年に土地基本法が制定され、「公的土地評価の適正化」が図られ、固定資産税路線価を地価公示価格の7割とされました。

 しかし、一挙に10~20%程度から7割に引き上げる訳にはいかないため、徐々に引き上げる方法としました。

 土地の固定資産税・都市計画税(以下「固定資産税」)は、本来は価格に税率(一般的には固定資産税1.4%、都市計画税0.3%)を乗じて求めるのですが、現状はそのようにはなってはいません。

 土地(宅地)の固定資産税は、価格(本則課税標準額)に対する前年度課税標準額の割合(負担水準)に応じて、その年度の税額が決まる仕組み(負担調整措置)になっています。

 この負担調整措置の仕組みにより、土地の評価が分かりづらくなっているのです。

土地の負担調整措置の仕組み(非住宅用地の場合)

 非住宅用地(商業地等)の例としては、業務用家屋(店舗、事務所、工場、倉庫、旅館等)の敷地、外部貸駐車場(月極駐車場、コインパーキング、カーシェアリングやシェアサイクルの用地など)、資材置場、空地(=更地)、住宅建築中の土地等があげられます。

<商業地等とは>-地方税法附則第17条4項
「商業地等 宅地等のうち住宅用地以外の宅地及び宅地比準土地(宅地以外の土地で当該土地に対して課する当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき価格が、当該土地とその状況が類似する宅地の固定資産税の課税標準とされる価格に比準する価格により決定されたもの)を言う。」

 平成6年度に地価公示価格の7割を固定資産税の価格とすることにしたものの、それまでは実質的に10%〜20%程度であったものを一気に上げることが出来ないことから、少しずつ上げていくという経過的措置(負担調整措置)が採用されました。

<負担調整措置の仕組み(非住宅用地)>

 
① 本則課税標準額=地価公示価格の70%
 まず、平成6年度から、固定資産税の価格は地価公示価格の70%とされましたので、この70%レベルを固定資産税の本則課税標準額100%=価格となります。

② 「引き下げゾーン」=本則課税標準額70%まで引き下げ
 しかし、これでは以前との乖離が大きいため、平成9年度から、更にその固定資産税価格の70%まで「引き下げゾーン」とされました。

 つまり、非住宅用途の固定資産税評価額価格の上限は、地価公示価格レベルからすると70%×70%=49%となります。

③ 「据置きゾーン」=60%~70%
 実は、バブルの時代は商業地の地価がかなり上がっていたことから、「据置きゾーン(60%~70%」が設定されています。つまり、前課税年度にこのレベルにあった非住宅用地は据え置かれることになっているのです。

 この「据置きゾーン」は、現在まで継続されています。

非住宅用地の負担調整措置の計算方法

 負担調整措置により、その年の課税標準額(今年度課税標準額)を求めるには、前年度の課税標準額(B)が本則課税標準額(A)のどこまで達しているかの負担水準(B/A)を求め、この負担水準によって調整します。

<非住宅用地の負担調整措置>

 
① 負担水準が20%未満の場合
 この場合は、価格(A)の20%となります。

② 負担水準が60%未満の場合
 この場合の今年度の課税標準額を求めるには、前年度課税標準額(B)にAの5%を加算します。

③ 負担水準が60%を超える場合
 負担水準が60%~70%の場合は前年度課税標準額(B)のままとし、70%を超える場合は70%まで引下げます。

住宅用地の負担調整措置と減額特例

住宅用地とはどのようなものか

 住宅用地とは、居住のための建物が存在し、居住の目的を果たすために使用されている一画地の土地を言います。

① 住宅用地の減額特例
 住宅用地のうち200㎡以下は「小規模住宅用地」と言い、固定資産税の本則課税標準額が1/6になります。

 また、面積が200㎡を超える部分は一般住宅用地と言い、本則課税標準額は1/3になります。

 例えば、300㎡の土地に居住用の家屋(戸建住宅)が建っている場合は、200㎡までが小規模住宅用地の1/6、残りの100㎡が一般住宅用地の1/3となります。
 なお、一般住宅用地1/3の上限は家屋床面積の10倍までとされており、この図の例では上限が1500㎡となります。

