(59)課税誤りの還付金は何年分返還されるか(「過徴収金返還要綱」の在り方)

 先日、Aさんから次のようなご質問をいただきました。
 「X市の固定資産税(以下「都市計画税」も含む)の課税誤りがあったので、問合せ・交渉したところ、X市では課税誤りを認め、10年間の還付がされました。その際に『納税通知書、納付領収書があれば20年まで還付します』と言われましたが、そんな過去の納税した領収書など保存している筈がありません。これはどうしたら良いのでしょうか。」

 これまで過徴収金の返還年数は、第31号「固定資産税の課税誤り(過徴収金)の返還期間―原則的手続き」及び第32号「固定資産税の課税誤り(過徴収金)の返還期間―最高裁判決(20年間)」で紹介してきました。

 第31号では、次のとおりまとめた部分があります。
 『大まかに言いますと、①地方税法の規定による原則的手続による期間(5年)②地方税法417条と「過徴収金返還要綱」による期間(5年又は10年(20年))③最高裁判決による国家賠償による期間(20年)」です。』

 

 今回のAさんのX市の対応は、上記②の「過徴収金返還要綱」によるものとなります。

 しかし、この②の「過徴収金返還要綱」は、今や古い時代遅れの規定となっています。
 これまでは、全国の7割程度の市町村で定められていると言われていましたが、最近では『廃止をした市町村』若しくは『廃止を検討している市町村』がいくつかあるようです。

「過徴収金返還要綱」とは

 Googleで検索すると、「過徴収金返還要綱」を持っている市町村が多数あることが分かります。名称は、「固定資産税過誤納金補填金支払要綱」や「固定資産税過誤納金返還事務取扱要綱」など市町村により様々です。
 これらを見ると、多くの市町村の「過徴収金返還要綱」では、「還付不能額」となった額を返還する期間を最高20年まで(20年を限度として)とだけ定められていますが、この内容であれば問題はありません。

領収書等が必要な「過徴収金返還要綱」の例

 しかし、いくつかの市町村の「過徴収金返還要綱」には、返還の原則を10年としつつ、例外的に納税した領収書がある場合に限って10年~20年までの還付も可能とする、となっています。

 ここに、「領収書がある場合には対応可能」の「過徴収金返還要綱」例を紹介します。

(Y市の「固定資産税過誤納補填金支払要綱」より)
「還付不能額は、固定資産税台帳等によって算定するものとする。この場合において、還付不能額の算定は、原則として固定資産税課税台帳等の保存年限(10年)の範囲内となるが、納税者が所持する領収書等によって、還付不能額が確認できるものについても、算定の対象とする。」

(Z市の「固定資産税等過誤納返還金支払要綱」より)
「返還金の対象となる年度は、支払を決定する日の属する年度に保存されている固定資産税・都市計画税課税台帳及び国民健康保険税課税台帳(以下「課税台帳」という。)のうち最も古い年度分までを限度とする。ただし、納税者又はその相続人が所有する納税通知書、課税明細書、領収書、その他の課税及び納税に関する資料(以下「資料等」という。)により、当該物件に係る納付の事実が確認でき、かつ、還付不能金が算定できる場合は、課税台帳が保存されていない年度においても返還金支払の対象とすることができる。」

「還付不能額」とは何か

 ところで、「還付不能額」とは何か、某市の「過誤納金返還事務取扱要綱」では、「還付不能額」の用語が次のように定義されています。

 「還付不能額とは、固定資産税及び都市計画税に係る納付金で本来ならば過誤納金として返還を受けられるもののうち、法第17条の5第5項の規定に基づき減額若しくは取消しの賦課決定ができないこと又は法第18条の3第1項の規定に基づき還付請求権が時効により消滅したことにより還付できなくなった過誤納金に相当する額をいう。」

 つまり、地方税法では、固定資産税の請求権は5年で時効により消滅するとなっていますが、「過徴収金返還要綱」では、一定の場合には5年を超えて返還することも認めるとの規定になっている訳です。

「過徴収金返還要綱」の問題について

 要綱は、条例、規則のような議会の手続きを経ない市民への「拘束力」が伴わない市町村内部の取り決めという位置づけです。行政内部のルールとして定められているもので、古くから「要綱行政」などと揶揄されてきました。

 そもそも、この「過徴収金返還要綱」は何故存在するのでしょうか。
 第31号、32号でも記載したとおり、平成4年2月24日の浦和(現さいたま)地裁の判決により、国家賠償法による賠償が認められたことから、全国の(全てではないですが)市町村で「過徴収金返還要綱」が定められました。
 そして、平成22年6月3日の最高裁判決により「固定資産税の評価・課税誤りによる税額について国家賠償の請求を認める」との判断がなされ、決定的となりました。

 この最高裁判決によると、一定の要件の下では、地方税法上の審査請求や取消訴訟を経ることなく、国家賠償請求を行うことができ、固定資産税の過徴収金の返還期間は最高20年となります。

 この一定の要件とは、他の下級審判決等によると「職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことの無いような場合には、国家賠償が認められるような違法になる」と判断されています。この「職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことの無いような場合」とは「手抜きがあった場合」と解されています。

10年以上の還付に領収書等は必要無い

 そもそも固定資産税は、所有者の申告を必要とせず(償却資産は申告が必要)、行政が一方的に評価・課税をする「賦課課税」となっています。

 この賦課課税の考え方からすると、X市やいくつかの市町村の時代遅れとも言うべき「過徴収金返還要綱」で規程している「領収書等がある場合には10年以上の返還が可能」の規程は誤りであると言わざるを得ません。

 平成4年2月24日の浦和地裁判決では、住宅用地の届出を条例で義務づけている場合、住宅用地の届出が無い場合であっても、賦課課税であるため、現況が住宅用地であればそれを優先するとされました。

 この論理でいくと、賦課課税である以上、仮に市町村で「手抜き」同様の誤りがあった場合には、過去の領収書等の所持に関係なく、10年以上遡って還付することを検討すべきです。賦課課税として一方的に評価・課税した以上、誤りを認めるのであれば、その責任を納税者に転嫁するのはおかしいでしょう。

 いわゆる「手抜き」があったような固定資産税の評価・課税は、地方税法ではなく、ましてや市町村の「過徴収金返還要綱」によるのではなく、国家賠償法による20年間の返還が争われるべきである訳です。

※その後、Aさんから「X市から20年間の還付を受けることができました」との連絡がありました。