» 2015 » 1月のブログ記事

 前号では、平成4年2月24日浦和(現さいたま)地裁判決により、国家賠償法による賠償が認められたことから、全国の(全てではないですが)市町村で「過徴収金返還要綱」が定められたことを紹介しました。

 そして、この方向を一歩進めたのが次の最高裁判決でした。

◆最高裁(平成22年6月3日)判決<20年>

 平成22年6月3日の最高裁判決において「固定資産税の評価・課税誤りによる税額について国家賠償の請求を認める」との判断がなされました。この判決は名古屋高裁への差戻し判決ではありますが、事実上の最高裁の 損害賠償請求容認判決と受け止められています。

 この最高裁判決によると、一定の要件の下では、地方税法上の審査請求や取消訴訟を経ることなく、国家賠償請求を行うことができ、固定資産税の過徴収金の返還期間は最高20年となります。

◆事案の概要-冷凍倉庫の課税誤り

 これは名古屋市のある冷蔵会社が、名古屋市長の冷凍倉庫に対する誤った評価・課税に対して、不服申立手続を経ることなく国家賠償法により国家賠償を請求した事案です。

 この請求に対して、第1審(名古屋地裁)、第2審(名古屋高裁)ともに「国家賠償法に基づいて固定資産税等の過納金相当額を損害とする損害賠償請求を許容することは…妥当でない。」との判断のもと棄却されました。

 これに対して、冷蔵会社が最高裁に上告したところ、最高裁は国家賠償法による損害請求を事実上認めて、名古屋高裁への差戻し判決がなされました。

◆最高裁判決の主要部分

 ここに判決の主要部分を引用します。

 「公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは、これによって損害を被った当該納税者は、地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく、国家賠償請求を行い得るものと解すべきである。」

 「記録によれば、本件倉庫の設計図に「冷蔵室(-30℃)」との記載があることや本件倉庫の外観からもクーリングタワー等の特徴的な設備の存在が容易に確認し得ることがうかがわれ、これらの事情に照らすと、原判決が説示するような理由だけでは、本件倉庫を一般用の倉庫等として評価してその価格を決定したことについて名古屋市長に過失が認められないということもできない。」

◆冷凍倉庫の固定資産税評価

 最高裁での判決は上記の1件のみでしたが、全国的に多くの市町村で冷凍倉庫に対する同様の評価・課税誤りがあり、名古屋地裁・高裁管轄内でも複数の訴訟が提起されていました。

 実は、全国的に市町村における「冷凍倉庫」の定義がやや曖昧で、評価方針も必ずしも明確でなかったことにより、多くの市町村で評価・課税誤りが発生しました。

 冷凍倉庫は「塩素その他の著しい腐食性を有する液体・気体の影響を受ける」ことから、一般倉庫に比べて経年減点補正率(年数の経過に応じて生じる減価)が厳しく、評価額はおおよそ半額相当になります。ところが、「冷凍倉庫」の定義が明確でなかったことから、一般倉庫並みの評価・課税を行っていた訳です。

 筆者は当時、横浜市の固定資産税課長でこの問題を担当していましたが、反省を込めて当時の記者発表資料をここに掲げます。
※ 上記の最高裁への上告人による「上告受理申立書」において「横浜市のように単なる取扱の修正に過ぎない記者発表」と指摘されていますが、この記者発表資料にあるとおり「修正理由」を明らかにしています。

 「当時の横浜市記者発表」 (←詳細はここをクリック)

◆還付金返還の時効は20年

 この最高裁判決は、差戻し判決ではあるものの最高裁の事実上の判断と受け止められており、その後は行政実務でも本判決を尊重することとなっています。

 そして、過徴収金(還付金)返還の時効は20年になります。

 これは、民法724条により「不法行為による損害賠償の請求権は、不法行為の時から20年を経過したとき時効によって消滅する」との規定によるものです。

 では、いかなる場合に国家賠償の請求が認められるかですが、国家賠償法1条に「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」とあります。

 この最高裁判決では直接表現されてはいませんが、他の下級審判決等によると「職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことの無いような場合には、国家賠償が認められるような違法になる」と判断されています。要するに「手抜きはアウト」ということです。

 上記の判決要旨の2つ目は、最高裁にしては珍しく事実認定がされ、事実上「通常尽くすべき義務が尽くされていない」(手抜き)と判断されています。

 ですから、課税当局が「手抜き」により課税誤りがあった(と思われる)ときは、20年間遡って損害賠償請求していくことも考慮すべきなのです。

 しかし、あくまでも「通常尽くすべき注意義務を尽くしているかどうか」ということがポイントで、単にその評価・課税が間違っていたというようなレベルでは、取消訴訟で取消すべき処分になります。

 今号と次号で固定資産税の評価・課税誤りによって納め過ぎた場合、その過徴収金(還付金)は何年遡って還してもらえるかについて解説します。

 大まかに言いますと、①地方税法の規定による原則的手続による期間(5年)②地方税法417条と「過徴収金返還要綱」による期間(5年又は10年(20年))③最高裁判決による国家賠償による期間(20年)の3とおりになります。