<戸建住宅の住宅用地>

 
② アパートは部屋ごとに適用
 住宅用地の特例は、アパートの場合は部屋ごとに特例率が適用されます。
 それは、1棟の家屋内に世帯が独立して生活を営む部分が2以上の場合は、区画された部分がそれぞれ住居となるからです。

 例えば、500㎡の土地に8戸(60㎡/戸)の2階建てアパートがあるとします。この場合は、1戸ごとに200㎡相当が1/6になりますので、8戸×200㎡=1,600㎡までが1/6になり、土地500㎡すべてが1/6になります。

<アパートの住宅用地>

 
 この仕組みによれば、仮に自宅以外の土地を所有している場合、そこをアパート敷地にすることにより、土地の固定資産税の減価額が大きくなります。

③ 住宅・非住宅混合の併用住宅の特例
 併用住宅とは、居住用部分と居住用でない部分が併用されている家屋ですが、居住用部分以外については、店舗、事務所、工場等その種類は問題とはなりません。ただし、併用住宅の場合は、居住部分の面積が一定の割合以上なければ特例は認められません。
 また、その家屋が「5階以上の耐火建築物」であるか「それ以外の併用住宅」かによって異なります。

<併用住宅の住宅用地>

 

小規模住宅用地の負担調整措置の仕組み

<小規模住宅用地の負担調整措置>

 
 小規模住宅用地の場合は、本則課税標準額(固定資産税の価格)が地価公示価格の70%からさらに1/6とされています.
 この1/6にされた価格が負担調整措置の本則課税標準額(A)となります。

① 負担水準(B/A)が20%未満の場合
 今年度課税標準額 = 本則課税標準額(A)×20%

② 負担水準(B/A)が100%未満の場合
 今年度課税標準額 = 前年度課税標準額(B)+(本則課税標準額(A)×5%)

③ 負担水準(B/A)が100%を越える場合
 本則課税標準額(A)に引き下げ

住宅用地は申告が無くても適用される

① 市町村毎の条例で申告が義務化
 ところで、住宅用地は、役所が把握しきれないことから、土地所有者に住宅用地かどうかを申告させることができるとされています。

<住宅用地の申告>-地方税法384条1項
「市町村長は、住宅用地の所有者に、当該市町村の条例の定めるところによつて、当該年度に係る賦課期日現在における当該住宅用地について、その所在及び面積、その上に存する家屋の床面積及び用途、その上に存する住居の数その他固定資産税の賦課徴収に関し必要な事項を申告させることができる。」

 この地方税法の規定を受けて、ほとんどの市町村では条例により申告を義務づけています。

② 申告が無くても適用される(浦和地裁判決)
 ところが、住宅用地については、全国の市長村条例で申告が義務づけられていますが、平成4年2月24日の浦和(現さいたま)地裁により、「申告が無くても適用すべき」との判決が示されました。

<浦和地裁の判決(一部)>-平成4年2月24日
「固定資産税の賦課決定は、市町村長の納税義務者に対する納税通知書の交付によってされるのであって(地方税法第364条)、納税義務者からの申告によるものではないのであり、同法第384条第1項本文が、市町村長は、住宅用地の所有者に対して、当該市長村の条例の定めるところに従い、土地の所在及び面積等、固定資産税の賦課に関し必要な事項を申告させることができるとしたのは、納税義務者に対して右申告義務を課することにより課税当局において減税特例の要件に該当する事実の把握を容易にしようとしただけのものであって、右申告がないからといって、減税特例を適用しないとすることが許されるものではないことは課税の当局者にとっては見易い道理である。」
 
2025/07/16/09:00
 

 

(第132号)公的土地評価(一物四価)の均衡化について(更新版)

(更新版・令和7年7月)
 今回は「公的土地評価(一物四価)の均衡化について」です。

「一物四価」とは何か

 「一物四価」とは、土地を評価又は価値を指標化する際の4つの価格(評価価値)のことで、①時価(実勢価格)、②地価公示価格、③相続税評価額(路線価)、④固定資産税評価額(路線価)を指します。

(1)時価(実勢価格)

