先日、ブログを読まれた方から、次のような電話をいただきました。

「事業を廃止し、住まいの土地が小規模住宅用地になったにもかかわらず、減額特例が適用されなかったので、市役所と交渉し固定資産税を返還してもらった。」
「しかし、返還されたのは5年間分だけで、申告しなかったので3割相殺はやむを得ないとしても、5年を越えて返してもらえるのではないか。」

 そこで今回は、住宅用地の減額特例の要件に該当するにもかかわらず、減額が見落とされ納税した「過払税額」は何年間遡って返還されるか(されるべきか)について、改めて考えてみたいと思います。

 (「住宅用地の減額特例」の解説については、過去のブログをご覧ください。)

◆住宅用地は申告が義務づけられている

 住宅用地については、地方税法により、市町村の条例により申告を義務づけることが認められています。

地方税法384条(固定資産の申告)

「市町村長は、住宅用地の所有者に、当該市町村の条例の定めるところによつて、当該年度に係る賦課期日現在における当該住宅用地について、その所在及び面積、その上に存する家屋の床面積及び用途、その上に存する住居の数その他固定資産税の賦課徴収に関し必要な事項を申告させることができる。ただし、当該年度の前年度に係る賦課期日における当該住宅用地の所有者が引き続き当該住宅用地を所有し、かつ、その申告すべき事項に異動がない場合は、この限りでない。」

 そこで、参考までに東京都の税条例を紹介します。(全国の他の市町村の条例も、東京都のものとほぼ同様です。)

東京都税条例136条の2(住宅用地の申告義務)

「法第349条の3の2第1項に規定する住宅用地(以下「住宅用地」という。)の所有者は、当該年度の賦課期日現在における当該住宅用地について、当該年度の初日の属する年の1月31日までに、次に掲げる事項を記載した申告書を知事に提出しなければならない。ただし、当該年度の前年度に係る賦課期日における当該住宅用地の所有者が引き続き当該住宅用地を所有し、かつ、既に申告した事項に異動がない場合は、この限りでない。
1.住宅用地の所有者の住所及び氏名又は名称
2.住宅用地の所在及び地積
3.住宅用地の上に存する家屋の所有者、所在、家屋番号、種類、構造、床面積、居住部分の床面積及び居住の用に供した年月日、住宅用地の上に存する住居の数(法第349条の3の2第2項に規定する住居の数をいう。)
4.前各号に掲げるもののほか、知事において必要があると認める事項」

 しかも、条例には、申告が無い場合は罰則(過料)が科される規定まであります。

東京都税条例137条(固定資産に係る不申告に関する過料)

「固定資産の所有者(法第343条第8項及び第118条第5項の場合にあつては、これらの規定によつて所有者とみなされる者とする。)が法第383条又は第136条の2の規定によつて申告すべき事項について正当な事由がなくて申告をしなかつた場合においては、その者に対し、10万円以下の過料を科する。」

◆固定資産税は申告に基づかない賦課課税方式

 ところで、固定資産税は申告に基づく申告課税方式ではなく、行政自らが調査し課税する賦課課税方式であることから、この申告義務との関係はどうなのかとの疑問が残ります。

 この件について判断された裁判例は、平成4年の浦和地裁判決及び平成17年の神戸地裁・平成18年の大阪高裁判決があります。

 浦和地裁判決では、固定資産税の条例による申告義務と賦課課税方式について、次のように判断されています。

 「固定資産税の賦課に関し必要な事項を申告させることができるとしたのは、納税義務者に対して右申告義務を課することにより課税当局において減税特例の要件に該当する事実の把握を容易にしようとしただけのものであって、右申告がないからといって、減税特例を適用しないとすることが許されるものではないことは課税の当局者にとっては見易い道理である。」

◆「過払税額」は何年間返還されるか

 まず、地方税法では、「還付金の消滅時効は5年」と定められています。

地方税法18条の3(還付金の消滅時効)

「地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定による還付金に係る地方団体に対する請求権(以下第20条の9において「還付金に係る債権」という。)は、その請求をすることができる日から5年を経過したときは、時効により消滅する。」