◆地方税法による原則的手続<5年>

 地方税法では、徴収し過ぎた税金(還付金)の請求権は5年で消滅時効になる、つまり5年遡って還してもらえると定められています。

<地方税法18条の3(還付金の消滅時効)>

「地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定による還付金に係る地方団体に対する請求権は、その請求をすることができる日から5年を経過したときは、時効により消滅する。」

 ところで、固定資産税の納め過ぎの原因のほとんどは、課税当局の誤り(課税ミス)によるものと考えられますが、課税誤りが発見されるケースは、納税者等からの指摘によることがほとんどです。 

◆裁判所による取消訴訟<5年>>

 課税処分に不服がある場合は、裁判所にその処分を取り消してもらうための取消訴訟を提起しなければなりません。ただし、いきなり裁判所に取消訴訟を提起することはできません。

 まず価格の不服について固定資産評価審査委員会へ審査の申出を行い、その決定に不服がある場合に取消訴訟を提起できることになります。

 これが地方税法上の原則的な手続で、その流れは次のとおりです。

①固定資産税の納税者は、価格に不服がある場合には、納税通知書の交付を受けた日後60日までの間に文書をもって、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。(地方税法432条1項)

②固定資産税の納税者は、①の決定に不服があるときは、その取消しの訴えを提起することができる。(地方税法434条1項)

③取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から6ヶ月を経過したときは、提起することができない。(行政事件訴訟法14条1項)

 このように、地方税法による原則的な手続は、裁判所に訴える前に、まず固定資産評価審査委員会の決定を経る必要があるとされ、さらに6ヶ月と比較的短い出訴期間があることなど、手続には一定の制限があります。

 課税処分のような法律関係は早期に安定させるべきとの考慮から、このような限定的な手続が規定され、伝統的な行政法理論で言う「公定力」の考え方によります。

◆「重大な錯誤」による価格等の修正<5年又は10年(20年)>

 地方税法の原則的手続は上記のとおりですが、地方税法では特例規定とも言うべき規定として、「重大な錯誤」がある場合の「固定資産の価格等のすべてを登録した旨の公示の日以後における価格等の決定又は修正」が認められています。

 納税通知書が発送された後60日間の不服申立期間が経過した後は不服申立が認められませんが、その価格等について全く問題なしとしない場合もあり得るからです。

 そこで、設けられている規定が地方税法417条1項です。

<地方税法417条1項>

「市町村長は、…登録された価格等に重大な錯誤があることを発見した場合においては、直ちに…決定されたの価格等を修正しなければならない。」

 ここで「重大な錯誤」とは、虚偽の申告又は申請による誤算、固定資産課税台帳に登録する際の誤記、価格等を決定する際の計算単位のとり違い、評価調書における課税客体の明瞭な誤記又はその認定の誤り等、客観的にみて価格等自体の決定に重大な誤りがあると認められるような錯誤を言い、軽微な誤り程度のものは含まれません。

 つまり、このような重大な錯誤があれば、原則的な手続(審査の申出等)を経ることなく、市町村長は直ちに修正しなくてはならないのです。

 そして納税者は自分の資産であれば、縦覧期間(納税通知書発送後から第1期納期限まで)に限らず、通年いつでも閲覧することができますので、その市町村の窓口で、課税内容の説明を求めることも可能です。

 ここで価格等が修正され、過徴収金がある場合、「重大な錯誤」であれば、10年や20年もあり得ることになります。

◆「過徴収金返還要綱」による返還<10年(20年)>

 「過徴収金返還要綱」とは、市町村が独自に定めているもので、全国でも約7割程度の市町村で実施されていると言われています。(詳しい統計は不明です。)

 この要綱は市町村によって名称も「○○市固定資産税支払要綱」等必ずしも同一のものにはなっていません。

 この要綱の概要は、重大な課税誤りがあった場合、固定資産税の課税台帳の保存期間である10年を期限にして過徴収金を返還するというものです。また、市町村によっては、領収書等により確認できる場合は20年を限度に返還する要綱もあるようです。

 つまり、重大な課税誤りの場合は、市町村の判断で10年あるいは20年遡って返還するということになります。

 ところで、そもそも地方税法で「還付金の消滅時効は5年」とされているにもかかわらず、それを超える10年、20年とは一体何なのでしょうか。

 実は、市町村でこの要綱を持つようになったきっかけは、第9号「固定資産税の住宅用地の特例は申告が必要か」でも触れた、平成4年2月24日の浦和(現さいたま)地裁の判決でありました。

 浦和地裁の判決は「住宅用地は市町村条例によって申告が義務づけられているといっても、固定資産税はそもそも賦課課税であるため、課税当局は申告が無くても減額特例を適用する必要がある」(要旨)というものでした。またこの判決は、納税者が地方税法ではなく国家賠償法による国家賠償請求を認めたという事案でもありました。

 下級審ながらこの判決を受けて、市町村で独自に「過徴収金返還要綱」を定めるようになったと言われています。

 しかし、この「要綱」は、あくまでも要綱であって、条例、規則のような拘束力が伴わない市町村内部の取り決めという位置づけです。仮に予算の枠が不足していたら適用しないということもあり得る訳です。それも、必ずしも全ての市町村がこの「要綱」を持っている訳ではないのです。(次号に続きます)

固定資産税の見直し・引下げ

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