 時価(実勢価格)は、実際に売買する場合の土地の価格です。
 過去に売買が成立した際の価格や、近隣の土地の取引価格を参考にして決められてくるのが一般的です。

(2)地価公示価格

 地価公示価格は、毎年1月1日の価格を3月下旬頃に国土交通省により公表される土地の価格で、一般の土地取引価格の指標ともなっています。
 この価格は、地域における標準地の更地1㎡当りの正常な価格を不動産鑑定士による鑑定評価で評価されます。

(3)相続税評価額(路線価)

 相続税評価額は、土地の相続税や贈与税を計算する際の基準となる価格で、その年の1月1日時点での価格が毎年7月中旬頃に国税庁により公表されています。
相続税の路線価は、道路に面する宅地1㎡あたりの価格を基準に算出され、地価公示価格の80%の割合を目安に設定されています。
 なお、相続税路線価が設定されていない地域では、固定資産税評価額に、国税庁が公表している倍率表に基づいた倍率を掛けて評価額を計算することになります。

(4)固定資産税評価額(路線価)

 固定資産税評価額は、固定資産税のみならず都市計画税、不動産取得税、登録免許税などを計算する際に基準となっています。

 固定資産税路線価は、各市町村が3年に一度、3月末までに前年の1月1日を基準にした価格の見直しの結果公表されています。

「一物四価」の均衡化

 この「一物四価」の価格はそれぞれ異なるのですが、一定のバランスが必要であることから、平成元年に土地基本法が制定され、第17条に「公的土地評価の適正化」規定があります。

<公的土地評価の適正化等>-地基本法第17条
「国は、適正な地価の形成及び課税の適正化に資するため、土地の正常な価格を公示するとともに、公的土地評価について相互の均衡と適正化が図られるように努めるものとする。」

固定資産税価格は地価公示価格の7割

 この「公的土地評価について相互の均衡と適正化」を図るため、次の内容が定められました。
(1)地価公示価格(含む地価調査価格)を実勢価格を表示するように努めること。

(2)相続税路線価を地価公示価格の8割とすること。(平成4年度から実施)

(3)固定資産税路線価を地価公示価格の7割とすること。(平成6年度から実施)

<一物四価の均衡化・適正化>

 
2025/07/15/17:00
 

 

(第131号)固定資産税の「減免」・「課税免除及び不均一課税」・「免税点」(更新版)

(更新版・令和7年7月)

固定資産税の「減免」とは

 「非課税」は市町村がそもそも「課税することが法律で禁止されている」制度でしたが、では、「減免」はどのような制度なのでしょうか。

 「減免」は、市町村で課税権が行使された後に、納税者の申請に基づき、担税力が薄弱なこと(納税資力が充分でない)等の理由により、税額の全部又は一部が免除される制度です。

 この減免規定の趣旨は、徴収猶予や納期限の延長等によっても納税が困難であると認められるような担税力が薄弱な者等に対する救済措置として設けられています。

<固定資産税の減免>-地方税法第367条
「市町村長は、天災その他特別の事情がある場合において固定資産税の減免を必要とすると認める者、貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者その他特別の事情がある者に限り、当該市町村の条例の定めるところにより、固定資産税を減免することができる。」

 固定資産税の「減免」は、各市町村の条例により定められていますが、概ね次の3つの形態に基づき定められているのが一般的です。

①天災その他特別の事情がある場合において減免を必要と認める者
 震災、風水害、火災その他これらの災害があり、納税義務者がその財産について甚大な被害を被った場合など。

②貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者
 生活保護の規定による保護等の公的扶助を受けている者、又は公的扶助に準じて考えられるような扶助を受けている者など。

③その他特別の事情がある者(公益上の事由も含む)
 ①②の事由以外の事由で、客観的にみて担税力を喪失した者、公益上の必要があると認められる者など。

 「減免」内容は各市町村の条例で規定されていますので、若干条例内容が異なりますが、上記①~③の基本的事項は適用されています。

固定資産税の「課税免除及び不均一課税」

「課税免除及び不均一課税」とは

 地方税法には、「非課税」「減免」のほかに「課税免除及び不均一課税」という制度があります。

 「課税免除及び不均一課税」は、政策目的や税負担の均衡等の「公益性」に着目した上で、「課税免除」は市町村(条例)による非課税とも言うべきもので、「不均一課税」は一般の税率と異なる適用をすることです。