 しかし、上記の浦和地裁判決及び神戸地裁・大阪高裁判決はいずれも「市職員に過失があったとして、国家賠償法を適用して5年分を超える返還」を認めています。

 大阪高裁の判決では次のように判断されています。

「住宅用地の特例の適用の可否は、住民票、土地課税台帳等の資料及び実地調査等から認定することが可能であり、本件土地について、これらの手段によっても住宅用地の特例の適用の可否の判断に困難を伴うなどの特段の事情が存した旨の主張立証はないことからすると、本件土地について住宅用地の特例を適用せずに本件課税処分をし、それに基づき過大な固定資産税を賦課・徴収したことについては、市職員に少なくとも過失があったものと認められる。」

「住宅用地の特例の適用の有無に関する事項は、固定資産課税台帳の登録事項であること、同登録事項に関する争訟方法は、地方税法上、固定資産評価審査委員会に対する審査の申し出及び同委員会の審査決定の取消しの訴えに限定されていること、被控訴人が本件課税処分につき、これらの手続をしていないこと……これらはあくまで税法上の手続であって、法令上、これらの手続を経ない限り、国家賠償訴訟を提起できないという根拠は見出し難いものというべきである。」

 つまり、課税当局の処分に違法(過失)があった場合は、地方税法の原則である審査申出や取消訴訟を経ることなく、国家賠償法の請求ができるという訳です。

国家賠償法1条1項

「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」

 また、国家賠償法4条では民法の規定を準用していることから、不法行為の時効期間は最高20年となります。

民法724条 (不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)

「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。」

 つまり、課税当局の職員に過失があった場合は、「過払税額」は最高20年間遡って返還されることになります。

 では、地方税法で条例による申告の義務を認めている立法趣旨との関係はどうなのか、との疑問が生じてきます。

 大阪高裁では、この点次の判断がされています。

「住宅用地の所有者に固定資産税の賦課徴収に必要な事項の申告をさせることができるとしたのは、賦課課税方式を採用しつつ、調査等の過誤を防止するため、住宅用地の特例によって固定資産税の逓減措置を受けられる住宅用地の所有者に必要事項の申告義務を負わせることとしたものであって、その限りでは、法は、申告により利益を得られる者が申告しない以上、利益を得られなくてもある程度はやむを得ないという立場を採っているとも言い得る」

 大阪高裁では、このような趣旨から、申告がなかった納税者に対して、バランス(?)として3割の過失相殺を認めました。

◆市町村課税当局とどう交渉するか

 課税誤りによる「過払税額」は何年間返還されるかですが、地方税法18条の3の規定から5年間までは返還されることは、まず間違いありません。

 しかし、課税当局自らが5年を越えて「国家賠償法による損害賠償」を行うかどうかが問題になります。

 国家賠償法が適用される場合は、「職員の過失があった場合」とされていますが、この「過失」とは、「通常尽くすべき注意義務を尽くしていない場合」とされています。

 上記の大阪高裁判決では、この点を具体的に「住民票、土地課税台帳等の資料及び実地調査等から認定することにより、住宅用地の特例の可否を判断する」としています。

 例えば、冒頭の電話の方の場合、「事業を廃止して住宅用地に変わった」ことが、申告無しで課税当局が実地調査等で把握できるのかどうかという問題になる訳です。

 ところで、全国の7割ほどの市町村では「固定資産税過徴収金返還要綱」(市町村によって名称が異なります)を定めています。(正式な統計調査は無く、最近では廃止する市町村も増えているようです。)

 この要綱では、過失による課税誤りに対しては、地方税法の原則5年を超えて10年間分返還できるとされています。

 したがって、当該の市町村にこの要綱があるかどうかをまず確認してみることも、有効な方法でもあります。

 また最近のサイトに掲載されている市町村の記者発表資料を見ますと、行政当局が自らの誤り(過失)を認めて、(必ずしも住宅用地の課税誤りではありませんが)5年を超えて返還するケースもかなり見受けるようになっているのも事実であります。
 <浦和地方裁判所判決文(平成4年2月24日)>
 「浦和地裁判決文」 (←詳細はここをクリック)
 <神戸地方裁判所判決文(平成17年11月16日)>
 「神戸地裁判決文」 (←詳細はここをクリック)
 <大阪高等裁判所判決文(平成18年3月24日)>
 「大阪高裁判決文」 (←詳細はここをクリック)

固定資産税の見直し・引下げ

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