(69)中古家屋に対して新築時の評価が正しいかを検証できるか

 本号は、前号(68号)の「家屋データを廃棄して計算説明ができないN市の杜撰さと傲慢さ」に関連して「中古家屋に対して新築時の評価が正しいかを検証できるか」になります。

 繰り返しになりますが、前号のN市税務課の「『評価計算書』は廃棄したので無いが、評価は正しく行われている。」との説明は矛盾に満ちています。データが無いのに、何故「正しく行われている」と分かるのでしょうか?
 「正しく行われている」のであれば、「正しく説明すれば良い」のです。

 そこで問題は、中古家屋の納税者は、現在の基準年度において、新築時(過去の)価格に対して意見等を申出ることができるかということになります。

中古家屋の新築時評価の是非について

 家屋の基準年度の評価額は、一つ前の基準年度の価格(正式には「再建築費評点数」)を基礎として算定されています(在来家屋=中古家屋の評価)。この場合、建築当初の価格は見直しがされないことから、仮に建築当初の価格の算定に誤りがあっても、誤ったままの状況が継続してしまうことになります。

中古家屋でも新築時評価を争うことができる

 この点については、平成25年4月16日の東京高等裁判所において、新築時の審査を認める司法判断が示されています。
 この事例では、被控訴人(東京都)はN市と同じように、在来(中古)家屋の評価が適正であるので問題無いと主張したのですが、東京高等裁判所の判決では、新築時の評価が正しかったのか否かの証明が必要と判断されています。

 「被控訴人は,平成18年度価格についての不服として,本件家屋の建築当初の評価を争うことは原則としてできず,その評価を争うことができるのは,建築当初の評価において適切に評価できなかった事情がその後に判明した場合や,建築当初の評価の誤りが重大で,それを基礎に評価をすることが適正な時価の算定方法として不合理であると認められるような場合に限られるとし,このように解さないと,①建築当初の評価額についての争いをいつでも蒸し返すことができることになり,固定資産税の賦課決定処分の前提問題である固定資産税評価額を早期に確定させることによって法的安定性を招来しようとする地方税法の趣旨に反する結果となる,②当初の評価から時間が経過するほど,評価の対象となった建物には経年変化が生じ,また,補修や増改築等による変更が生じることが当然に予想され,そうなれば,当初の評価に誤りがあったかどうかを的確に判断することは困難になっていくことが当然に予想される,などと主張する。
 しかし,(中略)固定資産評価基準に従って決定された価格は「適正な時価」であると推認されるというにすぎない。このことは,その適用の誤りが,前記のような「建築当初の再建築費評点数の算出の誤り」である場合であっても,当該基準年度における価格の決定に影響を及ぼすものである限り,同様である。本件において,「建築当初の再建築費評点数の算出の誤り」は,「前年度(平成17年度)の再建築費評点数」に影響を及ぼし,ひいては平成18年度の価格に影響を及ぼすことが明らかである。(中略)被控訴人主張のような制限をすることはできない。」

 また、本判決において、建築当初の関係書類が廃棄されると、新築当時の評価が困難にになる、とも判断されています。

 「建築当初の評価から時間が経過すればするほど,評価の対象となった家屋には経年変化が生じ,修復や増改築等による変更が生じることが当然に予想され,さらには,建築当初の建築関係書類が廃棄又は紛失されることがあることも想像に難くなく,そうすると,時の経過と共に建築当初の評価に誤りがあったかどうかを的確に判断することは困難になることも当然に予想されるということはできる。

 <東京高等裁判所判決文>
 「東京高裁判決文」 (←詳細はここをクリック)

 この判決に対して、最高裁への上告がなされたものの、平成26年7月14日に棄却され、この高裁の判断が確定しました。

 この事例では、当然ですが、この家屋の新築当初の評価内容が課税当局から明らかにされているのが前提となっています。
 しかしながら、前号(68号)のKさんの場合、N市からデータを廃棄されたと言われてしまい、この判決の中でも懸念されているとおり、訴訟で争う手段も失われてしまっている訳です。
 更に、N市はデータを廃棄しただけではなく、Kさんに対してN市税務課の幹部から「もしこの家屋の評価が高いと思うならば、Kさん自身から計算して示してください」とまで言われているのです。「データを廃棄しているのに納税者としても「検証」できる訳がありません。
 そもそも固定資産税は、納税者の申告に基づかず役所が一方的に評価し課税する賦課課税でありますし、市町村税の約46%を占める重要な基幹税でもあります。
 このN市税務課幹部の発言は、賦課課税の責任を納税者に転嫁する、まさに杜撰さと傲慢さが感じられます。

今後の改善のための提案

大規模非木造家屋の評価は県が担当

 上記の東京高等裁判所の判決文にも「建築当初の建築関係書類が廃棄又は紛失されることがあることも想像に難くなく,そうすると,時の経過と共に建築当初の評価に誤りがあったかどうかを的確に判断することは困難になることも当然に予想されるということはできる。」とありますが、N市の対応はまさにこのとおりである訳です。
 しかし、大都市でない市町村(N市も含む)では、大規模の非木造家屋の新築評価は県(県税事務所)に委ねていることです。県と市町村の協定によっても異なりますが、通常は500㎡以上(N市の場合は300㎡以上)の非木造家屋がその対象です。
 その場合、評価データは実際に評価した県税事務所が保存していて、市町村では紙レベルの「評価計算書」のみを保有しているという場合が多いのです。また県税事務所では、不動産取得税の課税ですので、評価データはそれほど長期間保有していないと思います。

新築時家屋評価データの保存の必要性

 しかし、市町村の固定資産税の家屋(特に非木造家屋)であれば長期間の課税になりますので、データも長期間保有すべきです。 
 特に新築時の再建築評点数をどう評価したのかを所有者に説明するときにも必要ですし、仮に所有者が課税誤りに対して訴訟を提起した場合には必要な資料が存在しないことになってしまうのです。

 そこで、市町村にはぜひ次の2点を改善していただきたいと思います。

①県税事務所から市町村に送られる評価データは「電子データ」にしていただくこと。
(この点は種々課題もありますので両者の協定になります。)
②その評価データは「永年保存」か「家屋課税中は保存」にすべきこと。
(この点は市町村内部の判断で可能でしょう。)
 恐らく多くの市町村では、課税中家屋のデータは保存していると思いますが、敢えて「提言」させていただきます。