<公益等に因る課税免除及び不均一課税>-地方税法第6条
「1 地方団体は、公益上その他の事由に因り課税を不適当とする場合においては、課税をしないことができる。
2 地方団体は、公益上その他の事由に因り必要がある場合においては、不均一の課税をすることができる。」

 この第1項の「課税免除」は「減免」と似ていますが、「減免」は一旦賦課決定されたものに対してですが、「課税免除」は市町村の条例・議会の議決により単独で判断・決定されます。また、第2項の「不均一課税」は、政策目的や税負担の均衡等の「公益性」に着目したものです。

「課税免除及び不均一課税」の適用例

 では「課税免除」が適用されている例ですが、「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」や「地域未来投資促進法」に基づき適用している市町村があります。

 また「不均一課税」では、「国際観光ホテル整備法」や(県税による)「半島振興法における固定資産税の不均一課税」などがあります。

固定資産税の免税点

 同一の人が所有するすべての土地の課税標準額、家屋の課税標準額、償却資産の標準額の合計額がそれぞれ次の値に満たない場合は、固定資産税は課税されません。

<固定資産税の免税点>-地方税法第351条
「市町村は、同一の者について当該市町村の区域内におけるその者の所有に係る土地、家屋又は償却資産に対して課する固定資産税の課税標準となるべき額が土地にあつては30万円、家屋にあつては20万円、償却資産にあつては150万円に満たない場合においては、固定資産税を課することができない。ただし、財政上その他特別の必要がある場合においては、当該市町村の条例の定めるところによつて、その額がそれぞれ30万円、20万円又は150万円に満たないときであつても、固定資産税を課することができる。」

<固定資産税の免税点>

 
2025/07/15/09:00
 

 

(第130号)固定資産税が非課税となる具体例(更新版)

(更新版・令和7年7月)

私道は「公共の用に供する場合」

「公共の用に供する道路」とは

 道路は通常、国道、県道、市町村道等のいわゆる公道ですので、固定資産税で は公道は「人的非課税」になっています。

 しかし、私道は個人の方の所有土地ですので、一般的には固定資産税の課税対象になります。

 ところが、その私道が「公共の用に供する道路」であれば、非課税になります。

<固定資産税の私道が非課税>-地方税法第348条2項5号
「 2項 固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。
 ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合には、当該固定資産の所有者に課することができる。
5号 公共の用に供する道路、運河用地及び水道用地」

私道が非課税になる例

 「公共の用に供する道路」の要件を満たす私道は、(ア)所有者において何らの制約も設けず(開放性),(イ)広く不特定多数人の利用に供されいる(公共性)、(ウ)道路法による道路でなくても,それに準ずる土地であって,何らの制約なく一般公衆の利用に供されている(準道路性)ことが必要です。

 具体的には、①「通り抜け私道」②「行止り私道」③「コの字型私道」④セットバック部分の私道になります。

<私道の種類>

 
①「通り抜け私道」
 「通り抜け私道」は、起終点が公道に接していること、幅員が1.8m以上であること、不特定多数の人に利用されていることが必要です。

②「行止り私道」
 「行止り私道」は、2軒以上の家屋に利用されていること、幅員が4m以上であること、利用制限されずに不特定多数の人に利用されていることの要件が必要となります。

③「コの字型私道」
 「コの字型私道」も(2)の「行止り私道」と同じく、2軒以上の家屋に利用されていること、 幅員が4m以上であること、利用制限されずに不特定多数の人に利用されていることの要件が必要となります。

④「セットバック部分」
 幅員4mに満たない公道に面している土地の「セットバック部分」で、一体となって道路の効用を果たしているものです。公道と一体となって道路として使われていない場合は非課税とはなりません。
 なお、「セットバック部分」の道路部分が分筆されていれば問題ありませんが、分筆されてない場合でも、地積測量図などの資料を添えて申請すれば、「公共の用に供する道路」として非課税を認めてもらえます。

