(投稿・令和7年6月)
今回は、非木造家屋の構造が複合構造(鉄骨鉄筋コンクリート造「SRC造」、鉄筋コンクリート造「RC造」、鉄骨造「S造」)になっている場合の経年減点補正率をいかに評価するかです。
経年減点補正率とは
まず経年減点補正率とは、 家屋を通常の維持管理を行うものと した場合において、その年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎と して定められた補正率です。
家屋の評価額は、主に「再建築評点数×経年減点補正率」ですが、その補正率です。
<家屋の固定資産税評価>
木造家屋の経年減点補正率
木造家屋では構造別がありませんので、経年減点補正率は用途別区分及び延べ床面積1. 0㎡当たり再建築費評点数の区分により、初年度0.80 、2年度0.75 、3年度0.70、4年度以降は経年減点補正率の最低限度(「最終残価率(20%)」) に達するまでの期間に応じて定額法を基本として求められています。
ここに木造家屋の経年減点補正率基準表の例を掲げます。
<木造家屋—1. 専用住宅、共同住宅、寄宿舎及び併用住宅用建物>
非木造家屋の経年減点補正率
これに対して、非木造家屋にあっては、 用途別区分だけではなく構造別区分により、最終残価率に達するまでの期間に応じて定額法を基本として求められます。
ここに用途別区分の事務所、銀行用建物の経年減点補正率基準表を掲げますが、「SRC造」、{RC造}、「S造」の構造別に区分されています。
<非木造家屋—1. 事務所、銀行用建物及び2~8以外の建物>
複合構造家屋の経年減点補正率
非木造の複合構造家屋とは、一棟の建物で複数の異なった構造を有する家屋ですが、固定資産評価基準ではその評価方法は定められていません。
では、複合構造家屋の場合の経年減点補正率はどう評価するのかです。
これまで、一般財団法人資産評価システム研究センタ-により、次の方法が示されています。(平成26年3月「家屋に関する調査研究」から抜粋)
1. 複合構造家屋の経年減点補正率は、 原則として、 最も大きな床面積を占める主たる構造により、一棟単位で適用するが、当該市町村内の家屋の評価、課税の均衡上問題があると市町村長が認めるときには、構造種別の異なる部分ごとに適用することができることとする。
2. 家屋の構造種別は、 主に柱に着目し判断する。
3. 構造種別の異なる柱の接合部が階の途中にある場合、当該柱のうち最も多い割合を占める構造種別を当該柱の構造とする。
4. 同一の階の中で、複数の構造種別の柱が混在している場合において、主たる構造が直ちに判断できない場合にのみ、隣接する柱を2等分する線で囲まれた床面積を、当該柱の構造の床面積として判断する。
5. 階高が著しく異なる等、床面積によ り主たる構造を判断することが不合理であると考えられる場合に、柱で最も多く使用されている部材の構造種別により経年減点補正率を適用すべきという考え方に基づいた他の手法による結果を考慮して判断することも、 否定されるものではない。
6. 経年減点補正率の適用単位にっいては、以 下の要件を総合的に考慮し、判断する。
(1)外気遮断性の有無 (外観上の一体性)
(2)構造上一体か否か(構造上の一体性)
(3)利用実態が一体か否か(用途上の一体性)
最高裁(令和2年2月27日)判決
この最高裁判決は、原判決(高裁判決)3件に対するものですが、いずれも同様な内容で、大まかな内容として「家屋が複数構造の場合は一棟単位を対象とし、かつ低階層の構造を主として適用する」というものです。
これは、前記の「家屋評価に関する調査研究」(平成26年版)の内容とほぼ同じになっています。
ここで、最高裁の裁判官4人のうち3人の多数意見の理由をまとめると、次のようになります。(「資産評価情報(令和7年5月号)」から抜粋)
1. 経年減点補正率の所定経過年数は、物理的要因により定まる耐用年数を基礎として、機能的要因や経済的要因により定まる。
2. 耐用年数の判断は、家屋の取壊しを行うか否かにより一棟単位でなされる。
3. 家屋に作用する荷重や外力が最終的には低層階を構成する構造によって負担されることになる。
4. 本件家屋については、低層階を構成する構造のうち耐用年数が最も長いものの耐用年数が経過しない限り、それ以外の構造の部分の補修等によって建物としての効用の維持を図ることができるものと考えられる。
5. 取壊しに係る判断が、低層階を構成する構造のうち最も耐用年数が長いものに着目してされるものとみることも不合理ではない。
筆者の意見
これまでの「複合構造家屋の経年減点補正率」と「最高裁(令和2年2月27日)判決」について、どうなのでしょうか。
前記最高裁における複合構造家屋では、S造割合が80%~90%もあるのですが、低階層部分はSRC造又はRC造で堅固な構造になっているのです。
そのため、一棟全体を低階層部分の耐用年数が長い構造で経年減点補正率を評価しているのです。
そうしますと、家屋一棟の減点補正率が少なくなり、家屋評価額(固定資産税価格)が高くなるのです。
これを構造ごとに区分し、各構造部分について異なる補正率をかけて評価すると評価額は低くなりますが、行政の実務的負担が大きくなりますので、最高裁判決においてもこの点が考慮されているのです。
しかし、「行政の実務上の都合から家屋評価が高くなる」のは、納税者からすると納得できないものです。
最高裁の少数(反対)意見でも、「コンピュータによる数理計算が普及した現代においてこの実務上の理由にいかほどの説得力があるのか疑問なしとしない」とも述べています。
ところで、現在では、新築家屋に関して低階層方式を採用している市町村は多くないようです。これは、市町村毎に固定資産税評価要領で定められているからです。
更に言わせていただくと、やはり、家屋評価の「再建築価格方式」という複雑な評価方法を見直す必要もあるのではないでしょうか。
2025/06/04/15:00