「老人福祉施設」が非課税となる

社会福祉法人と「老人福祉施設」の非課税

 「老人福祉施設」の非課税については、地方税法第348条2項10の5に規定されています。

<固定資産税の老人福祉施設>-地方税法348条2項10の5
「2項 固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合には、当該固定資産の所有者に課することができる。
10の5 社会福祉法人その他政令で定める者が老人福祉法第5条の3に規定する老人福祉施設の用に供する固定資産で政令で定めるもの」

 ここでは、所有者が「社会福祉法人その他政令で定める者」で、固定資産が「固定資産で政令で定めるもの」とされ、「者」と「もの」それぞれの政令を確認する必要があります。

 地方税法施行令第49条の13では、1項で(運営する「者」(運営主体)で、2項で固定資産が非課税となる「もの」(固定資産)が規定されています。

① 運営主体
ア. 社会福祉法人
イ. 社会福祉法人とみなされる農業協同組合連合会
ウ. 公益社団法人、公益財団法人、農業協同組合、消費生活協同組合、健康保険組合、国民年金基金、商工組合、医療法人等
エ. 老人介護支援センターの届出をした者

② 非課税となる固定資産
a. アが経営する養護老人ホーム
b. ア、イが経営する特別養護老人ホーム
c .ア、イ、ウが経営する老人デイサービスセンター、老人短期入所施設軽費老人ホーム、老人福祉センター
d. ア、イ、ウ、エが経営する老人介護支援センター
なお、株式会社が経営する「老人福祉施設」は非課税にはなりません。

「老人福祉施設」に土地を貸している場合

 固定資産税が非課税になるのは、運営法人等が固定資産を所有している場合に限りません。土地所有者が、運営法人等の利用の用に供するために土地を無償で貸している場合、その土地も非課税になります。

 ただし、その運営法人に有償で土地を貸している場合は、その土地は固定資産税が課税されます。
 また、固定資産がその目的以外に使用される場合は、固定資産税は非課税となりません。

<固定資産税の課税規定>-地方税法348条3項
「 市町村は、前項各号に掲げる固定資産を当該各号に掲げる目的以外の目的に使用する場合においては、前項の規定にかかわらず、これらの固定資産に対し、固定資産税を課する。」

「宗教法人」の施設が非課税

「宗教法人」の境内建物、境内地が非課税

 「宗教法人」の境内建物及び境内地は非課税となります。

<宗教法人の境内建物及び境内地の非課税>-地方税法348条2項3
「2項 固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合には、当該固定資産の所有者に課することができる。(中略)
3.宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地(旧宗教法人令の規定による宗教法人のこれに相当する建物、工作物及び土地を含む。)」

境内建物及び境内地とは

 境内建物と境内地の定義は宗教法人法3条に規定があります。

① 境内建物
<境内建物の定義>-宗教法人法3条1号
「本殿、拝殿、本堂、会堂、僧堂、僧院、信者修行所、社務所、庫裏、教職舎、宗務庁、教務院、教団事務所その他宗教法人の前条に規定する目的のために供される建物及び工作物」

② 境内地
<境内地の定義>-宗教法人法3条2~7号
「2.前号に掲げる建物又は工作物が存する一画の土地
3.参道として用いられる土地
4.宗教上の儀式行事を行うために用いられる土地
5.庭園、山林その他尊厳又は風致を保持するために用いられる土地
6.歴史、古記等によつて密接な縁故がある土地
7.前各号の建物、工作物又は土地の災害を防止するために用いられる土地」

「納骨堂」は課税される

 最近では、核家族化や埋葬に対する価値観の多様化によって、「先祖代々の墓」という従来の概念にとらわれることなく、自分のライフスタイルに合ったお墓を求める人が増えてきました。

 近年、じわじわと浸透してきた散骨や樹木葬に続き、「新たなお墓の形」として注目を集めているのが「納骨堂」です。

 「納骨堂」は運営母体によって、寺院が運営する「寺院納骨堂」、自治体が運営する「公営納骨堂」、宗教法人等が運営する「民営納骨堂」の3種類に分けられます。
 なお、「納骨堂」を経営するためには、都道府県知事の許可を受ける必要があります。

「納骨堂」とは

 「納骨堂」とは。「墓地、埋葬等に関する法律」に規定があります。

<「納骨堂」とは>-「墓地、埋葬等に関する法律」第2条6号
「 納骨堂とは、他人の委託を受けて焼骨を収蔵するために、納骨堂として都道府県知事の許可を受けた施設をいう。」

<「納骨堂」の許可>-「墓地、埋葬等に関する法律」第10条1項
「 納骨堂を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。」

 そこで、問題は「納骨堂」が地方税法348条2項3号の「境内建物及び境内地」に該当するかどうかということになります。

<固定資産税の非課税の範囲>-地方税法第348条2項3号
「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地(旧宗教法人令の規定による宗教法人のこれに相当する建物、工作物及び土地を含む。)」

東京地裁での判決

 東京都が「納骨堂」に対して課税処分した件で、原告(A宗を宗派とする宗教法人)が提訴した、平成28年5月24日に東京地裁判決において、この「納骨堂」に関係する判決が出されています。

① 訴訟事案の内容
 この訴訟は、原告・宗教法人が「納骨堂」として使用している土地及び建物に対して、被告・東京都が「寺務所、本堂、庫裏等は非課税とした」が、「参拝堂、納骨堂、客殿等の建物部分及びこれに対応する土地面積相当分については固定資産税を課税する」との賦課決定処分をした、という内容です。

 つまり、「納骨堂」の固定資産税が非課税となる「境内建物及び境内地」に当たるかどうかが争われたものです。

② 東京地方裁判所の判断
<境内建物及び境内地について(一部)>
「地方税法348条2項3号に規定する「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」とは,次のことを言う。
 ① 当該宗教法人にとって,宗教の教義をひろめ,儀式行事を行い,信者を教化育成するという主たる目的のために必要な,本来的に欠くことのできない建物,工作物及び土地で,同条各号に列挙されたようなものであり、かつ
 ② 当該宗教法人が,当該境内建物及び境内地を,専ら,宗教団体としての主たる目的を実現するために使用している状態にあるものをいうと解すべきであり,当該要件該当性の判断は,当該建物及び土地の実際の使用状況について,一般の社会通念に基づいて外形的,客観的にこれを行うべきである。」

 そして東京地裁は、本件での「納骨堂」は「宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地には該当しない」と判断しました。

<東京地裁判決(一部)>- 平成28年5月24日
「(本件非課税対象外部分)の使用状況を,一般の社会通念に基づいて外形的,客観的にみると,原告は,本件非課税対象外部分につき,A宗の教義をひろめ,儀式行事を行い,信者を教化育成するという主たる目的のために使用していないとはいえないが,当該目的のために必要な,本来的に欠くことのできない建物の一部であると評価することにはやや困難がある。
 また,仮にそのような評価が可能であるとしても,本件「納骨堂」の使用者については宗旨宗派を問わないとされているのみならず,本件建物においては,原告以外の宗旨宗派の僧侶等が主宰する法要などの儀式行事が行われることが許容され,その場合,使用者は原告に対して施設使用料を支払うこととされ,実際にも,それが例外的とはいえない割合で行われており,原告は,上記のような使用者を訴外会社を通じて広く募集していることに照らすと,原告が,上記の各部分(本件非課税対象外部分)を,専ら宗教団体としての主たる目的を実現するために使用している状態にあるとは認められないといわざるを得ない。」

 本件の対象となっている「納骨堂」は今後も増加することが予想されますが、現在、東京都だけでなく全国の市長村でも、宗教法人の家屋であっても、「納骨堂」部分は課税対象とされ、土地は家屋内部の課税部分と非課税部分に面積按分のうえ課税されています。

 ところで、「納骨堂」が「専ら宗教団体としての主たる目的を実現するために使用している状態」にあれば非課税となり得ます。

 しかし最近では、本件同様「某宗を宗派とする宗教団体の建物において他の宗旨宗派の僧侶等が主宰する法要等にも使っている納骨堂事業」が多く、課税されている場合が多いのです。
 
2025/07/14/16:00